第11話 イチゴパンツは蜜の味
9話位の文字数であること、ご容赦ください。
あの事件から数カ月が経った。帝国軍が去った直後は、村の皆はこれからどうなるんだろうと不安がっていたけれど、何の変化も無かった為、また元の暮らしに戻っていった。
変わったと言えば、帝国軍と一緒にいた元王国民の奴隷たちが新たな住人になったこと位か。リトナ村の人たちは大半が帝国本国へ移送されていたけれど、若い男女合わせて20人ほどの奴隷がいた。
辛い思いをしてきた彼らのことを労い、皆、村の新たな仲間として快く受け入れた。ちなみに、奴隷だった人達が首に取りつけられていた隷属の魔道具は、アグネがぶちぶちぶちっと怪力で壊してしまった。
隷属の魔道具は対象(奴隷)の所有者が許可しないと、外れないようになっている。奴隷は魔道具を外そうにも外せない。魔道具外そうとする前にその外す意志が魔法によって削がれるのだ。
仮に、別の誰かが勝手に外そうとすると、奴隷に対し全身へ痛みが走る仕組みだ。結果、奴隷は自分で外すことも、人に頼んで外してもらおうとも思わない。
その為、彼らの首輪をどうしようか皆して悩んでいたのだけれども、その場に居たアグネが「これ位、おちゃのこさいさいですよ!」と笑いながら引きちぎってみせた。
元奴隷の皆は余りに一瞬のことで、ほとんど痛みを感じなかったらしい。また、「非常識な事をして……」と溜息もついたが、アグネのおかげで暗い雰囲気も壊れたのでよしと頭を切り替えておいた。
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―――クロイツェフ家 裏手の丘
そして、今、俺とミーナは魔法の練習をしていた。クリエというチートを手に入れはしたが、それはそれ、これはこれ。自分自身にも力をつけておかねば、必ず身に振り返ってくる。そういった経験は前世で嫌というほど体験済みだ。
前世のようにニートにはならん。そんな芸は身を助く精神で頑張っているのだ。決して、可愛い幼馴染の女の子と手とり足とり、マンツーマンレッスンができるからではないぞ!
「マナよ、水となりて清めよ<<ウォーター>>」
俺はマナの出力を調整しつつ、10メートル程離れた木の的へ<<ウォーター>>を放っていた。加減をしても消防車のポンプから吐き出される位の水量は出てしまう。
自分で言うのもなんだが、華奢な見た目なもんで、パワーというよりテクニック重視なキャラの筈なんだがなぁ。
「やっぱり、ピーターの魔法はすごいわね。私も<<ウォーター>>を飛ばしてもその半分くらいだわ。」
「主のせいで、お前さんのことが霞んでしまうのぅ。その歳で今の魔法を仕えるなら、十分に凄いんじゃがな。」
ここ最近、ミーナの成長率が著しい。毎日、昼から夕方ごろまで一緒になってこの丘で練習をしている。俺はなんだかんだ地球の時の意識を合わせると、20年以上生きているのだ。まだ8歳の女の子が何故ここまで頑張るのか?
彼女は笑いながら、「だって、何かを覚えるのって楽しいじゃない。」と、俺に語ってくれる。けれども、それはなんとなく嘘なんだろなぁと思う。だって、8歳の女の子にして今の練習量をこなすのはストイックすぎる。毎日、6時間以上ずっと魔法の練習だ。
「ミーナちゃん無理していない?」
「え?突然どうしたのよ。」
「今はミーナちゃんのお父さん、お母さんには遊びの延長で、魔法を一緒に練習していますって言っている。」
「けれど、俺のこなすメニューって相当ハードな筈だよ。」
「なんでそんなに頑張るのかなぁって?」
「前にも言ったけど、魔法の練習って楽しいのよ。」
「そ、それに……///」
「みなさ〜ん! クレアさん達がおいしいお菓子を持ってきてくれましたよ〜。」
その時、ミーナの言葉を遮るように、アグネが丘の向こうから大きな声を張り上げてきた。全く、ミーナちゃんが何か言おうとしていたのに。再び、問いかけてみたが、ミーナちゃんは「べ、別になんでもないのよ!」とはぐらかされてしまった。
ミーナの態度が気になりつつも、お昼の休憩で一時戻ってきた母さんのイチゴタルトを食べに、俺達はクロイツェフ家に戻った。
