第10話 お相手は
父、母、兄、そして私の四人で食卓を囲んでいた。今日は学園に通っている兄も珍しく食卓にいた。
「そういえば、今日は学園であることが噂になってたんだ」
兄のアドリアンが何気なく口を開く。
「何かあったのですか?」
私はパンを水を飲みながら何気なく尋ねる。
「皇太子殿下の婚約者についての話。なんでもお相手がいるとかいないとか。令嬢たちが言い争ってたよ」
「ぶっ」
「大丈夫リアナ?」
「大丈夫です......」
私は危うく水を吹き出しそうになる。最近、皇太子の婚約の話になると妙に反応してしまう。
「ある令嬢は『殿下にはきっと心に決めた方がいらっしゃる』って言って、また別の令嬢は『殿下にまだそのような方はいらっしゃいません!』などと言い争っていたよ......令嬢たちは皇太子殿下のことになるとすぐに騒ぎ出すから困ったものだ......」
父が意地悪そうに話しだす。
「殿下がご婚約なさった時にどういう表情をするのか気になるところだな」
「みんな気絶しちゃうんじゃない?」
アドリアンはからかうような口調で話し続ける。
「なんでも、そのせいで学園で賭け事まで始まってるんだよね」
「賭け事?」
「そっ。皇太子殿下のお相手は誰か、っていう賭け。なにが景品なのかは知らないけど、みんな盛り上がってるよ。一番人気なのはエーデルハイト侯爵家の令嬢。二番目が宰相の娘」
「へえ~」
私としては噂されている令嬢たちと早く結ばれてほしい。レオンハルトは本を送ってきてからというもの、最近は手紙を頻繁に送ってくるのだった。しかし、手紙の内容は甘い言葉ではなく、本についてのことばかりなのでどうしても返事をしてしまう自分がいる。そんな矛盾した気持ちになりながらも私は兄の話に耳を傾ける。
「みんな自分も殿下に気に入られようと必死だったよ。まぁでも殿下ももうそろそろ婚約してもおかしくはないよね。リアナは殿下と意気が合うんじゃない?噂によると殿下も読書好きだそうだし」
(もう既に本の話をしてますなんて言えない......)
「わ、私はあまり殿下には関わりたくないですし、皇太子妃なんて願い下げです!!」
アドリアンが苦笑する。
「リアナは本当に昔から変わらないよね。その変な意地」
父もははっと笑っている。
「そういえば、この間家に殿下がいらっしゃったと聞いたけど、なにを話してたんだ?まさか、リアナに求婚とか......まさかそんなわけ──」
「婚約は......して欲しいって言われましたよ......この間の舞踏会の時に」
食卓が凍る。唯一、全ての事情を知っている母だけが冷静に食事をしていた。家族だし、隠し事はよくないかなと思ったが、フリーズしている兄と父を見て、言わなければよかったと後悔する。
「リアナはもう既に婚約しようと言われているのか!?じゃあリアナは皇太子妃!?」
「なぜもっと早く言わなかったんだリアナ!これは一大事だぞ!!」
二人からの質問の嵐。私が慌てておろおろしていると、母が助け舟を出してくれた。
「二人とも。リアナが困っているでしょう。食事中に大声を上げるなど、貴族たるものがやってはいけません」
「「はい......」」
母に怒られている父と兄。私はそんな二人を見ながら、何から話そうかなと考えるのであった。




