愛し続ければいいのだ
逃げていく先は自分の部屋だろうが、第一城壁から第二城壁迄は四十五分は軽くかかる。
愛する男を殺しかけた私は取り合えずに癒しをと考えて、厩舎に行って馬を見ることにした。
ダグドの飼牛を撫でるのも良いかもしれない。
しかし、厩舎に行くどころか、見張り台の外階段の脇でしゃがみ込んだシロロが鼻をすすり上げている、という場面に出くわした。
「どうしたの。シロちゃん!あなたに何が起きたの!」
ずるっと鼻をすすり上げた彼は、死んじゃったと呟いた。
「死んじゃった?」
彼は指を差した。
真っ赤なアリが十数匹ほど、体を捩じって死んでいるのだ。
「あら。こんなに真っ赤なアリは初めて見たわ。どうしたの?」
「このアリはヒクイアリです。毒を持っているの。噛まれた人は噛まれたところが大やけどしたように痛むからヒクイアリって言うの。僕はアルバートル達が噛まれたら危ないからって、この子たちを殺したの。」
私は偉いわねと彼に言いかけて、彼が最初に死んじゃったと答えた事を思い出し、シロロをそっと抱き寄せるだけにした。
「お姉さま。僕が何もしなくても疎まれて追い出されるのは、ヒクイアリと一緒だからなんですね。僕は魔王で、魔王になるから。」
私は彼をぎゅうっと抱きしめて、コポポルで一瞬だけ出会った青年を思い出していた。
どうもって挨拶をしただけの、希望のない目をした狼族の青年。
「ねぇ、シロちゃん。狼族に会いに行こうか」
「では、テレポートを。」
「いいえ。あなたはヒクイアリを召喚できるのでしょう。大きなヒクイアリを召喚しましょう。死んじゃったヒクイアリを人を乗せて人の助けになるヒクイアリにして呼んでくれる?もう少しだけ走り回らせてあげましょうよ。」
彼はにこっと微笑むと、私の手を引いて城門の外に飛び出し、私が彼に頼んだ通りに大きな大きなアリを呼び出した。
「頭に乗せてくれるって。」
「まあ、素敵。」
私達が乗れるように巨大な昆虫は頭を下げ、私はシロロの手を握りながらそのアリの頭の上に乗った。
私達が頭に乗るやアリは体を動かして、ああ、なんということだ、アリの頭の上から望む世界は、広々として空を飛んでいるみたいだ。
「素敵。ああ素敵。こんな見晴らしがよくて素晴らしい乗り物に乗れたのは、シロちゃんがいるからね。シロちゃんがこの領地に来てくれて良かった。あなたは辛かったかもしれないけれど、私達はあなたに会えたのだもの。」
彼は大きく笑い声をあげて、僕も良かったと世界に叫んだ。
「僕を追い出してくれてありがとう。僕を忌み嫌ってくれてありがとう。おかげで僕は誰よりも幸せで、誰よりも愛されている子供になれました!」
「えぇ、その通りよ。愛しているわ。あなたは私達の大事な子供だわ。」
アリは狼族の村を目指して六本足を大きく動かして進みだし、私とシロロは歓声を上げながらアリの頭にしがみ付いていた。
私はシロロを見守りながら、なんて愛おしいのだろうと彼の頭を撫でた。
そうだ。
ずっと見守り続けるって、ずっとずっと愛し続けると同じではないか。
私達はずっと互いを見守り続けよう。
一生独り身であっても、それが私の幸せだ。




