強化月間
「あ、駄目です。すいません。今月は強化月間なんですよ。俺達はこの天国の領土に馴染み過ぎて寒さ暑さと困難に弱い虚弱体質になってしまいましたからね。昔の勘を取り戻すべく特殊訓練中なんです。」
私の目の前にずいっと身を乗り出して今日も私の壁になった男は、三日前までは私を姐さんと慕っていた男ではないのか?
「昼休みぐらいに、その強化月間中のあなた方の団長は広場でふらふらしていたわよ。偉い人はいいの?」
「姐さん。酷い人だね、あなたは。」
「え?どういう意味よ。」
「あのさ、一応団長はここを預かる保安部隊長でしょう。広場でふらふらしているんじゃなくてね、パトロールしてんの。」
「あ、フェール。団長は?」
フェールに話しかけてきた男はモニークの想い人のイヴォアールであり、彼はとうとうダグドにモニークとの婚約を願い出て、ダグドに大きく舌打ちをされるという可哀想な目に遭ったばかりの人だ。
その舌打ちの意味は、挨拶が遅いよ、でも、お前に娘をやるか、でもなく、とうとう自分に挨拶に来ることに気が付いたのか、というイヴォアールを虐める理由が無くなった事によるものらしい。
ダグドって時々本気でろくでなしになる。
そんなダグドもここ三日間は見張り台に入りびたりだ。
まあ、いつもの事だが、昼飯にも来ないってのは不思議な事だ。
「あ、副団。団長は領内のパトロール中らしいです。」
「またふらふらしてるのか、あいつは。」
やっぱりアルバートルはふらふらしていたらしい。
団員の内緒ごとを聞かれたフェールは見るからにあちゃあという顔付をして、そして、イヴォアールはいつもと違って私に対して余所行きの顔をした。
つまり、モニークの友人に対する笑顔ではなく、お店で困った客に対応する番頭のような顔って事だ。
「ああら、婚約おめでとうございます。うふ、わたくし、ささやかながらプレゼントを持ってきましたの。」
リリアナはカシュクールの胸の谷間から私に見せた新作ゲームの箱を取り出し、モニーク一筋のイヴォアールでもリリアナの妖艶さに真っ赤になり、フェールはその中身は何だという顔でゲームではなくリリアナのたわわな胸を凝視していた。
凄いわ。
リリアナは私の壁をやすやすと突破どころか、こんな人だっけと私の顎が外れるぐらいにエロティシズムの権化のようにして廊下を歩いていく。
凄い、じゃない!
私は慌ててリリアナの後ろを追いかけた。
そして、男どもが進行を妨げる気にもならない程の蝶々のような艶やかな女の力にあやかれるように、私はリリアナの腕に自分の腕を絡めた。
綺麗なお姉さん、私をカイユーの所に連れて行って、だ。
「ふふ。あなたも私と同じようにして歩くだけでいいのよ。」
「ええ、普通に歩いているんじゃないの?」
「ふふ。一本の綱の上を歩いているつもりで歩くの。足を曲げずに真っ直ぐに出すだけでは無くて、絡むように、猫のように歩くの。そうすると嫌になるくらいに、女の身体が右に左にって媚を売っちゃうのよ。」
「嘘ぅ!」
でも、リリアナの言う通りに数歩だけ怖々足を出してみた。
うわ、なんかお尻を振ってしまった気がする。
だが、凄いと思う間もなく、私は後頭部を軽く叩かれていた。
「何だ、その歩き方は。酒でも飲んでんのか。」
「あ、ふらふら団長。イヴォアールさんが探していましたよ。」
彼は私をもう一度叩こうと右手を軽く上げたが、私の隣にいたリリアナの存在によってその右手を簡単に下ろした。
「すいません。今月は強化月間で、美しい来客もお断りしているのですよ。」
「あら、新しいゲームはよくて?」
うわ、本当に強化月間みたい。
アルバートルは誰もを魅了する笑みをリリアナに向けて、お引き取り下さいと言ったのである。
ゲームに見向きもしないとは、おかしすぎる!
絶対に、彼こそ欲しがるノリの男なのに!
私は見張り台に詰める男達が、実は敵の急襲によって中身が取り換えられたような錯覚に陥り、とりあえずカイユーの部屋へと走り出していた。
「おい!ちょっと待て!」
当たり前だが一瞬でアルバートルに私は首根っこを掴まれ、だが、私がカイユーと叫ぶ前にサイレンが鳴り響いた。
リリアナがガラスがびりびりするほどの高音で歌い出したのだ。
私はアルバートルの指先がびくりとするや彼を振り払い、再びカイユーの下へと駆け出していた。
彼が病気なんだったら、今度こそ看病してあげたいもの!




