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黒竜の養女となったノーラさんの備忘録  作者: 蔵前
恋愛も結婚も持続させることこそ大変なのね
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お魚焼きを求めて

 ミアとシェーラを一緒の部屋には入れておけなかった。


 シェーラはミアに対しての罪悪感が物凄く、ミアに殺されても構わない位の勢いであり、ミアはそんなシェーラによってさらに自分の感情を押さえられないという悪循環に陥ってしまっているのだ。

 エレノーラは落ち込んで泣くシェーラを慰める事につきっきりとなり、私はミアの監督官なのだからとアリッサとリリアナによって部屋を追い出された。


 アリッサとリリアナは慰めることが面倒だという顔を隠してはいなかったが、彼女達は温かい部屋から出たくはないという気持ちも隠していない。


 寒い廊下に追い出された私とミアだったが、可哀想な仲間同士と二人で顔を合わせてにっこりするどころか、お互いに嫌そうな表情を見せあって顔を同時に背けた。


 ミアは私をシェーラ以上に罵るのだ。


 人の気持ちがわからない女。

 自分本位で良い子でいたいだけの嫌な女。


 アリッサやリリアナやシェーラに今まで罵られてきた言葉でもあり、よって違うと言い返せないこの鬱憤をどうしたらよいのだろう。


「ああ、なんだか腹が立つ。酒でも飲みたい気分だわ。」


「あら、いいわね。お酒って言っても、あなたの飲むお酒は果実酒っていう可愛いものでしょうけど。」


 プチンと頭のどこかが切れた。

 アリッサの幼い頃の真っ赤なワンピースを着たミアは、アリッサのように完璧な美少女という風情では無いが、鋭い目つきと赤という色合いが妙にマッチングして本気で嫌な子供に見える。

 そんな彼女が私をせせら笑ったのだ。


「いいわよ。飲みましょうか。飲んで見せるわよ。物凄く強い蒸留酒がこちらにはありますもの。」


 ブランデーを作る方法を知っている老人がダグド領に捨てられて以来、ダグド領では買って来た葡萄酒からブランデーを精製しているのだ。

 樽から瓶詰めされたブランデーは、領民の家々に常備品として配られている。

 ブランデーにしたら葡萄酒よりも室温で長くおいしく持たせられるし、アルコール度数の高い酒は消毒薬にも使えるからとのダグドの領民への思いやりだ。


 そんな思いやりを台無しにした事があるのがアルバートルだ。


 しかし彼もブランデーの度数を知らなかったのだろう。

 領民を誑かせてブランデーを手に入れた彼は、たった一晩で一本を空け、当たり前だが酷く酔っぱらい、エレノーラを恥ずかしさで真っ赤にさせた。

 以来、アルバートル限定のブランデー禁止法が、ダグド様よりも偉い差配人であるエレノーラによって領内に発布されているのだ。


 しかし、アルバートルはめげない。


 自分の魅力を知っている彼は、領内の老女を誑かしてはグラス一杯を分けて貰って喜んでいるのである。

 そんなことをしなくとも、瓶詰めされた物が私の住む屋敷の台所の棚にずらりと納められているよと、私は時々彼に教えてやりたい誘惑に駆られる。

 いや、知っているか。

 彼はシロロに与えられた何でも見通せる能力で全てを知ることができる。



――お前はやりすぎなんだよ。



「他に生き方を知らないんだもの!」

 私の一人ごとは思いの他大きかったようだ。


「何をぷりぷりしているの。あの可愛い子に振られたから?」


「振られていないし、ぷりぷりしていないわよ。」


「そう?まぁ、振られてもあなたは大丈夫よね。あのハンサムさんがいるもの。」


「エランは私が差配人の代理も出来るから頼んで来ただけよ。」


「あら、鈍感なそれは振り?それとも本気で鈍感な馬鹿なの?」


 ああああ!この小さい小憎たらしい生き物を潰してやりたい。

 絶対にこの性格の悪さはリリアナと気が合うはずだ。

 それに、ミアはリリアナとは普通に話していたじゃないか!


「もう!」

「何よ。」


「見て!ノーラ姉さま!みてみてみて!」


 私は可愛らしい声に一瞬でささくれた気持ちが収まった。


「なあに、シロちゃん!」


 シロロは自慢籠を私達に差し出した。

 シロロの差し出して来た小さな籐籠は、お菓子を入れられるように花柄の布と白い布が籠の内側に縫い付けてあるという可愛いものだ。

 エレノーラがその籠を作っただけでなく、彼女は最新のお菓子を彼に手渡す時にはそこに入れるので、彼は最新のお菓子がそこに入るとその籠を領内の人間に見せびらかして歩きまわる。


 よって、領民からはシロロの自慢籠と呼ばれている。


 そんな自慢籠には魚の形をしたホットケーキのようなものが可愛らしく並べられていた。

 甘い香りもあるが、お腹が鳴りそうなチーズの焼けた匂いもある。


「なあに。この可愛いお魚さんは。エレノーラの新作なの?」


「うふふ。ダグド様が作ってくれました。お魚焼きです。お魚の中にはとろけたチーズとハムが入っているのです!あと、あとね、カスタードクリームもたっぷりと入っている子もいるの!」


 籠を抱えてキュウという感じに喜んでいる彼は可愛いの一言で、でも、私は嫉妬心も湧き出ていた。

 いや、欲しいという渇望感か。


「私にも頂戴!」

「いやあ!」


 彼は嬉しそうに叫び声をあげると、たかたかと走って私達が追い出された扉へと逃げ込んでいった。

 ママと自分を呼びかけた彼を、エラノーラが室内に引き込まないはずは無い。

 シロロが室内に入ってすぐに、室内からシロロのお菓子に対する嬌声が廊下に聞こえる程に大きく沸き起こった。


「行くわよ。台所。私達もあのお菓子をダグド様に強請るわよ!」


「あなた方はお気楽でいいわね。」


「あなたも楽しめばいいじゃない。」


「たった一週間だけの幸せ?その後は荒野で朽ちろと?お優しいのね。」


 私はミアを引きずるようにして台所を目指す事にした。

 私は明日が不幸ならばこそ、今を楽しみたいという人間だ。

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