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―――クロイツェフ家 居間
「あ〜おいしいですねぇ。クレアさん、これって昨日の朝、一緒に取ったあのイチゴなんですか?」
「そうそう、ノーマンさん家の奥さんが、お菓子作りがお上手でね。うちの裏手の森にあるイチゴを使いたいって前々から話していたのよ。」
母さんが昼の休憩を利用して家に戻ってきた。何でも、職場の人がイチゴのタルトを作ってくれたらしい。
「イチゴの実って取れるのが一年でも初夏位だし、大きい実って希少なのよね。アグネちゃんを採取に誘って正解だったわ。」
「アグネちゃんのおかげで大きい実を直ぐみつけれたしね。」
「エッヘン! どうですか、私の鼻にかかればなんだって嗅ぎ分けられるんですよ!」
威張ってどうするのだ、アグネよ。トリュフを探す豚さんと同じ扱いになっちゃうぞ。
「でも、聞いたわよ。家に持ち帰ったイチゴをお尻でふんずけっちゃったんでしょ?」
「あーー! その話は秘密だって言ったじゃないですかぁ。 おk……っきな、ミーナさん!」
その誤魔化し方はなんやねんな。ちらちら、人の顔色を窺わんでよろしい。
「あら、だからあんな風に洋服と下着がイチゴまみれだったのね。もったいないことしちゃ駄目よ。」
「クレアさん、ごめんなさいです。」
「ホント、こんな美味しいタルトになるんだから、気を付けなさいね。」
アグネがちらっとアッカンベーしたぞ。後でミーナにチクっとこう。
……
「それじゃあ、皆仲良くね。ミーナちゃんはあんまり遅くまで遊んじゃ駄目よ。」
「はい、わかりました。」
「母さんも気を付けて、行ってらっしゃい。」
「えぇ、行ってきます。」
母さんが出ていき、留守を任された俺達。そして、机の上には残りのタルトが一切れ分。
3人思い思いのポージングをする。じゃんけんで何を出すか、真剣に考えているのだ。そして、今、戦いの幕が切って落とされる!
「それじゃあ、行きますね。お父様、お母様。親を乗り越えて見せるのは今です!」
「何をいっているんだ、アグネ。生まれて間もない、お前にこのタルトはやれんなぁ。」
「あんたもよ。私の勝利を横で眺めていればいいわ。」
「……平和じゃのう。」
「そ「れ「じゃあ、いくぞ、じゃんけんッ」」」」
「あ、これおいしいね。イチゴって久々だなぁ。」
俺達は愕然とする。あぁ? われぇ、何、横取りして平然と美味しそうに食っとんのじゃあ? ほっぺにつけたジャムが憎たらしさを増すんじゃあ!このボケがぁ!
「久しぶりだね。なんか、おいしそうなタルトが余っているから食べちゃったよ。」
「ジョバンニさん! なんで、アグネのお菓子をとっちゃうんですか!」
「はい、はい。アグネジャ様、また今度、王都で美味しい菓子を見つけたら持ってきますから。お許しを。」
「分かりました、アグネはジョバンニを許します! 但し、今の言葉忘れていたら、一生恨みますからね!」
切り替えが早いなぁ。ジョバンニは王都から時々報告の為、村へ来てもらっている。家の地下室に臨時の「グランジェネシス」総司令部を設置している。
ジョバンニは自室とクロイツェフ家を結ぶ転移魔法人を設置しており、いつでもこちらに来れるようしていた。
「じゃあ、クリエもいれて5人となるし、地下に降りようか。」
それでは、悪の組織らしくいっちょあれをやりますか!
……
―――クロイツェフ家 地下室
そこは仄暗い地下。円卓のテーブルを中心に5つの席が設けられている。出席者は俺、ミーナ、アグネ、ジョバンニ、それとクリエだ。
「それでは始めよう。「グランジェネシス」第3回定例報告会だ。」
俺は両肘をテーブルにつき両手を絡ませる。そうして、口許を隠し低い声で話すのだ。あぁ、グラサン、手袋が欲しい。
「何を考えておることやら……。そのポーズも何かの真似かの?」
「影のあるお父様……。う〜ん、すみません。まだ渋さが足りないように思います。」
アグネに否定されるとは! 残念だけど、ちっちゃくて可愛い、ピーター君にもどりますか?
