一番危険なのは誰?
エレノーラもダグドに会いに見張り台に来ていたらしい。
そのダグドがどこにいるのかわからないが、第二城門へと歩く私達に彼女はクラクションを鳴らし、私がカイユーを誘拐した事を知るや快く車に乗せてくれた。
「環境を変えるのが私も一番だと思うわ。」
「そうよね。私も彼には無理をしてほしくないから。ねえ、カイ……。」
記憶を失っているらしいカイユーは五歳児ぐらいの物凄い素直さで、エレノーラの電気自動車の後部座席に座る私とリリアナの間に申し訳なさそうにして座っているが、完全に心ここにあらずという感じであった。
いや、絶えずもじもじしてリリアナに興味を示す所を見ると、普通にリリアナに照れているだけだろうか。
今までだって格好良いよりも可愛いが先に立つ男が、さらに病気で記憶喪失らしき可哀想な状況に陥っているという、物凄く守ってあげたい、いや、積極的に可愛がってあげたいと誰にでも思わせるオーラを醸し出しているのだ。
これは危険だ。
通常のカイユーの時だって、シェーラが彼に惚れていたじゃないか。
いや、今だって想いを寄せている!
うわ、知られたら危険だ。
「あ、やっぱり車を止めて。えと、迎賓館じゃない家に私とカイユーだけで過ごす事にする。」
「ふざけんな。エレノーラ、こいつの戯言を聞かずに迎賓館に。」
「兄さんは。あなたは迎賓館に泊りたいだけでしょう。」
さすが!エレノーラはアルバートルの妹だ。
「でも、ノーラ。だめよ、結婚前に二人きりは。リリアナが付き添いできる迎賓館になさいな。で、兄さんは適当に帰りなさいな。」
さすが、エレノーラは差支配人様だ。
しかし、アルバートルが簡単にへこたれるわけはない。
「エレノーラ。ミラーで後ろを見てみろ。カイユーが猛獣に喰われる寸前の哀れな小動物みたいじゃないか。カイユーの付き添いは絶対に必要だ。」
「兄さんは。あなたこそ猛獣じゃ無いの?」
「ばか。腹が減っていても河豚を食う馬鹿はいない。」
「兄さんたら。」
自分の兄による私とリリアナへの侮辱らしきものをエレノーラはあっさりと流し、それどころか車が止まらない所を見ればアルバートルの言い分を認める事にしたらしい。
「ねぇ、エレノーラさん。河豚って何ですか?」
可愛らしい尋ね方をしたカイユーに、ダグドに愛されている太陽のような美女がミラー越しに母親のように微笑んだ。
「毒のある魚よ。吃驚すると風船のように膨らむのよ。」
「ふふ、今の二人みたいですね。二人とも河豚を知って頬が膨らんだ。」
くすくす笑うカイユーって、ああ、なんて可愛らしいのだろう。
真ん中の席ながら車内に差し込む冬日によって薄い茶色の髪は艶やかに輝き、白い肌に良く似合う形のいい鼻に唇、そして、彼の顎は中性的な柔らかなラインで尖っている。
そう、彼は見た目だって素晴らしい男性なのだ。
私が海から落ちないように支えたあの日の彼は、荒れた海を私が怖く感じることも無いぐらいに私を抱いて支えてくれた。
可愛くって頼りがいがあって素敵な男性。
私の靴下止めにナイフを入れて私を戦友扱いもしてくれた、私に自信を持たせてくれた私の大事な人だ。
「涎がでているぞ。」
「もうふざけてばっかり。そう思うなんて、あなただって同じことを思っているのでしょう。カイユーが可愛いって。」
「当り前だろ。こいつは俺の弟なんだ。」
「違いますよ。違います。僕には兄などいない。それだけは覚えて、いえ、感覚的に解ります。見た目だって違うじゃないですか。お気持ちはありがたいですけど、僕の気持ちを楽にするために適当な事は言わないでください。」
「そうだな。君は俺の部隊の一員だった。それだけの話だな。ただし、俺はここを守る保安部隊員でもあるんだ。見守りはさせて貰う。」
「ふふ。あなたは僕の監視ですね。彼女は僕の婚約者らしいじゃないですか。隣の姉さんも色気丸出しで男を誘っている。問題は無いのではないですか?」
純粋そうにうふふと笑ってアルバートルに切り返したカイユーに、私はあなたは一体誰なのと衝撃が走っていた。
アルバートルが鼻白むなんて初めてじゃないか?
こっちが本当のカイユー?




