第16話 現れたのは
「ではリアナ様。明後日の夜会でまたお会いしましょう」
「えっ」
『明後日の夜会』という言葉に引っかかる。夜会が王宮で開かれるのは知っていた。もちろん今回も行く気はなく、家でゆっくり本でも読もうと思っていた。
(これは行かないとまずいですよね......)
行かざるを得ない雰囲気になってしまっている。ここでもし、参加しないなどと言ってしまえば流石に家の恥になってしまう。
「ええ。また会いましょう、ヴィオレッタ様」
「こちらこそ。今日のお茶会はとても有意義な時間でしたわ。リアナ様」
───
断ればよかった。まだ王宮へ来て三十分も経っていないというのに。
もうこのまま帰ろうか悩んでいるときだった。
「あら。リアナ様。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
ヴィオレッタだ。今日も一段と豪華なドレスに身を包み、完璧な笑みを浮かべている。
「皆様。このお方がスティバーグ家のリアナ様ですわ」
突然リアナは大きな声で名前を呼ぶ。近くにいた人たちが一斉にこちらを見る。視線が刺さって痛い。目立つのは嫌いだ。
「まあ。スティバーグのリアナ様でしたか」
「お噂はかねがね聞いておりましたが、初めてお会いしますね」
「私は───」
気づけば色んな人に囲まれて、好き勝手言われていた。
「リアナ様をあまりこういう場で見かけなかったので......」
「リアナ様は社交界がお嫌いなんですよね?」
ヴィオレッタが意地悪そうに問いかけてくる。
「いえ。面倒なだけです」
周りの人たちがくすくすと笑う。ここでようやく気づく。私は歓迎されていないのだ。ヴィオレッタは私を嘲笑う為に夜会へ誘ったのだと今更気づく。
「そういえば。リアナ様は殿下からご婚約を申し込まれたそうですわね」
(なぜそれをこの場で言ってしまうの......)
元はと言えばポロッと言ってしまった私が悪いが、この大人数が注目するこの場で言う必要がどこにあるというのだ。
(わざとだ。私が殿下に相応しくないとでも言いたげな様子ね)
「しかも。断ったそうで」
「え、信じられないですわね......」
「スティバーグ家の人間だからと言って調子にのってるんじゃないか?」
周りの人達、特に令嬢がザワつく。ヴィオレッタは勝ち誇ったように微笑む。
「わたくしだったら光栄で泣いてしまうのに......」
同意をするように令嬢たちが頷く。まるで私が良くないことを犯したみたいな気持ちになる。
(帰りたい......)
「それとも。殿下ではご不満だったのですか?」
「いえ、そういう訳ではなく......」
「もしかして、殿下以上のお方をお求めという訳ですか?」
ここで、『皇太子妃になるのが面倒くさいから断った』などと言えばまずいことになるくらい分かる。
「えっと......」
全員が私の発言を待っている。なんと言えばいいのか分からず、黙り込んでしまった。
「まさか。ご自身の価値の方が高いとでも思ってらっしゃるのかしら?」
「そういうわけではなくて」
「なら何故断ったのですか?」
ヴィオレッタは私を笑いものにする気なのだろう。民衆に殿下を取られた可哀想な令嬢だと思わせるために。
周囲からの視線に耐えかねている時だった。
「簡単な話だ。リアナが俺の婚約を断った理由は初対面の俺がいきなり婚約を申し込んだからだ」
レオンハルトだ。全員の視線が私から彼へと変わる。そして、その場が静かになる。
(殿下、参加していらっしゃったんだ......こういうの苦手だとセシル様からお聞きしていたのに。珍しい)
「会ったこともない男に求婚されて受け入れるほうが珍しい。断って当然だ」
レオンハルトは歩いてきて私の隣へと立つ。まるで私のことを庇うかのように。
「それとも。俺の婚約を断ってはいけないという決まりがこの国にあったか?」
恐ろしいほどの圧。その場の民衆は静かになる。ヴィオレッタでさえも何も答えることができていない。
「殿下......」
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