「それじゃあ、いつもの通りジョバンニから。」
「まずは帝国の動き。これは前回も言ったけれっど進軍は大分緩まったようだね。王都にはその件で特別な報告は上がって来ていない。」
「だからと言っちゃなんだけど、ここ最近は貴族や王族も安心してきている感じがあるね。全く、彼らには危機感を持ってもらいたいものだよ。」
「戦地には今まで何回行ったんだっけ?」
「この村を除けば、「グランジェネシス」の一員としてが3回。王国の使いとしてが5回だね。」
「王国からはどんな命令を?」
「今のところ、交渉で何とか進軍を押えておくよう指示を貰っているだけだよ。決裂した場合にのみ、戦闘により追い払えだってさ。」
「お主はこの村での経験があるからのぅ。期待もこもっておるんじゃろうな。」
「王国の使いとしては今のところ、戦闘せずに追い払えたことになっているよ。まぁ、どれも正体不明の魔族達から国境付近で襲われるケースで逃げているけどね。」
ジョバンニは帝国の進軍を止めた功を買われ、帝国軍との折衝役として王国中央では重宝されるようになったらしい。基本的に使い捨ての役目という認識に変わりはないものの、大分出世したと本人曰く語っている。
「了解。このまま、王国と帝国の間を行き来しつつ、何か変わった様子が有ったら教えてほしい。ところで、「グランジェネシス」として、皆困っていることとかない?」
「ピーターは分かると思うけど、組織の一員としてやることが無いわ。子供だからっていうのは理解できるんだけどね。日々、魔法の鍛錬よ。」
「今は勉強して後々に備えることがベストだよ。」
「そういうけど、なんかやらなきゃいけないって思っちゃうわ。」
これか。ミーナは組織に貢献するために頑張っているんだな。うん?なんか、ミーナから睨まれた気がするけど気のせいかな?
「特に戦地へ実働している二人はどう?何か困ったことは無い?」
「そうだね。ミーナも言っていることだし、クリエをもっと使ってもらいたいかな。」
「妾で何を創りたいのじゃ?」
「うん、戦地で暴れてくれる魔族かな。実際に動いているのは、僕とアグネジャ様の二人だけなんだ。人員的に少なすぎるよ。」
「なんですか、ジョバンニ! お父様に創っていただいたアグネの事が信用できないんですか!? 今まで簡単に敵をやっつけているじゃないですか。」
「アグネジャ様の力も問題じゃないです。帝国が本気になれば、今のような突発な戦闘で終わらない筈なんだ。」
「正体を隠したまま、戦地に赴いていれば、対処できなくなることがきっと出てくるよ。」
「つまり、戦闘員の補充って事だね。」
「そういうこと。直近の要望としてはそれくらいかな。あと、これはゆくゆくの話しだけど、王都とこの村を行き来する人を増やしてもらいたいね。」
「うん、どういうこと? 私達のことを秘密にしておくなら、あんまり他所から人が来ない方が良い気がするわ。」
ジョバンニの発言の意図が読めない。ミーナちゃんが言う通り、あんまり注目の的にならない方が良いと思う。
「それは一つの手だけど、木を隠すには森の中が一番ってことさ。人が多くなれば、ある程度のつぶしが効くようになる。」
「例えば、僕だってそうだよ。なんで、帝国軍もやって来ていないのに、こんな国境近くの村へ何しに行っているんだってね。」
それもそうだな。王都との人や物の出入りを増やせば、色々とメリットも多そうだ。全然勉強したこともないけれど、こういうのが、流通を増やそうってことなんだろうな。
「でも、唐突にそんなこと言いだしてもどうしたらいいのよ。王都から滅多に人なんて来ないわ。」
確かに、となると、何かアピールポイントがいるなぁ。
「ミーナちゃん、要するに村興しをすればいいんだよ。」
「村興し?」
「この村みたいな地方都市で、たくさん人を呼ぶため、ほかの地域の人々が味わえない何かをアピールするだ。」
「例えば、何をするの?」
「イベントを立ち上げて、そうだね、例えばお祭りなんかがいい例だよ。普段と違って、村人だけじゃなく、他所の人にも楽しいことがありますよ。騒ぎ放題できますよ。って、これだけでも一つの方法だよ。」
「他には無いんですか? お祭りは楽しそうですけど、騒ぐ為にお祭りを開きましょうって、なんか変じゃないですか?」
おっ、アグネがちゃんと頭使っている。確かに、祭りというだけではなく、何のお祭りかってとこがポイントなんだよな。
「そうだね、この村独自のモノが無いと、あんまり意味はないな。そういう意味で言えば、美味しい名産品とかを考えてそれを皆に知ってもらうっていう手も有るけど……。」
「う〜ん、味わえない何か……。そういえば、イチゴタルト食べたかったなぁ。あれアグネのものの筈だったのに……。」
恨めしそうにジョバンニを睨みつけるアグネだが、さっき別のもので我慢するって約束してただろ。俺だって、あの一切れを食べるチャンスだったんだからな。
「あのイチゴタルト美味しかったね。王都ではイチゴなんて見ないから、久々に食べておいしかったよ。」
「えっ、イチゴって珍しいの?」
「僕らは田舎の方に住んでいるから、小さいモノも含め良く見かけるけど、王都だとあんまり見かけないね。一年中取れる物でもないからかな。」
ピキーン! そうか、地球にいた時はいつでも食えるイメージがあったけど、あれってハウス栽培のお陰だ!
これは生産系チートの匂いがしますぞ!
