キリングフィールド
ミアはシロロによって生き返された、というよりは、再生されたと言った方が正しい存在だった。
遺骨に死んだばかりの遺体の肉を付けて、そして新たな生物を作り出してしまうなんてぞっとするが、ミアはそのおかげでまるっきり新たな人生を歩めるはずである。
ただし、成長を待つか、今すぐ死んだ十六歳に戻るか、という選択肢も付きつけられたりもしたが。
ミアは当たり前だが選べないと泣き、だから私はアルバートル達が戦う姿を見ようと彼女を誘った。
それは私も実は望んでいたことなのだから、ミアにかこつけたと責められても仕方がない事だ。
私は彼等が戦う姿を見たかったのだ。
アルバートルが浅ましい姿だと自嘲するその姿こそ見たかった。
そのうえであなたを愛しているとカイユーに言いたかったのだ。
実際は、カイユーは私の目の前で朱に染まった。
そのカイユーに対して、黒い牛の姿をした化け物が大きな鉈を振り下ろした。
「カイユー!」
私は彼の下に行こうとして、ミアによって引き戻された。
「足手まとい。もっと彼等の分を悪くしたいの?」
「あなたは!ええ!そんなことは思わないわ。」
私は再び両足に力を込めて自分をその場に留めた。
カイユーはアルバートル達の助成によって鉈の餌食になることは免れたが、それでも牛のお化けはカイユーを最初の生贄にすると決めたかのような動きだ。
アルバートル達が積極的にカイユーを助けようにも、彼等は要塞からの一斉射撃によって行動が制限されてしまう。
私は彼等の最大の障害となっている要塞を睨みつけた。
三角の山の形をした赤土で作り上げられたような建造物は車輪があるから馬車なのだろうが、普通の馬では引けない程の巨大で禍々しいものだ。
側面にはカイユー達が戦う予定だった鬼たちが貼り付けられている。
それも、肉塊に近い状態で痛めつけられた状態で、だ。
その馬車が危険なのは、鬼の肉片をぶら下げているからではない。
そこらじゅうに砲台と言える穴が開いており、そこから銃口を突き出してはカイユー達に対して銃弾の雨を降り注いでいるのだ。
そんなろくでもない馬車を引いていたのは、象ほどの大きさのある馬だったらしき生き物達だ。
様々な生き物を生きたまま魔法合成して作られた生物は、その身の辛さの為なのかとても攻撃的で、今や馬車を引く必要が無いならばと、アルバートル達が近づく度に喰らいつこうと襲いかかる。
「ひどいわ。あの砲撃手は全員がグールね。」
「え、そうなの?」
「そうよ。ごらんなさい。天辺まで穴が開いているけれど、あの部分に人が入りこめて?子供でも入っている?その割には突き出す銃口が多すぎる。」
私はミアの言葉に要塞を見返して、ミアの言葉通りだとぞっとした。
「あれは人間を魔法合成して作り出したものなのね。ああ、聞いた事がある。アルバートル達がダグド領を目指したのは、彼等がガルバントリウムそのものに殺される予定だったからだって。」
「あそこは臆病者の巣よ。一人じゃ何もできないから、人に対してとても残酷になるのよ。怖いから、自分よりも力を持った人間は排除する。その時には仕返しを受けることが怖いから徹底的に壊してしまうの。私達を助けようとした人もきっとあそこの肉団子にされたかもしれないわね。」
「あなたを助けようとした人がいたのね。」
「ええ。もともと村を襲ってきた瘡鬼への対処として私達が呼ばれたのだもの。人に寄生して増えていく動く毒キノコ。父が殺されてしまえばその人の子供達は全員が瘡鬼の苗床になってしまう。いえ、なってしまったでしょうね。」
「ミア。あなたは生きるのよ。一緒にあいつらを潰しましょう。今世では無理でも、次の世代、その次の世代にはあいつらを完全に撲滅させましょう。」
「無理でしょう。相手は神様の手先だもの。」
「いいえ。神は死んだわ。一瞬アルバートル達に姿を見せた金色の縁取りのある真っ赤な司祭服姿の男、あんなのは神の使徒と言えて?」
「そうね、でもどうするの?まずはあの要塞を何とかしないとあなた方の竜騎士は手も足も出ないじゃないの。」
私は私達の後ろで絶対防御のオーラだけを出している魔王に頼ることにした。
「シロちゃん。お願いします。あの要塞を壊してくれる?」
「無理。僕ではパワー不足です。あれは沢山の人が編みこまれたものなの。痛い苦しい辛い、全部の苦しさが攻撃への防御になっているの。これ以上痛い思いは嫌だっていうのがあの山になっている人達の共通の意識で祈りなの。」
「まあ!なんてひどい。それで何の攻撃も効かないのね。打つ手はないのね。」
「うーん。僕はパワー不足なだけだから。」
「クラーケンの時のように歌を歌えばいい?」
「でも、ノーラは僕の魔法防御から出たところで歌わなければいけない、です。」
私はわかったと、一歩前に出た。
うわ、後ろに私は引っ張られた。
「ちょっと、あなた!死んでしまうでしょう!」
私はミアには感激していた。
彼女は根っからの善人であるようなのだ。
「大丈夫よ。銃弾が来る前にワンフレーズぐらい歌いきって見せるわ!」
私はミアを振り切ってずんずんと前に出ると、さあ来い、という気持ちで、この場所にふさわしいだろう魔女の歌の最初のフレーズを戦場に響き渡らせた。
次のフレーズを口にした所で要塞は私に銃口を全て向けた。
「この馬鹿女!何を目立つことをしているんだ!」
アルバートルの叫びに呼応するように砲弾までも私に向けて撃ってきた。
さあ、殺せ!
私は子供を逃がすまでは死にはしない。
私の子供を害するお前たちの足を止めるためになら、なんだってしてやろう。
砲弾は私の数メートル手前で全て弾け飛んだ。
「姉さま。歌い続けて。姉さまの歌で苦しんでいる砲台の人達の意識までも僕に流れ込んできました。苦しい、助けてって。僕は編みこまれた彼等を解いて自由にしてあげることができます。」
私はシロロを素晴らしいと称えながら歌い続け、そして、シロロは私の願い通りに死体を編みこまれて作られた地獄を破壊した。




