迎賓館はそういえば寝室が三部屋だけだ
驚いた事に、アルバートルは居間のソファにどっしりと腰を下ろすと、自分は寝室を使わずに居間のソファで寝泊まりすると言い出した。
「ここのサイドボードは酒がぎっしりだ。俺はこの領地の領民を悪魔の誘惑から守る保安部隊員だからな。」
「いや、あなたが一番の酒類消費希望者でしょうが。ソファなんて言わずにちゃんと部屋で寝なさいよ。私とリリアナは二人一緒でもいいし、私達は屋敷に帰ってもいい。通いでも十分よ。」
「おや、残念だ。僕の部屋で一緒では無いのですね。」
アルバートルと私は同時にカイユーであってカイユーでない男に振り向き、そして再び顔を合わせると、アルバートルは私に目玉を回して見せた。
「わかった。あなたはここが良いのね。」
「いや、違うよ。お前とリリアナは屋敷に帰れ。俺は寝室で寝ることにする。このカイユーの皮を被ったカイユーに居間のソファで寝ていたら殴られそうだ。邪魔だって。」
「ふふ。そうですね。ああ、そうだ。殴っていいのですね。僕は、そうだ!僕はもうあなたの部下では無いのだし。」
「ああ、いいよ。お前のようなシャバ僧に俺が殴れたらね。」
「あ、やっぱり私はここで寝泊まりする。」
なんだかんだ言っても、今までアルバートルはカイユーを本気で弟以上に可愛がっていたのだ。
そんな二人の間に亀裂が走る事になったら辛すぎる。
「ばかかお前?空気を読めよ。」
「そうですよ。あなたの婚約者だと言っても、僕はあなたを覚えていない。結婚だってこの状態の僕ではできません。それなのにあなたの評判が落ちたらどうするのですか。」
「あ。さすがアルバートル。まあ!本当にカイユーの皮を被ったカイユーだった。うん、大丈夫。これなら私の評判が落ちても大丈夫。責任を取って結婚してくれる懐の広さがカイユーにはあったもの。あなたもそうでしょう。大丈夫よ。」
アルバートルは私に耳を貸せという風な素振りをした。
「何?」
彼は屈んだ私の頭を軽く叩いた。
「いたい!何をするのよ!」
「いや、普通は恋人が記憶喪失になったらもっと思う所があるだろ。何が大丈夫だ。もっと、こう、ああ、お前はわけわからない。」
「ああ、わかるわ。でも、この子はそういう子なの。」
アルバートルの隣にどっかりとリリアナが座り込み、体重はアルバートルの方が確実にあるだろうに、アルバートルはソファの沈み込みに引き込まれるようにしてリリアナの方に傾いだ。
この助平め。
「どういう意味の、そういう子なのかな?」
「ふふ。悪口じゃ無いわ、怒らないで。」
リリアナはそっとアルバートルの肩に触れた。
アルバートルは普通に、いつもの適当な風に体を動かしてリリアナから離れた。
嘘、もしかしてリリアナの私に対する言葉に怒って、彼女を威圧するために体を近づけていたの?
「まあ、アルバートルは私を庇ってくれたの?」
彼は私においでおいでと手招きをした。
誰が行くか!
「ふふ。この子は本質だけしか見ないってだけよ。結果が大事な子なの。みんながハッピーになれる結果を見つけるのに一生懸命で、その結果を目指すばっかりで過程を大事にしないですっとばして結果だけに走ってしまうだけの話よ。だから、置いてけぼりの私達にはひどい子って思われてしまう損な子なの。」
「ハハハハ、確かに。凄いな、この姐さんはお前のことを良く知っているぞ。大事にしないとなあ、ハハハハ。」
「まあ、でも、そう言えるあなたこそノーラの事を良く知っているのね。」
「じゃあ、ノーラとアルバートルさん。あなた方二人が結婚したらいい。」
私達は発言者に振り向き、発言者は素晴らしい発案だろうという風に肩をすくめて見せた。
私は取りあえず手近にあったクッションでカイユーを叩き、彼に私の目指すべき結果を突きつけてやった。
「私は記憶が無くてもカイユーであれば、ええ、中身がカイユーだったらそれでいいの。ええ、本当は外身もカイユーが一番。あなたは忘れているけどね、カイユーは私に自分の死体をくれると言った。だから、髪の毛一本からつま先まで、あなたの身体は私のものだわ。」
カイユーは猫のように目を丸くして私をまじまじと見つめ、それからソファに座る美女と美男に振り返った。
「えっと、すいません。今までの非礼をお詫びします。あの、団長。僕を守っていただけませんでしょうか。」
「もとからそのつもりだ。安心しろ。」
カイユーとアルバートルは一番大きな寝室を二人で使う事になった。
私は一番小さな部屋に屋敷から自分の荷物を運び入れながら、おかしい、何が悪かったのだろうと、自分の行動を振り返りながら悶々とするしかなかった。




