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第7話 意外な趣味

結局。秘密基地に押し掛けきたレオンハルトは帰らなかった。むしろずっといる。小さな小屋、決して綺麗とは言えないその場所になぜか皇太子がいる。変な状況だ。

「レオンハルト様」

「なんだ」

「そろそろお帰りください」

「断る」

「でしょうね......」


深いため息をつく。この人に常識を求めた私が悪かった。仕方なく本棚へ向かう。どうせ帰らないなら放っておいてこちらは自由にさせてもらおう。

秘密基地に置いてある本は私が子供の頃から今までに集めてきた、宝物だ。

冒険譚、旅の記録、世界各地の絶景集など。貴族令嬢らしい恋愛小説なんて一冊もない。

(今日はどれを読みましょうか......)

そう呟きながら一冊の本を抜き取る。

「それはいい本だ」


後ろから声がして驚いて振り返る。さっきまで椅子に座って本を読んでいたレオンハルトが私の持つ本をじっと見ていた。

「『世界放浪記・東方編』か」

「ご存知なのですか?」

「ああ。俺は西方編の方が好きだが」

「えっ?」


この本は旅人の間では人気の本だが、貴族の間ではあまり人気がない。令嬢達は恋愛小説ばかりだし、令息達は歴史書や戦闘の話などを好むからだ。

少なくとも皇太子が読むような本ではない。

「西方編って砂漠のお話ですか?」

「ああ」

「それ、私も大好きなんです!!」


気づけば声が大きくなっていた。


「商人が旅をして色々な絶景に巡り会うシーンとても面白いですよね!」

「俺は古代遺跡を見つけるシーンが一番好きだ」

「え!殿下もそこがお好きなんですか!?私も実はそこが──」


そこまで言ってよくやく自分が熱く語ってしまっていたことに気づく。

「......」


(皇太子殿下に何熱く語ってるのよ......!!失礼よ!私!)


恐る恐るレオンハルトを見ると、彼は少しだけ柔らかい表情をしていた。

「そんな顔をするな。同じ本の話ができる相手がいて驚いた」

「殿下も読書がお好きなんですか?」

「ああ」


彼はそう言って本棚の近くまで来る。そして一冊の本を手に取った。

「この本は読んだか?」


私は表紙を見た瞬間、思わず大きい声が出た。

「知っています!この本も大好きです!」


「はは。『空飛ぶ冒険の島』を知っている者は少ないのに。リアナは物知りだな」

「この本は私が本を好きになるきっかけを作ってくれたんです。地図がない世界で旅をして、最後に地図を完成させるシーンはすごく感動して......!」


夢中になって語っているうちに、レオンハルトが静かに聞いてくれていることに気づいた。

「俺も好きで何度も読んだ」


なんだか嬉しくなってしまった。両親には貴族令嬢らしく恋愛小説を読めと言われるし、兄はそもそも本に興味がない。ずっと一人で本を読んでいた。

「リアナ。お前はなぜ旅の本ばかり読む?」

「前にも言いましたでしょう。私は自由に外に出て冒険したい、と。そのためです。本を読んでいると自分も旅をしているような気分になれますから」


その言葉を聞いたレオンハルトはふっと笑う。

「奇遇だな。俺も同じ理由だ」

「え?」

「俺もこう見えてあまり自由はない。それについて何か思ったりはしないが。本を読むと新しい世界を知れるからな」


私は少しだけ驚いた。婚約を申し込んできた面倒くさい皇太子だとばかり思っていた。けれど、この人と私は少し似ているのかもしれない。


「......貸してあげてもいいですよ」

「何をだ?」

「私のオススメの本をです」

「大切な本だろう?」

「本好きに悪い人はいませんから」


言った瞬間、やってしまったと思った。婚約を断った相手に何を言っているのだろう。

「そうか。なら借りる」


少し驚いた顔をしたが、レオンハルトは静かに笑った。帰って欲しいと思っていたのに、気づけば秘密基地に来て二時間以上経っていた。


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