第14話 エルフとの出会い
1話につきこれ位が丁度いい文量なのでしょうか?
冬の寒さが消え、春の陽気が訪れ始めた今日この頃、俺達はヴァルキュリアへの道のりを進んでいた。約1週間の旅路でようやく半分程を過ぎたところか。今晩の目的地である宿場町ミサクーチには日の入りまでに着けるだろう。
「最初は旅も良いモノかなと思ったけど、歩くばっかりで退屈ね……。」
「ヴァルキュリアまでは王都以上の距離があるんです。こればっかりは仕方無いですよ。」
ミーナを諭すジョバンニ。俺も口には出さなかったが、ミーナの意見に同意したい。初めは、旅というワードに心踊らされていた。しかし、道中は歩きか馬車の車中ばかり。何も変わったことは起きず暇を持て余していた。山賊や魔物と遭遇する可能性も捨てきれなかったが、そんなスリリングな体験をすることもなく平穏無事だった。
「これ位で暇とは……、妾なんて数十年同じ場所にいたのだぞ。」
「貴方と人間とは違うのよ。」
魔法使いの杖のように、俺はクリエを腰のフォルダーに入れて吊り下げていた。柄の部分に例のスピーカーをはめ込んでいるので、会話を楽しむことが可能になっていた。
「ところで、ミサクーチってどんな街なの?」
「今日泊まる宿があるミサクーチという街は交通の要所となっています。今まで立ち寄った街よりも大きいですね。」
「私たちの村と同じ位かしら?」
「いえ、人の数はもっと大きいですね。王都とヴァルキュリア、それに最近では観光地となった皆さんの村への繋ぎ目の役割を果たしていますから。他の街に行くにもミサクーチは通らなくてはいけないですからね。」
俺達の村って、本当に大きくなったんだよな。帝国と休戦協定が結ばれてからは、他の地方からも人が来るようになったし、時には帝国から旅人がやって来るようにもなったりしていた。そんなことを思いながら歩いていると、遠くの方で何か光ったような気がした。
「誰かが攻撃魔法を撃っとるぞ。マナの乱れを感じる。」
「あぁ、誰かが戦闘しているようですね。なにやら小さな子供のようですけど……?」
「ちょっと様子を見てみようか? マナよ、我に力を。<<エクステンド>>」
俺達は自身に強化魔法をかけ、急いで様子を見に駆け出した。
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「はぁ、はぁ……こんなところで魔物にあうなんて。」
目の前にいるのは大きな赤熊だ。長閑な田舎道だと思って油断していたら急に襲い掛かってきた。先ほどから得意な風魔法をぶつけているのだが、なかなか効果が上がらない。思っていた以上に強い。
「マナに導かれし風よ、我が武器となれ<<ウィンドカッター>>!」
目に見えない風の刃が赤熊に襲い掛かる。けれども、それが魔物に突き刺さることは無かった。赤熊はその名の通り、見た目の赤い熊の魔物だ。その毛並みの赤さは魔力が体外へ表出している証拠である。体内で生成したマナを火に変えて、対象が倒れるまで攻撃してくる。普通の個体であれば、手や口から火を吐く程度だ。
しかし、目の前のデカブツはそれ以上の存在だ。
野生動物は火に対して恐れを抱くものである。けれども、この魔物は全身の毛先から大小の火を灯し、炎の鎧を作り上げていた。まさに火だるまである。
赤熊にしてみれば、自身の制御に問題が無い限り、自らが生み出した火は恐れの対象ではなかった。それどころか、赤熊にとって誇示すべき力の象徴であり、使って当然の代物だった。
動物と魔物の違いが顕著に表れている。小さなエルフの少女は冷たい汗を流しつつ、冷静に相手を観察していた。炎に身を包みながらも、赤熊の目は自分の姿をしっかりと捕らえていた。
「そのマナで強化された炎が、私の魔法を打ち消したのかな……。」
(里にも時々、赤熊は出たことがあるらしいけど)
(こんな強いの、私が初めてなんじゃないッ!)
