誤解されるって!
私の首筋にキスをしたりの行動は、アールの交信を引き出したそこでアールに脅しを掛けたかったからだとはわかったが、はたから見ればうつぶせの私の上にアルバートルが乗っているという、とっても淫らで恥ずかしい格好である。
「あの、ありがとう。そ、それで、い、いい加減に退いてくれない?」
アルバートルにとって恋人でもない私は労わる相手でもないらしく、私は普通に奴の全体重をかけられていて物凄く重いのだ。
動こうにも私の右手首は彼に押さえられている上に、私の背中といわず裏側全部に彼の頭から下全部が乗せ上げられたままなのだ。
「ちょっとアルバートル!お願いだからどいてよ!あなたは重いのよ!」
「ハハ、お前は意外と寝心地がいいねぇ。もう少し色っぽい声でのお前のお願いも聞いてみたいもんだ。」
しまった。
私は何という男に借りを作ってしまったのだろう。
奴の希望する通りの感謝をしないと、奴が私の上から退かないという嫌がらせをされている!
でも、もし、相談相手にカイユーを選んでいたらと考えると、どうしてそうなったのか、どんな状態なのか、私はカイユーに上手に説明できはしないどころか、カイユーをもっと傷つけたりしていたかもしれない。
いや、嫌われてしまっていたのかもしれない。
今後はアールに対してきちんと話し合ったり、あるいは脅すぐらいの勢いで右手首の呪印を消してもらわなければならないかもしれないが、アルバートルの脅しによってしばしの間はアールからのちょっかいは無いと確信も出来る。
これは、命拾いをさせて貰った、と言っても良い位なのではないだろうか。
彼を背中から振り払おうとうんうん唸っている私に対し、喉を震わせて笑っているという、私を潰す事に喜びを感じているろくでなしだろうが、世話になったと感謝をきちんと述べるべきなのだ。
「あの、団長、さま?本日はとってもお世話になりました。あの、心から、」
ぱしっと頭が叩かれて、私の背中から重石が消えた。
私は出来る限り、そう、再び押しつぶされまいと、さっさと逃げようと体を持ち上げると、ぐるっと今度は仰向けに転がされてしまった。
私は起き上がるどころではない。
私は再びアルバートルの虜囚にされてしまったのだ。
彼は両腕をイグサに突き立てて私を腕の中に捕え、上体は密着はしていないが、私を逃がさないためなのか腰から下はアルバートルの重たい体に押し付けられているという状態だ。
「な、なにを考えているの?」
私はかなりアルバートルという男に慄いてもいたのだが、私を仰向けにして逃がさない状態にしている彼こそつまらなそうな顔をしていた。
「あ、あの、あなたは何がしたいの?」
アルバートルは左手で私の鼻をつまんだ。
「きゃっ!」
意味がわからないと混乱した私は、アルバートルから自由になった右手で反射的に彼を殴りつけていた。
もちろん、私が彼を殴れる事は無かったが、彼は嬉しそうな笑い声をあげながらようやく私の上から転がって退いてくれた。
私は上半身を起こして、本当だったら今すぐ逃げるべきだと私の頭の中ではアラームが鳴っていたが、私の隣で笑い転げる男が意味が分からないと見つめてしまっていた。
「ハハハ。悪い、ノーラ。ハハハ、俺を許してくれ。前言撤回だ。」
「え?」
「やっぱりさぁ、お前はお前のままでいいよ。つまらん。つまらないよ。お前に団長様って呼ばれても、ぜんっぜん色っぽくないからぜんっぜん面白くなかった。ああ、お前に傾倒しているエランの気持ちが分かってきた。あいつの言う通りだ。お前は変わるな。そのろくでなしのままで、俺に馬鹿野郎と言えるお前で行け。」
イグサに寝ころんだままの男にぽんと背中を励ますような形で叩かれても、私こそアルバートルが訳わからない。
それに、ろくでなしと清々しく言われて喜ぶ人間がいるだろうか。
「でも、あなたは変わった方がよくてよ。意味がわからないもの。」
私とアルバートルは凍り付いた。
なんと、リリアナが突然現れたと思ったら、さっきまで私がアルバートルにされていたようにして、アルバートルに圧し掛かったのだ。
ビーズ刺繍のされたカシュクールの打ち合わせで強調されている彼女の胸元、私よりも倍も倍もあるたわわな胸はアルバートルの目の前で揺れている。
リリアナの両腕はアルバートルを逃がさないように彼の両側について、流れるような蜂蜜色の髪を体に巻き付かせながら、彼女はアルバートルの上に乗って彼を見下ろしているのだ。
うわぁ、女の私でさえぞくっとする色っぽさ。
アルバートルの目は大きく見開かれ、リリアナの攻勢に呑み込まれそうだと私は思ったが、やっぱり、彼はアルバートルでしかなかった。
ダグドは彼をどんな戦況でも好転させる男だと評している。
彼は完全に力を抜いてイグサに沈むと、最高だと、私の背中までゾクゾクするような擦れた甘い声を出して最高の笑顔をリリアナに向けた。
「次は全裸で頼む。俺の部屋で。ここには余計なギャラリーがいるからね。」
「あら、ここで今すぐ二人一緒をいちどきに食べてしまいたいって言わないのね。つまらないわ。」
うわ、アルバートルが凍った。
物凄い事を言い放ったリリアナはアルバートルの上から退くと、私の手を掴み、そしてそのままアルバートルに振り返りもしないで私を厩から連れ出した。
「リリアナ、あなたは。」
「もう、あんなことをして。他の人に見られて誤解されたらどうするつもり?」
私は彼女には逆らってはいけない気がして、ごめんなさいと頭を素直に下げた。
「ふふ、でもちょっと楽しいわね。殿方を揶揄うのは。アリッサがアルバートルを追いかける気持ちがわかったかも。」
リリアナはくすくすと笑い出し、私もアルバートルの狼狽した顔を初めて見たと、クスクス笑いが止まらなくなってしまった。




