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番外編 舞踏会の前の話

「殿下。明後日の舞踏会ですが......」

「俺のことは気にするな。参加などしない」


舞踏会には興味がない。参加しても、同じ挨拶を繰り替えし、同じような会話をして、最後には婚約の話を持ち掛けられる。

 正直、疲れる。周りの人間は俺のことを『皇太子』としか見ていない。だから今回の舞踏会も参加しないつもりだった。

「皇帝陛下がお呼びです」


───

「今回の舞踏会には出席しなさい」

「お断りします」

「各国からの使節団も来る。それに皇太子のお前が参加していないことに貴族たちも不満を持ち始めているのだ」


父は困ったようにこちらを見てくる。

「そろそろ婚約者を探さねばならんだろう」

「父上。俺は婚約などする気はありません」

「毎回同じことを言っているな。しかし今回はだめだ。参加しなさい」


その声色から拒否権がないことを理解する。俺がたとえ断ったとしても父は参加させる気だったのだろう。

「分かりました」


そう答えるしかなかった。


───

執務室へと戻ると、セシルが少し安心したかのような表情をしていた。

「舞踏会に参加なさるのですね。良かったです」

「父上からの命令だ」

「殿下が参加されるのも何年振りでしょうか......きっとご令嬢方もお喜びになられるでしょうね」

「俺には理解できない」


皇太子という肩書だけで近寄ってくる人間に興味はない。どうせ今年も、適当に話して、目が回るほど同じ挨拶を繰り返し、時間を過ごして帰ってくるだけ。

「いい出会いがあるかもしれませんよ」

「ない」

「なぜそう言い切れるのですか?」

「今までいい出会いをしたことがないからだ」

「そのように仰る方ほど、案外あっさり心を奪われてしまうものですよ。殿下」


俺は書類へと視線を戻した。舞踏会で出会いなどありえない。父の命令の通り、適当に参加し、帰ってくればいい。そう思っていた。

 二日後。舞踏会の会場で、帰ろうとしている令嬢を見つけるまでは。


──二日後の王宮での舞踏会

大扉が開いた瞬間、大勢の目がこちらへと向けられた。

「お久しぶりでございます!」

「ぜひ私と──」


次々に囲まれる。挨拶をして、ダンスを断って、また次。相手の顔を見ている余裕などなかった。

 しかし、ある令嬢と会話しているときに、人の波へふと視線を向けると一人の令嬢が目に入る。周りをキョロキョロと不審に見渡し、出口へと向かっている。ただ静かに帰ろうとしていた。

 普通の令嬢なら有力貴族の目に留まろうとするために会場に長居するはずだ。けれど、あの令嬢は違う。

(早く帰りたいのか......?)


その令嬢のことが気になった。なぜ帰ろうとしているか、ただ体調が悪いのか、それとも俺と同じで舞踏会が嫌いなのか。理由が気になった。

「どうかなさいましたか?」


会話していた令嬢が不思議そうにこちらを見る。

「少し用事を思い出しただけだ」

「なら良かったのですが......」


俺は迷わず近くにいた騎士に声をかけた。

「あの水色のドレスを着た令嬢が帰らないように引き留めておけ」

「はっ。かしこまりました。引き留め次第、応接室へとご案内しておきます」

「ああ」


セシルが近づいてくる。

「殿下、まさかあのご令嬢とお話を......?」

「そうだ」


彼はくすっと笑う。なにがそんなにおかしいのだろうか。

「殿下にも気になる女性がいたようで安心しました」

「気になってはいない。興味があっただけだ」

(同じ意味ですよ......殿下)

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