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ヒーロー?悪の方がいいに決まってる!!  作者: 小田和 リナシヲ
第2章 魔法学園:入学編
19/43

第19話 入学試験<後篇>

※本話は前話と合わせて前篇・後篇とする二部構成となります。


実技試験では何が起こるのか?


それではどうぞ。

―――朝 ヴァルキュリア城グラウンド内 試験会場


「あっ……。」


 ブース内に通された俺は出鼻を挫かれた思いがした。この間、裏路地で喧嘩した貴族のグレッグとすれ違ったのだ。相手も俺の事に気付いたのだろう。顔を見た瞬間、非常に渋い表情をしていた。しかし、何かつっかかってくる事無く、フンッと鼻を鳴らすと足早に立ち去る。


 中は小部屋一つ位の大きさで、向かい合うようにテーブル席に三人の試験官が座っている。受験者が座る為であろう小さな椅子がぽつりと置いてあり、その隣には水晶玉に電源コードをいくつも差し込んだような装置が設置されていた。


「それでは、537番ピーター・クロイツェフ君、前へどうぞ。」


「はい。」


「えーと、まずはマナ測定から始めようか。気を楽にした状態で、そのクリスタルの上に手を乗せてもらえるかな?」


 俺から見て右に座る眼鏡の男性が声を掛ける。教師だろうか?見た目はジョバンニに似た優男で、笑窪の似合う細目な奴だ。真ん中に居るのは、こちらも丸眼鏡をかけた中年のおばちゃんだった。黒いロープを着て学校指定の山高帽を身に着けている。少しふっくらとして安心感のある容姿だ。左に座っているのはまだ学生のようで少しソワソワしていた。


 水晶玉に近づき中を覗いてみると、光の加減で水晶の中身が液状であることに気付いた。ユラユラと漂う正体不明の物質が中でコードの先っぽに触れてている。言われた通りに手を置いた。


 暫くすると中の液体が回転しだした。


「どれ位手を置いておけばいいんでしょうか?」


「えーと、音が鳴るまで、そのままお待ちください。」


 左に座る、ゆるふわヘアーの女の子が机に置かれてある魔道具を覗き込みながら、こちらへ声掛けをしてくれた。先生達のアシスタントなのだろう。


 およそ2分くらいだろうか。水晶の中の液体はぐるぐると回転したままで、一向に止まる気配を見せない。それどころかその回転のスピードは、回り始めのころに比べ上がっている。また、透明だった液体は徐々に変色し濃い紫になっていた。


「ふむ、これは……見事な色付きですね。」


「それにマナ測量が終わらないとは……。」


「あのっ!先生方、こういう場合はどうしたら? 計器の数値が上昇しっぱなしで一向に止まらないんですけど。」


 水晶玉に乗せた手からマナが吸い上げられていく。吸い上げられる量は異なれど、まるでクリエを使っているかのようだ。


 一般的に魔道具は使い手が自身のマナを注ぎ込むことで魔法が発現する。しかし、一部の魔道具は、道具自ら使い手からマナを吸い上げようとしてくるものがある。それらの多くは、魔法発動に大量のマナを必要とするものばかりだ。


 例えばクリエの場合、創造したいものの大きさ、複雑さに比例してマナの消費量は爆発的に増えていく。その為、イメージの度合いが大きければ大きいほど、魔法発動時のクリエは腹を空かせた雛鳥の如く、「もっともっと」とマナを要求する。


 クリエのように意志を持たなくても、マナ消費の激しい魔道具は、魔法発動に備えてマナを蓄積しておこうとする。実際に使ってみたら、「マナが足りず発動出来なかった……」なんてことにならないよう、作られているようだ。


 この水晶玉もそういった原理なのだろう。


「それでは現状の数値を記載しておいてください。計測時間の横に、計測値が未だ上昇し続けていたことも書いておきましょうか……。ピーター君、手をどかして結構ですよ。」


 取り敢えず、マナの吸い取りから解放されたようだ。眼鏡の先生に言われた通り手を放す。身体に疲労感は残っていない。マナを実際に消費した訳では無さそうだ。


「12歳の若さ、しかもエルフや魔族ではなく、人間でこの結果は素晴らしいです。」


 山高帽を被って、丸眼鏡をかけたおばちゃん先生が、手元の紙を見て微笑みながら俺に話しかけてくれた。


「ありがとうございます。」


「それでは、面接を始めるとしましょうか? まずは簡単に自己紹介をお願いしようかしら。」


「はい、537番ピーター・クロイツェフです。レウマータから来ました。今年で12歳です。よろしくお願いします。」


「レウマータ?あのイチゴ村よね。」


 おぉ、喰い付いてきた。


「はい。そうです。」


「君の村で作ったイチゴのお菓子、先生すごく好きなのよ。君が入学した時には色々と頼むわね。」


 目をウィンクさせて俺に頼みかけてくる先生はチャーミングだった。


「グリンダ先生、まだ気が早いですよ。」


「ポール先生ったら堅いわよ。これだけのマナを保持する子ですもの、魔法の腕だって確かに違いないわよ。ねぇそうなんでしょ?」


 おばちゃん先生の名はグリンダというらしい。俺に好印象を持ってくれるのは結構だが、面接官としてそれでいいのか?