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―――翌日 アストラージ家
「はぁ、弱ったな。今までこれといった行動は無かったのだが……。」
とうとう、この日が来てしまった。この村の領主として、村人を守る為、私は「グランジェネシス」という魔族の組織の傘下となった。彼らからは組織の存在を明かさない限り、今まで通り、普通に暮らしていれば良いと聞いていた。
しかし、昨晩になって突然、話しがあるから時間を空けておけと連絡が入った。最初は断ろうともしたが、何故か、彼らは私がこれといった用事がないことを知っていた。
もしや、我々は常に監視されているのでは……。
「貴方、ジョバンニ様がお見えです。それと仮面の魔族の方が1名。」
「アグネジャ様は?」
「お見えになられていません。」
「そうか……。」
一体、どんな話になるのやら。朝の陽ざしが私の書斎をこんなに照らしているのに、私の心は憂鬱だ。
……
―――コンコン
「どうぞ、入ってください。」
「失礼します。アストラージさん、お久しぶりです。」
「いや、今日はどういった要件かね?」
ジョバンニとは久々の対面だが、彼に対する思いは以前と全く別物だ。まさか、彼が魔族だったとは……。前回会った時は、包容力のある優しいお方と思っていたが、今にしてみればそれは演技だったのだろう。こうして真正面にいる彼からは、畏怖の念しか抱けない。彼の笑顔は変わらないが、一体何を思ってニコニコしているのか。
「そんな、警戒しないでください。「グランジェネシス」としてあなた方への初めての仕事なんですから堂々としていてください。」
どんな仕事だ。私は緊張しつつ次の言葉を待つ。小鳥の囀りでもあればいいのだが、朝の書斎は静かだった。
「これは成功すれば、あなた方にとって全く損にはなりません。」
「村を大きくしてもらいたいのです。」
何を言い出すかと思えば……。人の命を差し出すような話でなかっただけマシだが、現実に開墾となると資金と人材が必要だ。しかし―――
「おっしゃりたいことは分かります。要はどうやってかということですよね。」
「そうだ。私たちの村はご存知の通り、田舎の小さな村だ。資金もなければ人材も少ない。この村は何もないんだよ。」
「えぇ、私も地方の村出身ですが、その気持ちはよくわかります。まずはこれをご覧になっていただけます?」
「これは……イチゴだな。」
仮面をかぶった魔族が杖のようなものに向かって話しかけ、テーブルに魔法の力でバスケットを用意した。中には、今の時期、森で採れるイチゴが用意されている。
「食べてみてください。「グランジェネシス」特製ですよ。」
私は彼らの真意を測りかねつつも、一つまみ齧った。齧った瞬間、私は驚いた。
「なんて甘いんだ! こんなに甘いイチゴ食べたことないぞ。」
「えぇ、貴方たちにはこれを売って、稼いで頂きたいのです。」
確かに、これだけ美味しいイチゴなら、多くの人に買ってもらえるのは間違いないが……。
「しかし、これが取れるのは初夏だけだ。それにこれがどこに生えているか知れないが、数は知れているのではないか……?」
「ご心配はもっともです。ですが、もし冬の時期でもこれを作れるとしたらどうでしょう?」
「それは本当かね。」
こんな小さな村だが、私は領主の端くれだ。目つきが鋭くなってしまう。私は腕をくみ、天井を仰ぐ。彼らの言う通りなら、村には莫大な金が流れ込んでくるだろう。果たして、私は領主として仕事を務められるだろうか。
「村を大きくしたいと思いませんか? 皆、生活が潤うこと間違いなしです。もし、補助をご所望ならば、「グランジェネシス」は全面的に貴方達を支えましょう。」
「そうだな、村の皆がどう思うかはあるが……。今の話しを聞いて、どうやら私は武者振いをしてしまったようだ。少し窓を開けるがいいかね?」
「えぇ、お気になさらず。」
私はソファーを離れ、窓を開ける。初夏の心地よい風が部屋に吹き込んできた。
「今日は暑くなりそうですね。」
「そうだな……。君たちはこの村をどうしたいのかね?」
「皆、幸せにしたい。それが私たちの思いです。」
「そうか。」
……
彼らが帰り、私は一人書斎で考えていた。恐らく、彼らには何らかの思惑もあるのだろう。しかし、最後のジョバンニの言葉は本当のことのように思えて仕方無かった。
私の手元には、彼らから渡された資料がある。今日食べたイチゴの種のサンプル、イチゴの栽培の仕方、そして、年中栽培できるようにテントのようなものを張って作る仕組みも書かれていた。
やる他ないか。日が高くなり光が眩しい。私はどうやって静けさを求める村の人を説得するか考え始めていた。
村興しは果たして成功するのか?
※本話から章が変わります。
引き続きお読みいただけると幸いです。




