第七話「人間の軍が来る」
軍が来る、という話を聞いたのは、セナだった。
集落の大人たちが小声で話しているのを、聞いてしまった。
「北から人間の軍が来る。鬼を討伐しながら、南へ向かっている」
その夜、セナはルカに伝えた。
「渡し場にも来るかもしれない」とルカは言った。
「渡し場は、今もあるのかな」とセナは言った。
「あるはずだ」とルカは言った。「常火が残っているなら、渡し場も残っている。少なくとも、誰かが守っている」
「サブレ様に伝えなければ」とセナは言った。
「明日、丘へ行こう」
翌朝、二人は丘へ駆け上がった。
サブレ様は、すでに知っていた。
「知っている」とサブレ様は言った。「軍の動きは、炎が教えてくれる。常火が揺れ方を変えた時に、気づいた」
「どうするつもりですか」とルカは言った。
「どうもしない」とサブレ様は言った。
「どうもしない?」とセナは言った。
「私にできることは、常火を守ることだ。軍が来ても、常火を消さないこと。それだけが私の役目だ」
「族は」とルカは言った。「トガ族は、どうなりますか」
「族のことは、族長が決める。私が決めることではない」
「父上に伝えます」とルカは言った。
「伝えろ。ただし——」
「ただし?」
「お前が、父上に伝える時に、炎のことも伝えろ。お前の炎が、目を覚まし始めていることを」
「なぜ今それを」
「族が動く前に、炎を持つ者が二人いることを、父上は知るべきだ」とサブレ様は言った。「族長と、次に炎を継ぐ者が。それが、族の力になる」
ルカは頷いた。
「分かりました」
その日の夕方、ルカは父のところへ行った。
「父上」とルカは言った。「軍が来ることを、知っていますか」
「知っている」とクダは言った。
「族を、どうするつもりですか」
「考えている」と父は言った。
「俺の炎が、目を覚まし始めています」とルカは言った。「サブレ様に言われました」
父はルカを見た。
「そうか」と言った。
「俺が炎を使えるようになれば、役に立てるかもしれない」とルカは言った。「族のために」
父はしばらく、ルカを見ていた。
「炎は、武器ではない」とやがて言った。
「知っています」とルカは言った。「灯すものだと教えてもらいました。繋ぐものだと」
父の目が、変わった。
「サブレが、そう言ったのか」
「言いました」
父は少しの間、黙っていた。
「俺も、そう教わった」とやがて言った。「しかし、使い方を忘れかけていた」
「使い方は」とルカは言った。「俺が覚えます。父上の代わりに」
父はルカを見た。
長い間、見ていた。
「まだ子供だぞ」と言った。
「十四です」
「十四は、子供だ」
「子供でも、できることがある気がします」とルカは言った。
父は、また黙った。
それから、ゆっくりと言った。
「セナと一緒に動け。一人では動くな」
「はい」
「そして——」と父は続けた。「サブレに礼を伝えろ。長い間、炎を守ってくれた礼を」
ルカは頷いた。
(第七話 了)
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