「評価いただきありがとうございます。魔法はジョバンニ様の指導・・で中級まで扱えるようになりました。」


 嘘である。本当は上級まで扱えるが目立ちすぎるのも良くない。


「中級ねぇ。その歳で中級魔法を扱えるなんてやっぱり凄いじゃない。」


 書き取りをするグリンダ先生とポール先生。グリンダ先生の手がふと止まる。


「ジョバンニ様ってもしかして、宮廷魔導士の?」


「はい、そうです。」


「いや~早いものねぇ。彼が家庭教師をやるなんて。先生、彼が小さい頃、ここで教えていたことあるのよ。」


 ニコニコしながら、こちらに話しかけてくる先生の表情はどこか懐かしんでいるようだった。


「自分たちとつながりのある受験生によく会いますね、ポール先生。」


「えぇ、そうですね。」


「そうか、もう10年以上前のことなるのよねぇ。時が経つのは早いわ。」


「ところで、君はどうして魔法学園に? あんなに優秀なジョバンニ君の下なら、わざわざ学校に入学せずとも魔法の勉強できるんじゃないかしら?」


 予測通りの質問だ。俺達の真の目的はここヴァルキュリアに『グランジェネシス』の支部を設立することであるが、そんなことは当然口に出せない。


「えっと、レウマータでは僕と同い年の子と一緒に魔法を習っていました。ヴァルキュリアでは、魔法の才能を高めようとする同じ志を持った同世代の子達と勉強することができるってジョバンニ様から教わりました。それに、学園の図書館には貴重な学術本が多くあるとも伺っています。」


 真剣な目つきで俺を見てくる面接官達。先生たちだけではなく、アシスタントの女学生も俺を見ている。……ここで負けては駄目だ。


「将来、どんな仕事に就くかは未だ決めていません。魔法を勉強するに素晴らしい環境のヴァルキュリアで、自分の魔法の知識と腕を高め、仲間と一緒にそれを探っていきたいと思います。」


 言い切った。ふぅ、緊張するぜ。俺の言葉を噛みしめているのか、面接官は俺を眺め続けている。長い静寂。


「へぇ、デケェ口叩く坊主がいるもんだ。」


 それを打ち破るように、背後から大きな声で語り掛けられた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あら、ブライ学長、どうされました?」


「おう、今年はどんなのが揃っているか知っておきたくてな。それとポール、お前の仲間が来たぞ。」


「マーティン様ですか!?」


「おぉ、ポール元気にして居ったか?」


 ブースに入ってきたのは三人、一人は俺よりも少し背の高い少女で残りの二人は白髪の魔導士だった。グリンダ先生の言葉を聞くにいぶし銀な感の人が学長らしい。


「こいつの実技は終わったのか?」


「まだ試験中です。見学するなら、あらかじめ言っておいてください。受験者も可哀相じゃないですか。」


「うるせぇ、俺を見た位で動揺するような奴はこの学園に居てくれるなってんだ。」


「全く……。では、一旦試験は中断しますか?」


「馬鹿言ってんじゃねぇ。俺に実力を見せるんだろ、坊主。」


 突然、話を振られた俺は勢いで首を縦に振る。


「よーし、試験内容はこうだ。自分の得意とする魔法を掌の上で披露しな。ものは何でもいい。但し、ブースの壁を超えるような魔法は繰り出さない事。」


「……やってみます。」


 目線に合わせるべく腰を屈めた学長は、俺を試すようにギラギラとした目つきで声を掛けてくる。学長の課題は一般的なものだったが、ピーター向けに改題をしていた。ブライは一目見てピーターの保有する無尽蔵なマナに気が付いていたのだ。そこで、敢えて彼の不得意とするであろうコントロールを試験に課した。


 ピーターなら得意な魔法を出せば、例えば火魔法を放てば、大人二人分位の高さの火の大樹を産み出すことが可能だった。しかし、ブースの壁は高く見積もっても、2メートル有るか無いか。ピーター自身、学長の意図には気付いている。面接官の望むような魔法を如何にして産み出すか。


「それでは行きます。マナよ、我が掌に火、土、風、水を産み出せ。<<カルテットダンス>>」


 俺は掌を上に片手を出す。まず、掌より少し大きめな正方形の土塁を発現させ、その上で火が舞う。やがて火は風にあおられ、炎の渦を産み出す。そして、小さな雨雲がそれを掻き消していった。


 土塁が雨雲ごと包み込む大きな球となって徐々に収束していく。最後には小さな急になって消え去った。


 一つの魔法を使うと、マナが一極に集中してしまう。故に、各々の魔法へマナを分散しつつ、ピーターは細かなコントロールをしたつもりでいた。


「凄いです!これって混合魔法じゃないですか!しかも4大魔法を同時に扱ってみせるなんて!4年生でもこんな事できる人いないですよ!」


 先生のアシスタントをしていた女学生がキャーキャーと褒めてくれる。


「いえ、それほどでも……。」


 俺は照れ隠しで謙遜したが、学長の表情を窺った。ブライは目を瞑っている。一体何を考えているのか。そして、後ろに立っていた女の子に声を掛けた。


「おい、嬢ちゃん。マーティンの弟子なら今ぐらいのこと、どうってこたぁねぇよな?」


「大事な師匠さんの前で、この坊主とうちの駄目女学生にお前さんの実力見せつけてやんな。」


 女の子は自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、不思議そうな顔をしながら前に進み出た。先ほどの女学生と同じぐらいの歳だろうか?


