帰還
エランとシェーラはたった一週間でダグド領に戻ってきた。
そして、シェーラにとっては家族の死への罪悪感を薄めるための一か月のクエストでもあったのだが、その旅が一週間で終わったからか、彼女は私への憎悪で一杯になっていた。
私がシェーラをクエストに旅立たせた張本人でもあったからだ。
どうして彼女に知られたのかはどうでもいい。
私は彼女に責められる覚悟だってしていたのだ。
けれど、シェーラとエランの突然の帰還を知った時には、私はまだシェーラの怒りなど知り様がなかった。
私は帰還の報を聞くなりアルバートル達の詰所である見張り台に向かい、そして、会議室に私が入った途端に私は復讐の女神に殴り飛ばされたのである。
それも、拳で思いっきり横っ面を殴られたのだ。
無防備だった私は当り前だが後ろへと大きく倒れ、だが、倒れるところで誰かが抱きしめてくれたので転ぶ事は無かった。
優しい腕の感触にカイユーだろうかと見れば、私を支える男はエランだった。
旅装束姿のままの彼には無精ひげも生えており、少々臭くなっているうえに小汚くもあるが、疲れで翳りのある表情に清廉そのままの緑がかった青い瞳という、無駄に魅了的にもなっていた。
「ありがとう。」
「いいえ。」
では私はシェーラへの仕返しへ行くぞとエランの腕から逃れようとしたが、私の身体はエランによってがっちりと固定されていた。
「ありがとう。もう大丈夫だから放してよ。」
「ダメだって。姐さん。そのまま動かない。」
フェールが私の頬に右手で触れた。
一瞬で痛みが消えたことにフェールに感謝したが、フェールは私をこのまま動かさないという風に私の壁になった。
「そうだよ、ノーラ。動かないで。」
「カイユー。」
カイユーも私の壁になってくれた。
彼らは私をシェーラの暴力から守ってくれるつもりなのだろう。
理解して彼らに感謝も捧げたが、私は自分の事は自分で出来る。
シェーラを殴り返したいと体を、――動かせない。
エランが私を羽交い絞めにするのはわかるが、フェールとカイユーまでも私の身体を押さえつけたのだ。
「どうして!私こそ被害者でしょう!」
あ、シェーラを押さえているアルバートルは、なんだかシェーラを守るような感じで彼女の前に立ち塞がっている。
こんな納得できない状況で声を上げてくれたのは、当り前だが私の敬愛して尊敬するダグド様だ。
「ねぇ、君達。どうして殴られて吹っ飛ばされたノーラの方を押さえるの?ノーラが可哀想じゃないの。」
そうだそうだと私は大きく頷いたが、私を押さえているフェールが余計なことを言い出した。
「何を言ってんですか。ダグド様は。この姐さんは怖いの。シェーラちゃんの攻撃がヒットポイント3ぐらいの可愛いものなのに、この姐さんはオーバーキルなクリティカルヒットをぶち込めるんですからね。」
私は抑えられていない足でフェールの脛をしたたかに蹴り飛ばしていた。
そのせいで、私はなんとエランに後ろ手に縛られた上に彼の肩に荷袋のうように担がれて、その後はなんと、営倉という名のエランの部屋に放り込まれたのである。
唯一の救いはカイユーが付き添ってくれた事と、エランに対して抗議の声を上げてくれた事だろう。
「エラン待って。本気で待って。ノーラ返して。お願い。俺に返して!」
良かった。
公衆浴場での事件の日以来、私は彼と顔も合わせていなかったから、実はその彼の言葉はとても嬉しかった。
男に所有物扱いされて喜ぶとは何事かと、ダグドには怒られそうでもあるが。




