第13話 ヴァルキュリアへの旅立ち
本話から新章へ移ります。
帝国軍が襲ってきたあの事件から4年の月日が流れた。
あの日以降、村は「グランジェネシス」の施政下に入っている。しかし、それを気にする者は誰もいない。なぜならば、「グランジェネシス」は村人達にその存在を微塵も感じさせなかったからだ。基本的に俺達は表舞台に立たない。4年間で組織からの指令はほとんど出していないし、それ自体、領主のアストラージ家から発行されるお触れの中に小さく紛れこませた程度に止めている。村人にエンスピード王国を裏切るような行為を命令することは一切していない。
イチゴ栽培の件に関しては、ミーナの家の人にしか伝えていないが、皆、「グランジェネシス」が関わっていることに気が付いているようだ。栽培している品種自体、俺が地球に居た頃に食べたことのある糖度の極めて高い高級イチゴをクリエに創り出してもらった。また、冬でも栽培できるようにする為、この世界に存在しないビニールやその他諸々も創ってもらっている。出所が何処なのかは、考えるまでも無かったのかもしれない。
ジョバンニが王都でこの村を紹介して以降、貴族の間で口コミの噂が広がり、この村のイチゴは王都向けに飛ぶように出荷されていった。かつては何もない静かな田舎だったが、全国各地から人の出入りが増え、最近では観光地のようになってきている。結果、村人のほとんどが何らかの形でイチゴ産業に携わるようになった。
ただ、有名になった分、その弊害も出てきた。俺達の村の成功を妬んだ豪商や、商業ギルドから目を付けられ、何かとちょっかいが出るようになったのだ。彼らの配下であろう人間が、一時は毎日のように泥棒や産業スパイとしてやって来ていた。
農場やビニルハウスの組立工場への侵入を試みる賊はアグネに退治するようお願いしてある。始めのうちは、闇夜に紛れアグネジャの姿となって、賊を追い払っていたようだが、村人からの信頼も厚かったアグネは「みんなが大事に育てたイチゴを盗むなんて許せない」と皆に協力を仰ぐようになった。昨年からは昼間でも彼女を中心とした村の自警団が見回りをするようになり、怪しい奴らに目を光らせている。アグネの人徳のおかげで大分楽が出来ている。
あと、「グランジェネシス」の戦闘員にも、村の皆に秘密で夜のパトロールをさせている。アグネが矢面に立ってしまい、夜の活動に制限がかかった為だ。特に、カメレオン怪人のガマグチ君にはよく働いてもらっている。彼の透明化スキルは隠密行動にうってつけだった。彼は賊が油断している瞬間を見逃さず、賊自身気付かないうちに縄で縛り上げ、多くの輩を捕縛していた。捕まった奴らの多くは幽霊にやられたと騒いだが、村の皆からは世迷言だと一蹴された。
例え、村の外から犯罪者の引き渡しに騎士団がやって来ても、村人は賊の証言は狂っていると碌に調べることは無かった。
何度同じようなことが起きようとも、村人の態度は変わらなかった。
村は完全にこちらの味方となっていた。
ところで、そんな大活躍のガマグチ君に何か報酬はいるか尋ねたところ、彼曰はく「親父や姉御の役に立てるんなら、あっしにとっちゃそれだけで本望でさぁ……。」と、なんとも任侠な答えを返してくれた。うん、俺はこういう漢になりたい。
一方、俺やミーナは勉学と魔法の練習に励んだ。4年の間で二人とも背丈は伸び、俺は少年から青年へとかわりつつあった。ミーナちゃんは、幼女っぽさがなくなり、女性らしさが表れてきたように思う。出るところは出て……。あっ……。いや、胸囲についてはまだまだこれからだ。
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―――クロイツェフ家 居間
「ピーターはこれからどうするつもり?」
「そうだなぁ。」
俺は迷っていた。今後の進路についてだ。
「ミーナちゃんは?」
「質問を質問で返すんじゃないの。まぁいいわ。……私はこの間、両親に魔法学園の事を話したわ。」
「取り敢えず入学試験を受験することについてOKを貰えたのよ。受かるかどうかはやってみないと分からないしね。」
「そっかぁ、俺も話さなきゃなぁ……。」
