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第9話 贈り物

レオンハルトが屋敷を出て、王宮へ戻る頃にはもう日が沈み始めていた。レオンハルトは馬車の中でリアナから借りた本を静かに読んでいた。

「殿下。本日のリアナ様とのお話はいかがでしたか?」


向かいに座る側近のセシルが口を開く。

「ああ」


レオンハルトはそれ以上答えることなく、短く返した。馬車の中は静かになった。しかし。

(殿下、今日はずいぶんと機嫌がいですね)


セシルは心の中でふっと笑う。長い付き合いだからこそ分かる。普段はあまり表情の変わらないレオンハルトだが、普段よりも明らかに機嫌がいいことは確かだった。

「なにか良いことでもございましたか?」

「特にない」


レオンハルトはそう言ってもう一度視線を本へと戻す。特にないと彼は言っていたが、何も無いわけではなさそうな表情をしている。

「リアナ様とのお話し合いはあまりよろしくなかったのですか?」

「なぜそう思った」

「ご婚約をお断りされたと伺っておりますので......」

「断られた」

「だが、本の趣味は合った」


レオンハルトと本の話が合う令嬢がいることにセシルは驚く。彼が読んでいるのは冒険譚や旅の記録など、貴族達の間ではあまり好まれない本だ。趣味の合う人などそう簡単に見つからないと思っていたのだが。


「リアナは本が好きらしい。この本もリアナが貸してくれた。彼女と話しているととても楽しかった」

(さっきまで『特に』っておっしゃっていたのに。やっぱり良かったのだろうな......)


セシルはレオンハルトの成長に感動しながら、目の前で読書をする彼を見つめるのであった。


 王宮へ戻るとレオンハルトは真っ先に自分の執務室へと向かった。

「殿下。書類が山積みですよ」

「後でしっかり終わらせる」

「何をなさるのですか?」


レオンハルトは本棚の前に立ち、ずらりと並ぶ本を見て、迷うことなく一冊の本を抜き取る。

「これをリアナに届けてくれ」

「本を、ですか?」

「今日、リアナが読みたいと言っていたからな」

「かしこまりました」


───

一方リアナは。レオンハルトが帰ったあと、母の部屋へ呼び出されていた。もちろん、説教の為に。

「さて。あなたに聞きたいことは山ほどありますが、まず最初に何か言うことは?」

「申し訳ございませんでした......」

「それで?」

「皇太子殿下を放って逃げたことです......それと勝手に秘密基地を作っていたことです......」

「はぁ。今回は皇太子殿下のご厚意で注意されることなく終わったからよかったけれど、次からもっと令嬢らしく振舞いなさい」

「はい......」


結局、その日は二時間ほど、礼儀作法や態度についてこと細かく説教を受けた。


数日後。

「お嬢様。王宮よりお届け物がございます」

「王宮?」


私は嫌な予感がした。王宮からということは間違いなくレオンハルトからの何かだろう。

「まさか婚約に関する書類とかじゃないでしょうね.....」

「いえ。小包のようです」


侍女が机に置いた小包は小さかった。何が入っているのだろうかと恐る恐る開ける。

「本......?」


中に包まれていたのは一冊の本だった。題名を見ると。

『失われた王国』

「これ!私が読みたいって言っていた......!!」


昔から読んでみたい本だった。しかし、貴重で値段も高いため、中々手に入らない代物だった。私は慌てて本を開く。そこには手紙が挟まれていた。

『借りた礼だ。リアナが読みたいと言っていた本がたまたまあった。ぜひ読んでみてくれ』

(たまたま、で手に入るものではないだろうに......いや?殿下のことだから本棚にあったりして)


少しだけ読もうと思って、気づけば夕日が窓から差し込んでいた。

「お嬢様。ご夕食の準備が整いました」

「え、もうそんな時間なのですか?」


本を置いて大広間へと向かう。

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