兵士と騎士と
私達はダグドと私が向かうはずの屋敷へととぼとぼと歩き、誰もいない屋敷に灯りを点けると応接間の方へと向かった。
「えっと、お茶は淹れた方がいいかしら。」
「酒の方がいい。お前も飲めるだろ。俺が用意する。何がいい?」
「ブランデーに決まっているじゃない。」
アルバートルはぷはっと吹き出すと、大きな二つのグラスにブランデーをそれぞれ少しだけ注ぎ入れると、一つのグラスを私に手渡した。
彼は自分のグラスを持って私の座るソファのなんと私の隣に座り、私に何かを話し出すどころか自分のグラスを両手で持ってグラスをゆっくりと回しているだけだ。
ブランデーは自分の掌で温めて香りを楽しんでから舐めるように飲むものだ。
ワインやビールのようにブランデーを飲むと聞いていた男は、ゆっくりと静かに、一滴だけでも体を温める芳醇な酒を口に含むとほうっと溜息をついた。
「飲み方を覚えたのね。」
「失礼な女。」
私も自分のグラスの琥珀色の液体を口にしたが、今日は美味しいと思うどころか私の唇と舌を焼いただけだった。
「こんな強い酒に咽ないとは、可愛げのない女だな。」
「いいから話して。そのために来たのでしょう。」
「そうだな。ふざけるなって俺を笑うお前をもう少しだけ見ていたかったが、お前は結果を求める女だものな。仕方がない。」
私は聞きたくない、と一瞬だけ考えた。
彼が私に嫌われるか関係が壊れると確信している何か、なのだ。
カイユーの状態はそれほどに酷いというのであろうかと不安になったのだ。
「――あいつはね、騎士じゃないんだ。」
「え?」
「俺のさ、兵士なんだよ。俺はね、前線が大好きな人殺しでね、俺が前線が大好きなばかりに俺に配属された俺の部下は悉く死ぬことになるんだ。そんな俺のあだ名は味方殺しのアルバートルだ。」
アルバートルは私を横目で見ると、口元を軽くゆがませた。
「さぁ、優秀な騎士を俺にこれ以上殺されたくない教会はどうしたのでしょう!ハハ、彼等はなんと、俺に特権を与えてくれたのさ。それは、俺が独断で徴兵徴用出来るって権利だ。皮肉なことに、その頃には俺の足元にしがみ付いて生きていた孤児がいてね。そいつはその報を聞いて捨て石にされると脅えるどころか喜んだんだよ。わお!これなら僕も兵隊になれますね!」
「……それがどうかしたの?私はカイユーが騎士だろうがただの兵士だろうが。」
「しっ。お前がモテないのはそれが理由だよ。男の話を遮るな。喋らせておけ。どうせ相手は自分が喋り終わるまで、いや、喋り終わっても相手の話なんか聞かない奴らばかりなんだから、聞き流しておけ。うざい奴だったら俺に言え。そいつが二度と喋れないようにしてやる。」
「でも、あなたの話はうざくてもいつでも最後まで聞かなきゃいけないのね。」
「その通り。俺はおまえのそういう所が好きだよ。さあ、聞こうか。ここからが本題なんだ。」
私は頷いた。
頷いて、聞き流してしまいたかった。
「話しは簡単だ。傲慢な俺はあいつの任を不用意に解いた。そうしたら、あいつは自分で自分の胸を剣で貫いた。俺の兵士でいたかったからってね。」
彼は暖炉の形をしているだけの暖房に向かってグラスを投げつけた。
グラスは粉々に砕けて、それでもガラスの破片は照明を受けて煌いていた。
氷みたいになった雪の表面に外灯の灯りが反射して煌くように、あの夜のカイユーの周りで雪が煌いているかのように。
「あの夜、彼は私にごめんって言ったわ。直ぐに冗談めかしたけれど。その時には死んじゃう気だったのね。」
「そん時は出ていくって覚悟だけだろう。この領土には呪いが充満していた。気付いていたか?気付いてもいなかっただろうな。その呪いは俺の背中に貼り付いていたものだ。こんな天国のような場所には、呪いだらけの俺は似合わないだろ。だからさ、俺は出て行こうと考えていた。あいつはそれに薄々と気が付いていたんだろうさ。」
「カイユーもあなたと一緒に。」
「ああ、あいつは俺の行くところどこにでもついてくる気なんだよ。俺には女も酒も必要なんだよってねぇ。あいつがいちゃあ俺が遊べないだろって、あいつは考えないのかねぇ。」
彼はソファの背に体を乱暴に預け、足も大きく投げ出して、そして、首が折れた様にがっくりと顔を天井に仰向けた。
「それで邪魔なあいつを俺は殺しちまった。」
――俺は戦場にいけないと死んでしまう。
カイユーの戦場はアルバートルがいるその場所そのものだったのか。
「嘘吐き。あなたはカイユーをここに残したかっただけじゃない。」
「――聞き流せって言っただろ。」