エルフの少女が次の一手を案じていたその瞬間、炎を身に纏った巨体が突進してきた。当たりの草は一瞬で燃やされ、勢いよく距離が狭まってくる。赤熊の特攻に少女が動揺していた時、自分に向かって来ていた筈の敵の身体は、突如、横へ吹き飛んでいった。私もその風圧に巻き込まれ、身体が後ろに仰け反ってしまう。
「きゃっ!」
戦闘になるつい先程まで、この視界の開けた更地に人影などなかった筈だ。もしも、人を見つけていれば、直ぐにでも助けを求めたことだろう。自分より格上の魔物と遭遇して、一人で対峙することに喜びを感じられる程、少女は馬鹿ではなかった。巷の勇者気取りの愚かな奴と自分は違う。そんな彼女が戦いに身を投じたのは、逃げられず対峙するほか無かったからである。
そんな彼女の前に3つの人影が現れた。一人は赤熊相手に拳を見舞ったであろう白いロープを纏った大人。他は自分と同じくらいの背丈の子供だ。
「ありがとう……?」
エルフの少女は戸惑いを隠せなかった。大人も子供も皆、大きな魔力を有している。見た目から判断するに3人とも人間の筈である。自分の種族と同レベルにマナを保有する人間など見たこと無いし、話しも聞いたことがなかった。
「まだ安心しないで。あの大きな炎の熊、生きているみたいだから。」
男の子が赤熊が吹き飛ばされた方向を見ながら話しかけてくる。10メートル位、離れたところで赤熊は首を振りつつも、姿勢を立て直していた。若干、ふらついているのか、左右に身体が振れている。それでも、闘志は冷めていないようで、身体の周りを囲っている炎は消えることなく、少しずつ近づいてきていた。
「ジョバンニの攻撃を受けて立ち上がるなんて相当タフな奴ね。あんたも、見習いなさいよ。」
「えぇっ!?このタイミングで言わないでよ、ミーナちゃん。」
「ピーターも退屈していたんでしょ?あの魔物を私達も手伝って仕留めるわよ。」
目を輝かせながら話しかけてくる人間の女の子。それに対して、肩を落としながらも私の横で立ち上がる。尻餅をついてしまっていた私に対して、手を伸ばし立ち上がらせようとしてくれている。
「手に捕まって……、えっと、君の名前は?」
「わ、私はエレナ。」
「エレナちゃん、よろしくね。」
ニッコリと笑いかけるその笑顔は、今までの緊張感をほぐすには十分だった。少しだけ涙が垂れる。
「大丈夫?どこか痛いところでもあった?」
急におろおろとする人間の男の子を見て、可愛く思ってしまった。
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先ほどまで、赤熊と呼ばれる魔物と戦っていたのはエレナという少女だった。エレナの耳は長く先が尖っている。
<<この娘エルフじゃな。しかもまだ若い。お主等と同じくらいの歳じゃろう。>>
この世界に来て初めて俺はエルフに出会った。この世界のエルフの寿命は個人差はあるものの大体300歳位らしい。大体のエルフは幼少期を人間と同じ位のスピードで成長していき、徐々に老化の度合いがおさまっていく。どのタイミングで人間の成長と異なって来るかは個人の間で大きな差があり、子供の姿をした80代のエルフもいれば、30代くらいまで人間と同じように歳をとってしまうエルフもいるらしい。その為、エルフの容姿は見た目で判断することができず、「エルフの歳を当てようとするな」と、無理なことは諦めろといった意味の諺まである様だった。
<<マナを風に変えて攻撃しよったか。やはり魔法だと悪手になるのかのう。>>
(さっきの<<ウィンドカッター>>ってもの凄く威力がありそうだったけど、なんで効かなかったの?)
<<うむ、攻撃力自体に問題はない。問題はあの炎への魔法攻撃じゃ。>>
<<魔法とはマナが変質し実体化したものじゃが、マナより変換されたばかりの魔法、つまり、放たれたばかりの魔法は実体として定着度が低く、状態が不安定となる。>>
<<あの赤熊は感覚で理解しておるのじゃろうな。奴は炎へマナを混ぜ込むことで、魔法耐性を高めておる。>>
<<あの炎は決してこけおどしではない。マナを相殺させる魔法効果軽減の役割を果たしておるのじゃ。>>
だから、ジョバンニの攻撃を受けても立ち上がることができたのか。普通の魔物であれば、身体が吹き飛ぶに留まらず、爆散してしまっていたことだろう。
「けれども、要は俺と同じって事だろ?」
「えっ?」
エレナが怪訝な顔をするのを横目に、俺は赤熊へ駆け出した。ジョバンニとミーナちゃんへ目を配ると、二人とも何らかの魔法を唱えているようだった。
<<奴らはマナを水か何かに変えようとしているみたいじゃ。お主の高純度のマナ精製を期待しての一手じゃな。>>
遠くで何か叫ぶエレナを尻目に、俺は魔物の前に立ちはだかる。再び、小さな子供が現れた赤熊は次こそは仕留めようと、口元に大きな火球を作り出し俺に向かって吐き出してくる。
「熊がドラゴンの真似ごとなんてするなよなっ!」
