第8話 見つかってしまいました
気づけば、二人で本棚の前に座り込んで読書をしていた。
「リアナ。その本、俺も読む」
「いいですけど、汚さないでくださいね」
「分かっている」
リアナがレオンハルトに本を渡した時。ぐぅぅ......と静かな秘密基地に、間抜けな音が響いた。
「......聞かなかったことにしてください」
「聞こえてしまった」
恥ずかしさのあまり、顔が熱くなる。朝起きて、レオンハルトが来ると知らされて逃げるようにここへ来たから朝から何も食べていない。お腹が空くのは当然だ。
「ちょうどお昼ですし、殿下も何か食べますか?」
私は近くにある籠から布に包まれている焼き菓子を取り出した。
「私、外に行く時には焼き菓子を作って持参するです。殿下も一枚どうですか?」
彼は焼き菓子をじっと見つめた。やはり他人の手作りの物は食べられないのかなと思っていると。
「本当にお前が作ったのか?」
「え?そうですけど......」
「普通の令嬢は料理をするのか?」
「いえ、私の場合は、ですけど......まさかですが殿下、一度も料理をしたことがないのですか?」
「ない」
即答だった。確かに皇太子ならしたことがなくてもおかしくはない。だが。
「じゃあ、お菓子をお作りになったことは?」
「ない」
「果物を剝いたことは?」
「何度か」
私は頭を抱える。やはり皇太子となると生きる力もないのか......
「令嬢はしないものだと思っていた」
「まあ、他のお方はしないと思います。私は魚も捌けますよ」
「魚を?」
「はい」
レオンハルトは少し考えこんだ。そして、真面目な顔で。
「俺も魚を釣りたい」
「私は全然平気ですけど、殿下は大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「皇太子が魚釣りなどでもしたら国中が騒ぎになるのでは?」
「俺は気にしない」
レオンハルトが魚釣りをしている光景を思い浮かべて思わず笑ってしまう。あの真面目な顔で『釣れない』などと言っているのだろう。きっと。
「時間が合えば、まあ付き合ってあげてもいいですよ」
「ありがとう」
レオンハルトといる空間に慣れてきた頃。流石にもうそろそろ出ないとお母様に見つかって怒られてしまう。
「殿下。もうそろそろ屋敷に戻りましょう」
「そうだな。この本、借りていく」
「はい」
秘密基地を出て、屋敷に近づいていく。すると。
「お嬢様ー!」
侍女のメアリの声がする。
「こちらにいらっしゃいましたか!それに皇太子殿下まで」
レオンハルトは軽く会釈する。
「しーっ!メアリ、静かに!お母様に見つかってしまいます」
私は慌ててメアリの口を塞ぐと、メアリはもごもごと話し始めた。
「みな、お嬢様と殿下を探しているのですよ!!」
「えへへ......つい読書に夢中になってしまって......」
「笑いごとではありません、お嬢様!!」
その時だった。
「リアナ」
聞きなれた声。私は背筋をピンと伸ばし、ゆっくりと振り返る。そこには、腕を組み、にっこりと笑っている母が立っていた。あ、この笑顔はよくない時の笑顔だ、と瞬時に察する。
「お、お母様......」
「すごーくも探しましたよ」
「あなた、皇太子殿下がお越しくださっているというのに、姿を消していなくなったと思えばふらっと二人で現れ.....皇太子殿下に何をしていたんです?ねぇ。リアナ」
「えっと......」
「リアナ」
隣にいたレオンハルトが静かに口を開く」
「隠す必要はない。夫人、俺とリアナは本を読んでいただけです。リアナと本の趣味が合ったので」
「本.....?」
「ええ」
「そうだったのですね」
母はほっとしたように微笑む。私は内心、ナイスフォローと殿下に感謝していた。その反面、余計な事を言わないかヒヤヒヤしていたのだが。
「ですが。皇太子殿下を置き去りにしたことはいけません。後で話をしましょうか」
(終わった.....絶対説教二時間コースだ......)
「夫人」
「なんでしょう」
「リアナは悪くない。俺が勝手に引き留めてしまった。それに、彼女と過ごす時間は楽しかった」
彼はいつもの冷静な顔のまま。母は驚いたように目を見開く。そして周りの侍女たちもざわついた。
(そういうことをさらっと言わないでくださいよ!!)
顔を真っ赤にしながら、心の中でツッコミを入れるのであった。




