怒れる男
六日前は元気だったアスランには意識が無く、彼はエランとデレクによって担架に乗せられた状態でダグド領に戻って来た。
そして私はアスランの帰宅とその状態であるという事を耳にするや、デレクの家へと向かい、そこでアスランの顔を一目見るどころかエランに私が見咎められて物凄い勢いで怒鳴りつけられた。
「この考え無し!何をしているんだ!一週間安静と言ったら、一週間は安静にしていろと言う事だ!」
物静かに近い男の怒号は、怖いなんてものじゃない。
言い返すなんて頭も回らず、ただただ、ひょえっとなってしまった。
「でも、私が大丈夫だって昨日は。」
「部屋からトイレまでは大丈夫だろうってだけです。どれだけ歩きましたか?足は痛く無いですか?ヒールをかけた体が不完全に治ったら、もう二度と元には戻らないのですよ。骨が歪んでしまっても良いのですか。」
「ご、ごめ、きゃあ!」
謝り切る前に、私は当たり前のようにエランに抱え上げられた。
私はそのまま彼によって屋敷へと連れて行かれることとなったらしい。
「俺の首に腕を回して。その方が俺も楽です。」
「ごめんなさい。」
五日の間に学んだが、彼は一歩引いて相手の意見を聞こうとするが、自分が決めたことに関しては、それが正しいと信じる限り絶対に相手の言葉を聞かない。
私は諦めを持って彼の首に腕を回した。
「お帰り、ノーラ。」
囁き声のエランの言葉に、私は嬉しいどころじゃ無かった。
私の大怪我がエレノーラやダグドには秘密だったからと言っても、なんだか他国との諍いで領地が大騒ぎだったからだとしても、六日もいなかった自分の不在を誰も気にしていないどころか、彼が口にするまで誰にもお帰りと言って貰えていなかったことに落ち込んでもいたからだ。
私って、本当はいらない子なのかなって。
「あ、ありがとう。」
私の声が少し涙声だったのは、本当に本当に、お帰りと言って貰えて嬉しかったからに他ならない。
「もっと俺にしがみ付いてください。俺も意地悪でした。卑怯な賭けもしました。あなたがアールの元に留まるか、この領地に戻ってくるのか、そんな賭けです。」
「そんなの、賭けにはならないでしょう。私はこの領地以外では生きていけないもの。」
「あなたはどこでも生きていけますよ。」
「ありがとう。それは誉め言葉なのよね。」
「俺はいつでもあなたを褒めていますよ。」
「そうね。私はあくどくて、ろくでなしだって褒めてくれたわよね。」
エランの心地の良い笑い声が私の耳に響いた。
「お帰りって言ってくれてありがとう。」
「あなたも、あの王様を振りほどいて帰って来てくれてありがとう。」
私はエランによって私の部屋のベッドにいつの間にか横たえられ、私をベッドに横たえた男はその動作の延長のようにして私の額に口づけた。
「絶対にあと二日は安静にしていてください。守ってくれないのなら、次はキスじゃなくて舐めますよ。」
私はエランにキスされたところをパシッと手で押さた。
元司祭見習いとは思えない振る舞いと言動をした彼は、真っ赤になった私にこれまたいつものエランたりえない素振り、軽く片眼をつぶって見せるという動作を私に見せつけると、私の部屋から颯爽と出て行った。
静まれ、私の心臓。
いや、混乱したまま静まらないでいた方が良いかもしれない。
カイユーの惚れた女だと勘違いして失恋した自分を、私はベッドの中でこれから二日間も嘆き続けるのだろうから。




