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黒竜の養女となったノーラさんの備忘録  作者: 蔵前
恋愛も結婚も持続させることこそ大変なのね
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小さな味方

 私は目元の涙を袖でぐいっとふき取った。

 私がカイユーを追うことが彼の負担にしかならないのならば、いいわよ、気取り返った修道女と言われた事がある私だもの、経験を求めるのはやめる。

 しかし、私の意志よりも私の性欲の方が強いみたいだ。

 私の目の前にはコポポルのあの日のあの部屋が広がり、ベッドの中の私の右手を取って私にアールが懇願しているというあの場面に私は戻ってしまったのだ。



「ノーラ。失恋しても想い続ける。それは辛いがとても楽しい事だ。」


 私の右腕はアールに囚われ、ああ、私の右手首は彼の愛撫を受けている。

 はあっとため息が漏れ、私の身体は熱くなり背筋には不快とは反対のぞくっという感覚が走った。


「お願いだ。私が君を想い続けることを許すと言ってください。あなたを許すと。あなたのすることは何でも許すと。」



 私はぎゅうっと右手に拳を握った。

 あの日のアールには許すと言ってしまったが、今は幻影の中でしかないならば、今度こそは強く私は踏ん張れるはずだ。

 あの日だってもう少し頑張れば、私がカイユーに後ろめたい気持ちなど抱く事も無いからにして、こんなにも恥も外聞もなく彼を追いかけることも無かったはずだ。



「何もない永遠はとても辛いものです。」


 アールの真っ黒の瞳はダグドの瞳にも似て温かく、ダグドに見つめられたいと願った少女の頃の自分が求めてしまいそうなほどに私への愛を浮かべている。



 そうだ、この瞳だ。

 この黒い瞳が私を捉えて離さないのだ。


「ノーラ。」

「ノーラ姉さま。」


 アールの囁きにシロロの声が重なり、私の白昼夢はぶつっと消えた。

 体の発熱もゾクゾクだって一瞬で消えて無くなり、私は急に目の前に現れたシロロの姿に驚くよりも彼を助けの神だと抱きしめていた。


「あれ、姉さま。」


「ごめん。でも、シロちゃんのお陰で私は自分に戻れたから。ありがとう。」


「ううん。僕も姉さまに抱っこして欲しかったから。ありがとう。」


「まあ、どうしたの?あなたは。」


 私は腕の中のシロロを見返すと、あら、まあ、彼の目元は泣きすぎて赤く腫れている。


「まあ、まあ。お互いに泣いたばかりね。私の部屋にいらっしゃい。今日は私とパジャマパーティでもしましょう。」


 シロロはこくりと頷きはしたが笑みも無く、しかし、私の手を彼は握ったままであるので私も彼の手を強く握り返して彼を自分の部屋へと連れて行った。


「今日は私の部屋で一緒に寝ましょうか。」


「うん。邪魔じゃない?」


「邪魔だったら誘わないわよ。」


 私は自分のベッドの掛布団を捲ると、シロロを抱き上げて有無を言わさずにベッドの中に入れ込んだ。

 そして、自分はベッドに腰かけてシロロの白く柔らかい髪の毛を梳く様にして撫でた。

 あ、シロロが初めて笑った。


「お姉さまは優しいだけじゃないから好きです。」


「あら、あなたは意地悪な方が好きなの。」


「ううん。お姉さまは嘘が無いってことです。約束も絶対に守ってくれる。僕の傍にいるって決めたら、誰が呼んでも僕の傍にいてくれるでしょう。」


「当り前じゃないの。」


「でも……。」


 シロロを慰めていたエレノーラは、シロロが寝入ったからとダグドのベッドへと戻ったのであろう。


「エレ姐もシロちゃんと一緒に寝るって約束したら、シロちゃんが寝てしまってもシロちゃんの部屋にいるわよ。」


「でも……。」

「でも?」


「エランは僕を呼んでくれない。僕はね、エランに召喚のお札を渡したの。何かあったら僕を呼んでって。僕の名前が書いてあるお札を渡したんだよ。でもね、エランは一度だって呼んでくれない。」


「それは危険が一度も無いからじゃない?まだダグド領を出て二日じゃないの。」


 シロロはじわっと両目に再び涙を浮かべた。


「危ないことだって何度もあったもの。」


「まあ!シェーラとエランは大丈夫なの?大怪我をしてあなたを呼べないくらいなの?」


「ううん。二人とも怪我一つない。」


「まあ、それじゃあ危険とは言えないわよ。本当に危険だったらあなたを呼び出すわ。エランはプライドの高い兵士だもの。簡単に誰かに頼ったりはしないでしょう。だから仕方が無いのよ。」


「じゃあ、やっぱり僕は一か月以上はエランに会えないの?」


 私はベッドにごろりと横になると、シロロをぎゅうっと抱きしめた。


「彼が必死なのは一日でも早くダグド領に戻って来る為かもしれないわよ。」


 私の腕の中のシロロはきゃあと嬉しそうな声を上げた。


「そうですね。一日でも早く帰って来ればいいんだ。お姉さまに相談して良かった。お姉さまのお陰で僕はもう悲しくない。」


「まあ、シロちゃんたら!」


 私はシロロが本当に可愛らしいともっとぎゅうっと抱きしめた。

 私は誰をも幸せにできないのに、シロロだけは私のお陰で幸せだといつも言ってくれるのだ。

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