12歳を迎えた俺達は、王国が運営する学校への入学試験の資格を得る。王国は優秀な人材を多く確保する目的で、入学資格に人種・身分を不問としている。民間運営の学校や特殊な貴族の養成学校等、一部例外はあるものの、12歳の児童は国の礎となるよう勉学に励むよう推奨している。更に、貧富の差も考慮して、王国お抱えの学校は奨学金や支援金の制度も多く、優秀な生徒であれば、学費が免除されるケースもあるようだ。
俺達はジョバンニから、そうした王立学校の一つ、ヴァルキュリア魔法学園への受験を勧められていた。世界はこの田舎町だけじゃないんだから、見識を広める為にも進学すべきと、大人の意見をもらっていた。
「グランジェネシス」という組織を強固にする意味でも、俺達の入学は丁度いいチャンスだった。
現在、ジョバンニを除けば、幹部も戦闘員も全員がこの村を拠点としている。アグネジャはアグネとして、ガマグチ君のような戦闘員も、普段は魔族のような容姿ではなく人間体でこの村に居住している。もしも、彼らの存在が明るみに出て、この村が奇襲を受けた場合、一網打尽となってしまう。リスク分散の為に、王都とこの村以外に新たな拠点を作る必要性があった。
「相変わらず優柔不断じゃのう、我が主殿は。」
「仕方無いだろう。こう見えても総統っていう役職についているんだ。本拠地からボスが抜けるって結構な問題じゃない?」
「お父様は心配し過ぎです。私がこの村に入れば、組織の運営に支障はきたしません!」
「一番、お前が不安だよ……。」
「ほえ?」
俺はアグネを筆頭に「グランジェネシス」の実働部隊が露見してしまうのが一番恐ろしかった。帝国や王国では、謎の魔族達ということで、素性を調べるのに躍起になっている。彼らの活躍のお陰で、「戦争なんぞしている場合じゃない」と両国は判断し、一時的な休戦協定を結んでいた。戦争が止まって、まぁ良かったものの、狙われの身となっているこっちにとってはたまったもんじゃない。
そして、さらに厄介なのが魔大陸にやって来る魔王軍だった。彼らは「魔族の誇りにかけて」と称し、はぐれ魔族と思い込んでいる「グランジェネシス」のメンバーをつぶしにかかってくるのだ。
帝国に王国、そして魔王軍と3者から狙われている状況で、余り危険な真似はしたくない。
「主殿は『まざこん』とやらなんじゃろ?母上からの乳離れが出来んのじゃ。」
「い……!?」
「ピーター、あんたお母さんのこと心配していたの?」
クリエからの指摘に思わず、言葉が詰まった。
「いや、俺は総統としてだな……。」
「お主、動揺して体内のマナが乱れておるぞ。」
「マジか!?」
「あんたねぇ……、もう私達12歳よ。いい加減、親から離れなさいよ。」
「アグネだってもう4歳になります。お父様やお母様の事は大好きですが、居なくたってへっちゃらです。」
胸を張るアグネの乳はホルスタイン級である。それに比べ、ミーナは……。
「な、何よ!?その憐れむような目は?」
「と、ともかく、あんたが決めることなんだから、とやかくは言わないけど、試験まで2月位しか無いんだから、早く決めちゃいなさいよね。」
……
ミーナが帰り、俺は昼の会話を思い出していた。
『後、一度クレアさんには話して相談した方が良いわよ。「グランジェネシス」とは関係なくね。』
『分かった。今晩、話してみるよ。』
『えーと……』
『?』
『私はできれば一緒に行きたいからっ!』
俺は色んな思いに悩まされていた。ミーナの言う通り、俺は独り立ちすべきだった。地球に居た頃から、母さん離れが出来ていない『まざこん』で、安定した生活を捨てたく無かった。そんな屑みたいな俺を、ミーナはこの4年間、好意をもって接してくれた。そんな彼女が俺と一緒に居たいと言ってくれたのだ。
それだけじゃない。組織の長としての義務もある。アグネは親離れだと声高に言っているが、やっぱり不安だ。ドジっ娘だからじゃない。俺の娘だからだ。戦闘員と一括りにしているが、「グランジェネシス」のメンバーは皆、家族みたいなもんだ。切り離して考えるのは無理というものだ。
そんなことを考えてベッドの上で寝ていると、コンコンとドアがノックされた。
「はーい。」
「ピーター、少しいいかしら?」
俺は母さんを部屋へ入れ、椅子の上に座った。母さんはキョロキョロと俺の部屋を見回した後、ベッドへ腰かける。
「お父さんと違って、ピーターは魔法一筋だったわねぇ。」
本棚を見ながら俺に語り掛ける母さんは少し寂しげだった。
「父さんはどんな人だったの?」
