夕飯はただの夕飯でいいのに
迎賓館の台所は城の台所よりも当り前だが狭い。
しかしながら、だからこそ小人数という家族分だけ作るという作業には使い勝手が良いともいえるだろうが、なぜか台所には乙女隊が集結していた。
エレノーラはいないがそれでも五人はぎゅうぎゅうで、そして、なぜか当事者のはずの私が彼女達から弾き出された。
「え、どうして!私がカイユーに手料理を作ってあげたかったのに!」
シェーラは私のスープには毒を入れてやるから心配するなという顔で私を睨み、アリッサは私におどけて見せて、モニークはやっぱり可愛らしかった。
「そうよね。でも、あたしもイーヴにご飯を作ってあげたいの。」
なんと、モニークの左腕には宝石が一粒付いた細いバングルが可愛く輝いており、なんか、シャラララランという風な音までも聞こえるかと錯覚するほどだ。
イヴォアール様の故郷では、恋人や妻に何かあると金の腕輪を贈り、幸せがあった分だけ女性の両腕は金の腕輪で重くなるのだそうだ。
ちょっとうらやましい風習だ。
でも、そんなにも羨ましい状態の人なのだから、今夜はここを引いて欲しい。
「モニーク。ここに皆が来ているという事は、屋敷は誰もいないって事よね。イーヴ連れて屋敷に行きなさいよ。そこで、二人だけのディナーや、ひっろいお城の台所で一緒にご飯づくりをするのはどうなの?」
「きゃああ!ノーラったら。でも、今夜はカイユーを慰める会でしょう。」
「そうよ。せっかく記憶を失ったのにノーラが婚約者だと知った可哀想なカイユーを慰める会よね。」
私はアリッサに布巾を投げつけた。
「まあ、アリッサったら。あ、でも、そうね。あたし達がいた方が邪魔かもね。イーヴに話してくる!」
真っ赤な巻き毛がふわふわさんは取りあえず台所から追い払った。
私はカイユー一筋の女性に向かい合った。
彼女はふんっと鼻をあげると、一歩も引かない構えを見せた。
「カイユーが私に来て欲しいって誘ったのよ。」
「え?」
「それホント。ノーラに知られたんならってダグド様が解禁したからね、カイユーは領内をうろつけるようになったの。ついさっきアルバートルと散歩に出てきていたでしょう。でも、びっくりよ。あの子が私達を誘ってくるなんてね。」
ぐるりとアリッサは目玉ではなく頭まで回し、彼女のピンクブロンドをさらさらとさせた。
「え、お誘いって。」
「え、普通に。初めまして、きれいな人達にびっくりしました。どこかでお会いしましたか?ほら、僕は記憶を無くしてしまったものですからって。」
「え、それは本当にカイユー?」
「え、もともとそんな喋りの子でしょう。軽ーい感じの軟派な雰囲気の子だったでしょう、最初から。」
私はうーんと腕を組んで悩むしかなく、それが私の敗退を決めた。
アリッサとシェーラに、えいや、と台所から完全に押し出されたのだ。
私は台所前の廊下にポツンだ。
「え、どうして!」
「カイユーにとってあなたは重いのよ。彼を楽にしてあげたいでしょう。」
「アルバートルを狩っていいってダグド様が解禁宣言したからね。」
私とシェーラは殴り合いたい空気があったのに、アリッサの言葉で私達はえっと仲良くアリッサを見返していた。
二人の注目を受けたアリッサは得意そうに鼻をツンと上げ、最高の獲物だと思うでしょうと、挑戦的に微笑んだ。
「大丈夫?アリッサ?奴は最悪な獲物だわ!」
「もう、ノーラったら焼餅?あなたには彼が大事なお兄さんだものね。」
いや、そんなことは無いと思うとシェーラを見返せば、あ、彼女は台所でダグドを虜にしたギョーザなるものの皮を作り出している!
本気だ!シェーラは本気を出している!
「え、っと。そう。アリッサ頑張って。で、私も頑張りたいのだけど。」
しかし、アリッサに台所に入ることを阻まれた。
「ダメ。言ったでしょう。私はアルバートルを狩りに来たって。あなたも参戦したいの?いいえ、参戦する気がなくとも駄目。アルバートルがあなたに逃げ込んじゃうじゃない。だから、駄目。いいこと?」
良くないと言い返したかったが、我関せずで料理を作っているリリアナが終了の言葉を言い放ったので私の鼻先でドアは完全に閉められた。
「寒いからドアを閉めちゃって。」
なんてひどい物言い。
私はとぼとぼと歩き出し、そして、硬いものにぶち当たった。
「ダグド様。」
三日ぶりに、そう、私から三日間姿を隠していた彼は、私に対して物凄くすまなそうな顔つきで、予想通りに話があると私に言った。
「一度屋敷に戻ろう。君に話したいことがある。」
私は彼に頷いたが、私の肩はぐいっと後ろに引かれた。
「俺が話します。俺が話すべきでした。」
ダグドは私の後ろに立つ男をしばし見つめ、それから大きく息を吐いた。
そして、ぽんと私の肩に、アルバートルに掴まれていない左の肩にダグドは手を乗せた。
温かな大きな手。
「何かあったら俺を呼んで。君は俺の大事な娘だ。」
私は彼を見上げて返していた。
「もちろんだわ。」
私からカイユーを隠していた事を沢山罵りたかったのに、私の愛情を盾に使って逃げてしまうなんて、なんて酷い男。




