自分にこそ頼って欲しい
ミアがお風呂に入っている間にと、私はミアの為に私達の幼い頃の衣服を引っ張り出していると、私の後ろからクッキーの香ばしい香りが漂ってきた。
「シロちゃん。お洋服のお部屋にお菓子を持ち込んだら駄目よ。虫が湧いてしまうでしょう。」
「きゃあ!」
物凄く嬉しそうな声に振り向くと、レースが飾ってある大きな襟がついた白いブラウスに水色の緩く編んだ丈が長めのセーターを合わせ、下はツゥイードグレーのショートパンツという可愛い格好の彼は、これまた可愛くピンク色に紅潮させた頬に両手を当てて目をキラキラとさせている。
「お姉さまもフェールみたいに僕の気配が読めるなんて!お姉さまはやっぱり僕のことが大好きなんだ!」
シロロかくれんぼでフェールが透明になっているシロロをいの一番に何度も見つけることに驚いてもいたのだが、フェールはかなり鼻と頭が良い男であったからだということらしい。
きっとダグドだってこのシロロ発見方法には気が付いていないだろう。
彼は魔王だけあって隠れたい時には完全に姿を消せるのだ。
さて、フェールが気付いていたシロロ発見法、単にお菓子の香りを辿るってだけであるが、シロロのショートパンツのベルト部分にはお菓子袋というきんちゃく袋が最近では常にぶら下っており、それがお菓子の香ばしい匂いを周囲にまき散らしているのである。
ただし、ヒヨコ柄の袋は単体では可愛い物でもあったが、エレノーラが作ったシロロの服にそぐわないどころか服装の完璧さに水を差すような存在だった。
私が作ってあげたお菓子用の袋だが、やっぱり私は布のチョイスに難があるなと、自分のセンスの悪さを改めて思い知らされた。
「フェールも言っていたんだ。僕を可愛がる人は僕を絶対に見つけられるようになるって!そしたらダグド様も見習う事にするって!」
「ふふ。私ももっとあなたを見つけられるように、もっとあなたを可愛がらなければね。あなたが元気に戻って嬉しいわ。エランが帰って来たからかしら。」
うわ、目に見えてがっくりとしてしまった。
「どうしたの。」
「だって、エランはお姉さまには頼ったのに、僕には全然頼らない。僕はエランたちにクエストの答えも危険も差し出したのに。」
私は数日前の夜に自分がシロロに言ってしまった事を思い出して、この考え無しの自分と頭の中で自分の頭を叩いた。
「そう。ミアを生き返らせたのはあなたなのね。それで、差し出した危険は一体何だったのかしら。」
「北は鬼族の住処です。そこでね、グールになっちゃった鬼たちもいるの。」
「まあ、怖い。そんな怖い鬼にエランを襲わせたの?」
「いいじゃない。エランは魔法解除の魔法を持っているもの。蘇生術で失敗してグールになった鬼だったら、エランが魔法を唱えればただの死体に戻せるでしょう。でも、怖かったら僕を呼んでくれると思ったのに。」
私はしょぼんとしてしまったシロロを抱き上げた。
「エランが強いのはダグド様のお墨付きでしょう。アルバートル隊はラスボス対応仕様だって。だから中ボスのしがない自分はせっせと彼等に貢いでいるんだと、意味の解らないことを言って笑っているじゃないの。」
「うん。あれ?ダグド様が呼んでいる。」
私の腕の中の子供はぱっと姿を消した。
でも、彼のお陰でカイユーが怒った理由も良く分かった。
そうね、私とエランのやり取りを見てシロロみたいに感じたのだろう。
私は差配人の代理者という職務を全うしているだけなのだけどね。
――お前はやりすぎなんだよ。
アルバートルの罵りも思い出した。
でも、やりすぎないやり方ってわからない。
私はこんな行動しか取れないんだもの。
「服はまだなの!ミアが風邪をひいちゃうじゃないの。」
リリアナが怒りながら衣装室に入ってきた。
「ひゃ!ああごめんなさい。もう上がったの?」
「とっくよ!シェーラもミアもお風呂のある国の人間だもの。初めてのお風呂にぎゃあぎゃあ喚いていたあなたと違うのよ。」
ああ、もう!
今日は嫌な事ばかりだ。




