誓い
「何を話すというの?私達はあなた方のせいで家族を失ったわ。ガルバントリウムに害をなすダグドがいたせいで、父が、この地の人々に病を治してくれと乞われて海を越えてやってきた父が、この地の奴らに異教徒だって拷問されて殺されたのよ!ぜんぶ、全部あなた方のせいだわ。」
「それは違うわ。あなた方の不幸はガルバントリウムじゃないの。滅ぼすべきはガルバントリウムよ。何をとち狂っているの。」
「ハハハ。私を甦らせたのは誰よ。とち狂っているのは誰よ。ガルバントリウムに復讐するべき?ええ、わかっているわ。だからあなた方を殺すの。一人残らずね。ダグドが怒りによってこの世界を滅ぼしたくなるほどにね。」
ミアは再び飛翔をして私に飛び掛かって来たが、私はエランによって抱き締められて雪の中に転がった。
ザシュ。
私がいたところにミアは舞い降りたが、その両手の爪には鋭く長い爪が刃物のように生えている。
チュン!
ミアの足元で銃弾によって雪が舞った。
「それ以上攻撃的だと君を撃ち殺すよ。」
カイユーだ。
彼は両手ではなく片手だけにしか銃を持っていない。
ミアを殺すつもりはカイユーには毛頭なく、でも、銃を向けられたミアは双眸を輝かせた。
「いけない!カイユー!」
私はエランを押しのけてカイユーの元に走り、ミアはカイユー目掛けて飛び上がった。
彼女は死にたいのだ!
「だめ!カイユー!」
私も飛び上がりミアの胴体を掴んだ。
ただし、ただの人間の私では彼女の運動エネルギーを止める事など出来るわけもなく、彼女の軌道を逸らせただけで、つまり、私はミアを抱いたままかなり強く城壁にぶつかったのである。
「あっつ。」
左側はかなりしたたかに壁に傷めつけられて、頬骨の辺りはシェーラに殴られた時の比でない程の激痛だ。
「ノーラ!大丈夫か!」
「あんた!何を馬鹿なことをしているのよ!」
カイユーの大声にミアの声が重なった。
やっぱりだ。
彼女は死にたいだけであり、誰かの心や体を傷つける気持ちはあるかもしれないが、誰かを本気で殺す気持ちはない。
私はミアの左手首を掴んだ。
「私の怪我が悪いと思うなら、私の監督下に入ることを了承しなさい!」
「あんたは急に何を!」
「いいから!こんな寒い所でうだうだやっていたくないの。ダグド領の皆を殺したいんでしょう。そのためには中に入る必要がある。私の監督下に入ればこの領地に入れるわよ!どうするの!」
ほとんど恫喝に近いが、私は必死だ。
なんとなく、アールとのやり取りを急に思い出してのこの方法だが、ミアに約束をさせることで彼女を押さえることができるような気がしたのだ。
「お願いだ。私が君を想い続ける事を認めて欲しい。」
「いいわ。」
たったそれだけのやり取りで、私は彼を強く撥ね退ける事ができないのだ。
「さあ、早く決めて!私はこんな寒い所はうんざりなのよ!決めないなら、今すぐにカイユーかエランにあなたを撃ち殺してもらうわよ。さあ、どうするの!」
ミアはカイユーをチラリと見た。
うわ、カイユーはまた私に引いている顔をしている。
次にミアはエランを見て、おや、エランは雪の上に胡坐をかいて私達に微笑んでいるではないか。
そして、うわ、ミアはエランを目にして頬を染めた。
確かに、彼は貴族的な整った顔立ちの美男子であり、今のような小汚い旅装束姿の彼は日常めいていないからこそ二倍増しに格好よく見えるのだ。
影のある無頼漢風味を添加、という、熱々のアップルパイにこってりとしたバニラアイスクリームも乗せちゃったという罪深い存在となっているのだ。
「さあ、ミア。私の監督下に入ると誓いなさい。あなたはもう少しここに生きていたいと思うでしょう。」
エランから目線を剥がして私を見返して来た少女は、幼い外見ながら完全に大人の女性の目をして私を睨みつけ、それから観念したように誓うと言った。
「誓うわ。あなたの監督下に入る。」
「よかったわ。まずお風呂に入って服を着替えましょう。」
私はミアの手首を離すと彼女に手を差し出した。
ミアは私の右手に左手を乗せた。
私はミアと手を繋いだまま立ち上がると、ミアを締め出している城壁へ訴えた。
「私達は誓い合った。私は彼女を監督し、彼女は私の監督下に入ると誓いました。私の客人としてダグド領にミアの一週間の滞在の許可を求めます。」
果たして、城壁は城門を私達に解放し、私はミアと一緒にダグド領へと一歩踏み出した。
私達の後からカイユーとエランも領内に入って来た。
「ミア、ようこそダグド領へ。俺も風呂に入って小ぎれいになって来ます。またあとで会いましょう。」
ミアはエランの気さくな物言いに真っ赤になった。
「え、ええ。それは良くってよ。」
エランはその返しを聞くと楽しそうにハハハと笑い、私達に騎士風の礼をした後に見張り台という自分の家へ戻っていった。
踵を返す時に私の肩をポンと叩いていったが。
「俺はノーラの何なんだろうな。」
カイユーの暗い声に私はびくりとした。
「な、何を言うの?」
「俺に何も期待しないのに、ノーラは俺のどこがいいの?幼い所、かな。」
「そんな!」
続きは言えなかった。
カイユーは言い捨てるや見張り台へと走り出しており、敏捷が取柄の男はすでに階段を上がり切っている。
「どうしたらいいのだろう。」
「恋人の前で恋人じゃない男との方が気心が知れている素振りをしていたら、誰だって傷つくでしょうに。」
私は右手で握っている小さな手を放りだしたい気持ちとなった。




