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第17話 ありがとう

「俺の婚約者を決めるのはお前たちではなく俺だ」


先程まで笑っていたヴィオレッタの表情がどんどん青ざめていく。

「で、殿下......」

「家柄も、振る舞いも、それらのことに俺は興味はない。それに俺は婚約者候補など決めた覚えはない」


会場がザワつく。それはつまり『ヴィオレッタ・エーデルハイトは婚約者候補ではない』ということを本人の前で否定したということと同じだ。

「それとも、俺の婚約者を決める権限が誰かにあるのか?」


誰も答えられない。レオンハルトは周りを冷たく見渡す。

「もし今後リアナに不要な接触をし、彼女を傷つけるようなことがあれば、俺は相応の対応を取る」


民衆が固まる。皇太子がここまで警告をしたのだ。その言葉の重さを全員が理解した。


「特に、エーデルハイト侯爵令嬢。何を思い違いしていたかは知らないが、俺はお前みたいな人間が嫌いだ。せいぜい反省しておくことだな」


ヴィオレッタはその場にしゃがみ込む。ずっと皇太子妃になるための努力し続けていたが、水の泡になってしまった。

レオンハルトはくるりと民衆から背を向けて、私の手をとる。

「本がある。少し休んだほうがいい」

「いきます!」


勢いよく答えてしまい、少し恥ずかしくなる。

「リアナは相変わらずだな」


レオンハルトの目が少し緩んだ気がしたのは気のせいだろうか。


───

会場を出て、静かな廊下を歩く。レオンハルトにまだ手をとられたままで、彼に若干引っ張られるような形で私は後をついて行く。

「ありがとうございました。連れ出してくださって」

「俺も渋々夜会に参加していたら偶然囲まれているお前を見つけただけだ」


本気で感謝していた。もしずっとあの場に居たらと考えるととても恐ろしい。

「夜会や舞踏会を嫌うお前がなぜ参加してるんだ?」

「それはですね......ヴィオレッタ様に誘われて、断るに断れず」

「次は無理に出なくていい。だが、俺が誘った時は来い」


結局行かないといけないじゃないか、と内心ツッコミつつも。

「返事は?」

「行けたら行きます」

「図書室案内するぞ?」

「行きます」


レオンハルトは珍しく声を出して笑う。笑うことはあったが、冷静な彼が声を出して笑っている所を見るのは初めてだった。


しばらく廊下を歩くと、大きな扉のある部屋の前に案内された。

「東棟の図書室だ。この間案内すると言ってできていなかったからな」

「ありがとうございます!」


と言ったものの、別のことが気になって仕方がなかった。視線は握られたままの手へ。先程からずっと握られている。

どうやらレオンハルトは気づいていないようだ。

(言うべき......? 手離してくださいって)


いや。言いづらい。結局、何も言い出せずに黙り込む。

レオンハルトがドアを開ける。中には沢山の本が。彼が先に入る。その時に、引っ張られてつまづいてしまった。

「あ」

「......」


ようやくレオンハルトも手を握っていることに気づく。

「悪い」


レオンハルトがパッと手を離す。離してくれないかなとさっきまで思っていたのに、いざ離されると妙に落ち着かない。

「顔が赤いな」

「暑いだけです」

「今日は涼しいが」

「からかってくる殿下嫌いです」


レオンハルトは私をみて少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

「そうか」

「絶対信じてない顔してますよね!?」

「ほら。図書室の中を見るのだろう」


そう言って案内をしてくれるレオンハルト。彼が一瞬だけ離れた手を見ていたことは見なかったことにしておこう。

「もし俺と婚約したら立ち入り禁止のところにも入れるぞ」

「えっ!? ほんとですか!」

「ああ」


ダメだ。本のことになると直ぐにつられてしまう。そういえば、レオンハルトと知り合ってから本の話をよくするようになった。

そのせいか、今までの趣味だった魚釣りもできていないなと頭の片隅で思い返す。

(殿下と魚釣り......)

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