「あの人は冒険者をやっていたわ。私と出会った頃、俺は大陸一の剣士になって魔王を討ち取るんだって、息巻いていたわ。」
「だから、剣を何度も何度も振ってね。わざわざ私の前で見せつけなくてもいいのに。きっといいところを見せ付けたかったのね。」
母さんはフフフと微笑みながら、俺の方に目をやる。
「剣と魔法の違いはあるだろうけど、女の子にはいいところを見せようとしなきゃ駄目よ。ピーターはミーナちゃんのことどう思っているの?」
……直球ですなぁ、母上。
「ミーナは俺とずっと幼馴染で、気さくに喋れる女の子で……」
「御託は良いのよ。ピーターはミーナちゃんのこと可愛いと思わない?」
「そりゃあ、可愛いさ。ずっと慕ってくれるし、俺に優しいし……」
「それって、私に対する気持ちと同じじゃないかしら。」
「えっ?」
「ピーター。女の子はね、男の子に甘えられたいだけじゃなく、甘えたくもなるものよ。」
「もしも、ピーターがミーナちゃんのこと可愛いと思うなら、守ってあげなきゃ。」
「でも、どうやって……?」
「ふ、簡単な事よ。あなたがミーナの騎士になればいいじゃない。」
母さんはベッドから立ち上がり、俺の方に向かって語った。
「ミーナちゃんと同じ学校へ行きなさい。これが親として最後のお願いです。後は貴方の自由にすればいいわ。」
ぽかんとしている俺を尻目に、部屋を出ていく母さん。
「良き母をもったのぅ、我が主殿は。」
「……うっさい。」
俺は一言そういって、ベッドの上にダイブした。騎士ねぇ……。
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―――1月後 村の出口
「お、どぅ、ひっぐっ……ごじゅじんざまぁ〜!!」
早速泣いているし。あんだけ、家で話していた時は「笑って見送るのが礼儀なのです!」なんて豪語していた癖に。
「もう泣くなよ。こっちが恥ずかしくて仕方ないじゃないか。」
「まぁピーター君、そんなこと言わないで。彼女の気持ちを尊重してあげましょう。」
今回の入学試験にあたって、ジョバンニが付き添いの役目を買って出てくれてた。今日、彼がこうしてこの村にいるのは「グランジェネシス」の報告定例会もあった為だが、前々から王都では、魔法の才のある俺とミーナの面倒をみる事を口実にしてこの村を訪れていた。月一位であれば何も疑われはしないだろう。
また、なんだかんだ言って、彼は国内指折りの魔導士なのだ。宮廷魔導士のお墨付きをもらっている人間であることが学園に知られれば、きっと試験も有利になる。この同行はそういう打算的な意図も含まれていた。後ろめたさを感じなくはないが、こっちも家族の命を背負っている身だ。これ位のことなら、いくらでもやってやる。
「うん、ぐすっ……ぞうよ。私だってアグネと離れたくないわよ。」
「ミーナさ〜ん!!」
ミーナに抱き付くアグネ。ちょっと大げさすぎやしないか?村の皆も見送りに来てくれているのだが、アグネの涙を見たせいか、もらい泣き続出中である。普段は威厳のあるミーナのパパさんまで、ハンカチで目元を押えだしている。別に、今生の別れでもないだろうに……。
<<それが人情というものじゃ。出会いと別れがあってこその人生よ。>>
クリエさんが達観したことを述べていると、クレア母さんが俺の方に近寄ってきた。
「母さん。俺、これでよかったのかな?」
「えぇ、ピーターは立派な男にならなきゃね。まずは小さなお姫様を守る騎士からよ。」
「前から気になってたけど、なんで騎士なの?」
「お父さんの口説き文句よ。」
「俺は君を一生守る騎士になりたいっ……てね。全く、なんで先に逝っちゃったのかしらね?」
呆れたように話す母さんを見て、思わず笑ってしまった。
「ピーターも約束よ。ミーナちゃんを守る騎士になる以上、彼女に心配かけたり、寂しい思いさせたりしたら承知しないんだからね。」
「分かったよ。母さん。一生かどうかまでは分からないけど、魔法学園から戻ってくるまでは騎士としての役目を果たすよ。」
俺の目を見て大きく頷きを返すと、皆の方へ戻っていった。
「それじゃあ、別れの挨拶はすんだようだね。じゃあ、行ってきます。」
ミーナ、ジョバンニ、俺、そしてカバンの中に入っているクリエは村を出発した。目指すは王国第二の魔法都市ヴァルキュリアだ!
ヴァルキュリアへの旅路はどうなるのでしょうか?
引き続きお読みいただけると幸いです。




