第5話 急接近
「なぜ私のことを気に入ってくださったのです?途中で舞踏会を抜け出した相手を」
「だからだ」
彼の目は本気だった。こちらをじっと見つめ、視線を逸らすことが出来ないくらい真剣に。
「普通の令嬢なら俺に気に入られようと近づこうとしてくるはずだ。しかしお前は俺を見向きもせず帰ろうとした。初めてのことだったからな。それでお前を気に入ったという訳だ」
「つまり、珍しかったから、と」
「そうだ」
「ですが!!婚約は出来ません!!」
リアナの目標は『外に出て自由に冒険する』だ。
ここで皇太子と婚約し、皇太子妃にでもなれば毎日公務をして、嫌いな令嬢教育を受けさせられ、自由とは程遠い生活になってしまう。
「なぜ俺と婚約したくないんだ?」
「私は自由になりたいのです!貴族の生活だなんて真っ平御免なのです!色々なところに行って、冒険する。もしレオンハルト様と婚約すればその夢は遠ざかってしまうでしょう?」
その言葉を聞いたレオンハルトは、意表を突かれたように目を見開いた。
「とにかく!お話がそれだけでしたら私は帰らせていただきます」
ソファーから立ち上がり、扉の方へ向かおうとすると、レオンハルトに腕を捕まれ、気づけば彼の腕の中に。
(な、なに!?婚約断られたから殺すということ??)
などと被害妄想を膨らませるリアナ。極力この皇太子には関わりたくはない。面倒くさそうな人オーラがただよっている。とにかく今はさっさと帰って魚釣りをしたいのに。
「リアナ」
耳元で囁かれる。不意にもビクッとしてしまうリアナ。
「俺は1度気に入ったものは必ず手に入れる主義の人間だ。必ずお前と婚約する。どんな手を使ってでも」
耳元で響く低い声。
近い。近すぎる。
少しでも顔を上げれば彼の長いまつ毛まで見えてしまいそうだ。
「今日は夜も遅い。馬車を呼んである。また会おう」
「は、はい......」
リアナは応接室を出てその場で立ち尽くした。
今までにないくらい心臓がうるさい。
顔がゆでダコのように真っ赤なのが自分でも分かる。
「ただのイケメン皇太子じゃなかった......」
そそくさと王宮を出るリアナ。馬車に乗り込み、屋敷までの道のりをぼーっと眺める。さっきまでの出来事がまるで夢のようだ。
────屋敷に着き
出迎えてくれた侍女たち。リアナはまだぼーっとしている。
「おかえりなさいませ。お嬢様。どうかなさいましたか?」
「あ、え?魚の話ですか?」
「いえ、少々ぼーっとしていらっしゃるように見えたので」
「だ、大丈夫よ!!」
その日はいつもより早く自室に戻り、ぐっすり眠った。
きっとこれは幻だ。そう信じて。




