そんなに私は悪いのか
塀に登って塀の下敷きになった三人は、塀に登らなかったので塀の下敷きにならなかったイヴォアールによって次々と引きずり出された。
その後は全員の無事を確かめ合うや、ものすごく格好悪い姿でもあったが、とりあえず私達の目の前からほうぼうの体で消えた。
彼等の裸に見慣れているリリアナは彼等の痴態に鼻で笑うだけだったが、同じように、いや、見慣れていたのは奴隷市場の奴隷の体だったからか、アリッサはガラス窓に貼り付いて一部始終を必死で見守っていた。
「ああ、良かった。誰も大怪我をしていない。」
「アリッサ。あなたは優しいのね。」
彼女はくるっと私に振り向くと、大きな目を半目にして私を睨んだ。
「カイユーちゃあんって、恋人のあなたが普通は飛び出しても良いはずでしょう!何を平然としているのよ。」
「いや、だって、あの程度の衝撃と、落ちかかってきた塀の重量じゃあ、大怪我をするなんてありえないでしょう。下は柔らかい芝生なんだし。雪も積もっているし。」
アリッサは私の返事が納得できないのか、綺麗な顔をかなり歪めた。
お前は何を言ってんだって顔に書いてある。
「だから、普通に考えて大丈夫だなって。」
うわ、リリアナまでアリッサと同じ表情で私を睨んでいる!
二人の目線にいたたまれなくなった私は、私と同じように運動エネルギーを計算できるモニークに助けを求めた。
モニークは顔どころか皮膚と呼べる場所全てを真っ赤に染めており、頭からは湯気が出そうなほどだった。
「モニーク。どうしたの。」
「嘘。あたし、イーヴの裸を見ちゃった。どうしよう。明日から恥ずかしくてイーヴの顔なんて見れない。どうしよう。」
「だから言ったのに。ノーラの考え無し。」
リリアナにとって私は完全に悪のようだ。
「だって女子会なのに呼ばないっていう仲間外れは出来ないし、こんなことになるとは思わなかったもの。」
「ふうん。男の裸鑑賞会って伝えたの?あなたは?それでモニークは今夜ここに来たのかしら?」
モニークはリリアナの言葉にぶんぶんと首を横に振った。
「うそ、知らない。そんな会だったの?ひどいわ!ノーラ!」
私を酷いと言ったモニークは音楽室を飛び出して消え、リリアナとアリッサは二人で飲むことにしたから帰れと私を追い払った。
「ええ!帰るわよ!」
私も音楽室から飛び出して、でも、屋敷に帰る気にもならず、広場には誰もいないだろうと広場に行った。
そこで、人がいないからと来たはずだったのに、雪塗れで閑散とした寂しい広場を目の当たりにした事で、一人ぼっちの自分がさらに情けないものと身に染みてしまった。
私は何をやっても空回りだけ。
カイユーに呼び止められたあの夏の日は、なんだか数年ぐらいは前の出来事のように感じてしまう。
二人で縁石に座って、そうだ、彼は褐色の肌の男の方が魅力的なのかと私に尋ねて来たのだ。
私は縁石の雪を払うと、冷たいと思いながらそこに座った。
全身が凍えてしまいそうなくらいに石は冷たく、でも、どうしようもなくなった自分にはちょうどいい戒めのような気もした。
私は一体何がしたいのか。
カイユーと本当は何がしたいのか。
これが恋だというはずなのに、相思相愛なはずなのに、どうしてモニークのようにはならないのだろうか。
「どうしたらいいんだろう。」
サクッと雪を踏んだ音に気が付いた時には、縁石に座る私の上には月明りに照らされた男の影が落ちていた。




