第八話「炎を継ぐ者」
サブレ様が、初めてルカに炎を教えた。
丘の上で、木の根元で、サブレ様はルカの手を取った。
「目を閉じろ」とサブレ様は言った。
ルカは目を閉じた。
「手の中に、温かいものがある気がするか」
「します」
「それが炎だ。その温かさを、もう少し大きくしようとしてみろ。押し出すのではない。広げるように」
ルカは意識を手のひらに向けた。
温かさがあった。
それをゆっくりと、広げようとした。
何も起きなかった。
「焦るな」とサブレ様は言った。「炎は、急かしても出てこない」
「分かりました」
ルカはもう一度、ゆっくりとやった。
温かさを感じた。
広げようとした。
今度は、手のひらが、少しだけ光った気がした。
目を開けた。
セナが前で見ていた。
「光った」とセナは言った。「ほんの少しだけど、光った」
「光ったか」とルカは言った。
「光った」とサブレ様は言った。「最初としては、十分だ」
「こんなものですか」
「こんなものだ、最初は」とサブレ様は言った。「私も最初は、それくらいだった」
「サブレ様も最初はそうだったんですか」とセナは言った。
「そうだ。私にも最初があった。生まれつき炎を使えたわけではない」
「誰かに教えてもらったんですか」とルカは言った。
サブレ様は少しの間、黙った。
「教えてもらった」とやがて言った。「常火に。正確には、常火の前で選んだ者たちに」
「ハルとミナですか」とセナが言った。
「そうだ」とサブレ様は言った。「あの二人の選びが、火の中に残っていた。私は、それを見た。火は、私に教えた。一人では燃えないということを」
「ハルは半鬼だった」とルカは言った。
「そうだ。人間と鬼の間に生まれた者だった」
「ミナは」
「渡し場で生まれた者だった。こちら側でも向こう側でもない場所で育った者だ」
「二人で一つ、ですか」とセナは言った。
「二人で一つだった」とサブレ様は言った。「そして、お前たちもそうだ。形は違う。名前も違う。しかし、炎を持つ者と炎を呼ぶ者は、一人では完成しない」
ルカはセナを見た。
セナもルカを見た。
サブレ様が言っていた言葉が思い出された。
炎は一人では燃えない。呼ぶものが傍にあって、初めて燃える。
「サブレ様」とルカは言った。「俺に炎を継がせるつもりですか」
「継いでほしいと思っている。しかし、強制はしない。お前が選ぶことだ」
「常火を守ることが、役目になるんですか」
「なる。しかし——それだけではない。炎は、使いたいように使えばいい。族のために使ってもいい。仲間のために使ってもいい。好きな者を温めるために使ってもいい」
「好きな者を温めるために」とルカは言った。
「そうだ」とサブレ様は言った。「それが、炎の本来の姿だ」
ルカはセナを見た。
セナは少し赤くなった。
「決めます」とルカは言った。
「いつ」
「まだ今日じゃない」とルカは言った。「でも、近いうちに。ちゃんと決めます」
「急がなくていい」とサブレ様は言った。「炎は、待つ」
木の葉が風に揺れた。
光が差し込んだ。
橙と金の光が、三人を照らした。
(第八話 了)
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