「えぇと。さっきと同じものでよろしいんですか?」


「細かなところはお前さんの自由にやりな。」


「師匠……?」


「うむ、やってみせい。」


 その子は俺と同じように手を突き出すと、<<カルテットダンス>>を唱える。土塁を作るところまでは俺と同じだったが、その子は俺とが違っていた。


 土塁の上に小さな家が建ち、周りには木々が生える。そして三人の人影、父親・母親・子供の泥人形がまるで命が宿っているかのように動き出した。しかし、雨が降り始め、彼らは家の中へ逃げ込んでいく。嵐は次第に強くなり、雨雲のせいでジオラマの中は暗くなっていった。


 やがて、その家から暖かな光が見える。中で火が炊かれたのだ。煙突からは黙々と煙が出ている。


 ……なんて技量だ。その女の子はミニチュアで俺達に劇を見せてくれた。


「いかがでしょう?」


 学長とその子の師匠以外、皆唖然とする。芸術的なコントロールだ。


「……凄い。」


「あぁ、すげぇさ。広い世界には、同い年でこういう事をやってのける奴もいるんだ。俺んところで学生やるなら、ちったぁ精進しろよ。」


 声を掛けられた女学生は恥ずかしかったのか、消え入りそうな声で「はい」と答えていた。


「それと嬢ちゃん、お前はお前なんだ。学生生活への憧れも分かりはする。だが、お前んとこの師匠はそういった事を教えられる技量を持っているんだろ。」


「お前は自分とそれを指導する師をもっと誇れ。そして、もっと自信を持ちな。」


 言いたいことを言い終えたのか、学長はこちらに向かって話しかける。


「で、坊主、どうだ? 綺麗ごとは抜きにして、お前は何を思う? そして、どうしたい?」


「……もっと自分のマナを支配コントロールして、力を付けたいです。」


「ほぉ。何の為だ?」


「それは……。」


 女の子の姿を見て、勢いで話してしまった。どう話せばいいものか、皆の目線が俺に集中する。迷った末、俺は本音を話した。


「俺は身近な人を守って、俺の力で皆を幸せにしたい。」


「だから、力がいる。皆に負けないよう、もっと強くなりたいんです。」


「漠然としてんなぁ、お前の力とやらはそんなに便利なのかい?」


「学長、彼は未だ12歳の受験生です。そこまで問い詰めなくても……。」


「……創る。」


「あぁ?」


「誰にも負けない力を手に入れて、誰もが幸せに生きられる新しい世の中を創りたい。それが俺の夢なんです。」


 あぁ、言っちゃった。こういう煽りには地球に居た頃から弱いんだよな。


「フンッ。そんなデケェ夢を語るなんて、お前のようなガキが語るにゃ半世紀は早ぇ。」


 ブライは俺の言葉を鼻でせせら笑う。それはそうだ。12の子供、いや地球の頃も合わせて、40もいかない若造が何を言っているのか。穴が有ったら入りたい。


「けれど、そんな事を言ってくるガキは初めてだぜ。」

 

 口角を吊り上げたブライの表情は、まるで悪巧みを考える子供の様だった。


「いいだろう、学長権限を使う。こいつの入学を許可・・しよう。……いや違うな、こいつの入学は決定・・だ。」


「「「!!?」」」


 周りの大人、全員固まる。ていうか、えっ? 俺、今、入学決まった?


「坊主、詳細は追って連絡するが、俺はお前を気に入った。それだけの魔法が使えるんだ。試験合格の基準は十分満たしている。むしろ、お前の実力は他と比べて抜きん出過ぎだ。学習方法から考えにゃならん。後で打ち合わせするぞ。」


 それだけ言うと、学長はそそくさとブースを出ていく。呆気にとられていた大人達だったが、マーティンと呼ばれた白髭の魔導士が慌てて後を追った。


「待つんじゃ、ブライ! 待つんじゃ!」


 それに付き添うように、俺達に向けてぺこりとお辞儀をした後、マーティンの弟子がブースを出ていく。


「ハハハ……。え〜と、ピーター・クロイツェフ君、追って連絡有るみたいだから、今日のところはこれで終わりね。」


「他の受験者がいる手前、大きな声では言えないけど……。試験合格おめでとう。」


 丸眼鏡がずれつつも、グリンダ先生は俺に微笑みながら祝辞の言葉をくれる。


 余りの急展開で思考が追い付かないまま、俺の王立ヴァルキュリア魔法学園への入学は決定した。


 え?


 マジで?

無事(?)試験に合格したピーター。


学長に目を付けられた彼の学園生活はどうなることやら。


※引き続きお読みいただけると幸いです。

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