私達の価値
夕飯の時間まで私達は何をしたか。
置物のように並んでソファに座ったままだった。
嬌声とキスの音が連続して起きていると思ったら、居間に幸せ絶頂の私の親友とアルバートルの親友がなだれ込むまで。
私はこの時ほどアルバートルの嫌な面に感謝を捧げた事は無い。
モニークとイヴォアールは抱き合ったまま固まって私達を見つめるだけで、私はモニークの衣服の乱れ具合にそのままどこに進むつもりだとやはり固まるしかなく、凄くいたたまれなかった私達の状況を彼が打破してくれたのだ。
「はしゃぎすぎると本番前に爆発するぞ。」
意味が解らないが、イヴォアールは確実に真っ赤になってモニークを解放し、モニークは私と同じように意味が解らなかったからか冷静な頭に戻ったらしい。
彼女は小首をかしげてアルバートルを見つめた。
「ねえ、あの。この間もイーヴがそんなことを言ったの。カイユーが具合が悪くなったのはそのせいなの?」
イヴォアールどころかアルバートルまでも大きく吹き出して、二人仲良くしゃがみ込んだ。
それどころか、このおしゃべりがと互いに腕で押し合いまでしている。
「あの、意味が解らないんだけど。教えてくれる?」
「何度も言っているだろ。男の戯言は聞き流せ。どうせ大したことは言っていないって言っているだろ。」
立ち上がりながらアルバートルは私にがみがみ言い出して、私はそんな彼の様子に少しほっとした。
彼こそ壊れたら、カイユーが決して元通りにならない気がするのだ。
「さぁ、迎賓館に戻りましょうか。主役のあなたがいないと狩りが始まらないって乙女隊が騒ぎ出すわ。」
モニークはコロコロと笑い声をあげた。
「フフフ。素敵ね。ねぇ、決まったら、みんなで式をあげましょうよ。三つのカップルの合同結婚式!」
「え、私は嫌よ。自分の記念日は自分だけのものにしたい。」
「まあ、そうね。ああ、やっぱりノーラは素敵だわ。いつでも素敵な言葉で解決できる。カイユーもトレンバーチのノーラが格好良かったって言っていたって、イーヴが。」
「やめよう。モニーク。」
「あら、どうして。ノーラがトレンバーチで言い放った台詞が格好がいいって、あなただって褒めていたじゃ無いの。」
「そうだけど、そういう状態じゃないでしょう。今は。」
モニークを咎めるイヴォアールにモニークはあっと何かに気が付いた顔をして、そしてすぐにすまなそうに私を伺い見たが、私は落ち込んでいるどころか、カイユーが私を褒めたその時を知りたい気持ちで一杯だ。
「そうね。今のカイユーと私の状態じゃ不要な情報だって思うでしょうね。でも、知りたいわ。私はあなたにも感銘を与えるようなことを言ったかしら。」
「お前も聞き流した方がいい男みたいな適当な奴だもんな。」
私はアルバートルの横腹を拳で突いた。
彼は痛がる振りをしながら笑い声を立て、それから、これがお前の代償なのかな、と言った。
「何よそれ。」
「だからさ、お前は言っただろ。俺達がぶち壊した街の瓦礫の前で、物凄く良い笑顔で、言っただろ。これが私達の価値なんですよ。代償です。私達が戻って来ないのであれば、戻ってくるまでダグドは私達分の損害をあなた方に与えるでしょう。さぁ、商人ならば損得の計算をなさって。」
「まあ、凄い!そんな事を言ったの!凄いわ!」
モニークは私を英雄のような目で見つめるが、私はあの時は崖っぷちで勝負を挑んでいるだけだったのである。
無事にダグド領に帰ることはアルバートル達が来たからには大丈夫だと確信できたが、今後ダグド領への侵攻などの仕返しを考えればこちらが確実にトレンバーチの上位に立たねばならないと必死であったのである。
「いや、まあ。喧嘩は最初が肝心だって言うから。あそこで弱さを見せたら今度はダグド領が攻め込まれるでしょう。もう帰ってくれ、二度としませんって相手に思わせないと危険でしょう。」
「うわ!俺達を送り出したダグド様の台詞そのままだ!」
イヴォアールは大きく笑い出し、しかし、アルバートルは親友と一緒に笑うどころか、うわ、カイユーが時々するような憧憬を含んだ目線で私を見つめている。
「ど、どどっどうしたの?」
「いや。俺達は一生言えない台詞だなってね。俺達はダグド領に損害を与えるだけの存在だろ。」
「確かに金喰い虫ね、あなた方は。」
「そこは違うと言えよ。」
「え、だって事実でしょう。弾丸だってタダじゃ無いのよ。でもね、その損害があなた方の価値なのよ。こんなにも金を必要とするあなた方を手放したくないからと、その金を出しているのだもの。アルバートル。あなたは自分への呪いでこの領土が大変になったって言っていたわね。でも、いいのよ。あなた方が罪悪感を抱いたからこそ、今後はもっと守ろうと頑張ってくれるのでしょう。すこーしお給料を減らしても文句も無いでしょう。これはダグド領の儲けとも言えるんじゃない?」
アルバートルはハハハハと棒読みのような笑い声をあげると、私の頭をばしりと叩いた。
「痛い!酷い!」
「給料は減らさせん!」
「でも、守ってくれるんでしょう。今まで以上に。」
え、私の唇はアルバートルの唇に一瞬塞がれた。
驚いて固まる私の耳元には彼の吐息が掛かる。
「お前が望む限り、一生をかけて守ってやるよ。」
擦れた低い声。
私の背筋をびりっと感電させた、甘い甘い何かを含んでいる声だ。
アルバートにされた事で私が棒立ちになっているのは当たり前だが、イヴォアールもモニークも私と同じように棒っきれになっているじゃない。
この男は冗談がきつすぎる!