俺は自身のマナを自身の周りを囲むように精製した。火球が俺に近づくと、まるで何かに齧られていくかのように、火球そのものが削られていく。俺には熱風しか来ない。但し、その熱風も風魔法により吹き飛ばしている為、本来の温度より相当低くなっている。
赤熊は何が起こったのか分からなかったようだ。しかし、俺の表情に余裕を読み取ったのか、再び、火球を吐き出してきた。
<<ジョバンニとミーナの詠唱が終わる。奴のマナをお主のマナで塗りつぶのじゃ!>>
「マナよ、炎を吹き飛ばせ<<グランゲイル>>」
火球が膨大なマナを含んだ突風にかき消され、赤熊へと向かってゆく。赤熊は身の危険を察知したのか、自身の鎧の火力を高め身を伏せる。まるで、火でできた剣山か、あるいはハリネズミかのようだ。けれども、俺が起こした風の前にその鎧は意味を成さない。
「ヴォオォォォ!?」
大きな鳴き声とともに、炎の鎧は剥がれ落ちるように消えていく。俺の起こした風魔法が、奴のマナを相殺したのだ。普通の人間であれば、それは一瞬のことであった筈だ。しかし、膨大な高純度のマナが濁流となって赤熊を飲みこむ。ガスバーナーに灯っている火は息を吹きかけても消えることはないだろうが、不燃性の気体をジェット気流で吹き続けるのとでは話が異なる。
<<グランゲイル>>を喰らい続けて、吹き飛ばされない赤熊の耐久力は賞賛すべきだが、奴の敵は俺一人では無い。
「皆、後は頼んだ!」
「「マナよ、水となりて敵を撃て!<<ウォーターストリーム>>」」
<<グランゲイル>>を正面から放たれ、左右から<<ウォーターストリーム>>を受ける。水と侮ることなかれ。ジョバンニは勿論のこと、ミーナちゃんの威力も馬鹿にならない。消防車から出る消火ポンプ以上の水圧を左右から受け続けるのだ。
赤熊の身体はあちこちでミシミシと嫌な音が鳴っていた。頑丈な筈の自身の骨が折れていく。しかも、水に囲まれている為、碌に息もできない。正体不明の風と、止むことのない水流に、赤熊は叫び声を上げることすら許されず、その生を終えるのだった。
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「あっ、あの……改めてありがとうございます。」
「なんてことないわよ。つまらない旅路のいいスパイスになったわ。」
カッコいいこと言うなぁ。ミーナちゃんはスポーツで良い汗かいたような感じで喋っていた。ハイになっているのだろうか。
「皆さん、優れた魔法使いなんですね。あんなに凶暴な魔物を仕留められるなんて……。」
村から離れた森で何度か魔物と戦った経験のある俺とミーナだが、やはり相当な強さの魔物だったようだ。
「それに、人間の方でそんなにマナを保有していらっしゃる方なんて初めて見ました。」
「君はエルフだから、マナの扱いに詳しいんだね。」
「そうなんですかね?」
「私もマナを見たいんだけど難しいのよ……。」
村で魔法を練習していた時、ジョバンニからマナの流れの見方を教わっていた。俺は比較的早く覚えられたものの、ミーナちゃんはどうにも苦手であった。
「ところで皆さん、どちらまで行かれるんですか?」
「俺達はヴァルキュリアの魔法学園に行くんだ。」
「もしかして、生徒さんですか!?」
顔つきの変わるエレナさん。俺やミーナより少し背が高く、エルフ独特の民族衣装を着込んでいた。肌寒さを抑える為であろうロングコートや鞄は周囲に飛び散らかっている。うーん、エルフの民族衣装はゆったりしていて、樹木をあらわすかのような黄緑色。しかし、そんな服からも分かるエロティックな肢体。そんなエレナちゃんの姿は、俺の視線を釘付けにするに十分であった。
<<むっつりどスケベめ。>>
何か幻聴が聞こえた気がするが、この場は無視しておく。
「いえ、彼らはこれから入学試験を受けに行くのですよ。ちなみに、私は彼らの付き添い。学校の先生とかではないので悪しからず。」
「それじゃあ、私と一緒ですね。」
長い髪をなびかせながら笑うエレナ。彼女の笑顔は癒し系の部類だな。
「あなた一人でヴァルキュリアまで?」
「えぇ、私も入学試験を受けようとヴァルキュリアへ前乗りを考えていまして。風魔法を使ってここまで飛んできたのは良かったのですが……。運悪くあの赤熊に遭遇してしまい……。」
相当な引き当て方をしてるな。1週間以上平穏な旅をしていた俺達とは大違いである。
「もしよかったら、貴方も一緒にヴァルキュリアまで歩いて行かない?」
「えーと、お誘いは嬉しいですが、宜しいのですか?」
「構わないよ。君が急ぎでなければね。」
「俺達は歩きで後一週間位は旅を続けるつもりだったから。」
「旅ですか。なんだか、素敵な感じですね! 私も是非ご一緒させてください。」
頭を下げてくるエレナに、俺達は彼女を迎え入れた。
<<新しい出会いは旅の醍醐味じゃ。一期一会を大事にせい。>>
新たな仲間とともに俺達はヴァルキュリアへの道を進んでいった。
新しい仲間エレナが加わった。
ピーター一行のヴァルキュリアへの旅路は続く。
拙い文章ですが、引き続き読んで頂けると幸いです。




