表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠りを呼ぶ追放令嬢は、不眠の死神辺境伯に溺愛されて夢見の都を築きます ~「眠りの不浄姫」と捨てられた私の力で、眠れぬ荒野が安眠郷になりました~  作者: 花菱エマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

第7話:独占欲は、子守唄より甘く

 ルキウス様は、毎晩、私の子守唄で眠るようになった。


 最初は、寝室の扉ひとつ隔てて。やがて、同じ部屋の長椅子で。彼は決して無理をしなかったし、私に触れることもなかった。ただ、私の歌う声が聞こえる距離で、静かに目を閉じる。それで、彼は眠れた。


 けれど、ある夜のことだった。


 子守唄を歌い終えても、ルキウス様は眠らなかった。じっと、暗がりの中で私を見つめていた。


「……閣下。眠れませんか」


「眠れる。君がいれば、いつでも眠れる」


 彼は静かに言った。


「だが、今夜は、眠るのが惜しい。眠れば、朝まで君の声が聞けない。君の顔が見られない。……目を閉じている時間さえ、惜しいと思うようになった。これは、おかしなことか」


 私は、どきりとした。

 彼の言葉には、いつもの「眠りへの渇望」とは違う熱があった。もっと別の、私自身を求めるような——


「セレネ」


 ルキウス様は身を起こし、私の傍へ来た。手を伸ばし、けれど触れる寸前で止める。許しを請うように、私の目を見る。


「触れても、いいか」


 私が小さく頷くと、彼は私の頬に、そっと手を添えた。長い指が、こわれものを扱うように、私の輪郭をなぞる。


「私は、欲深い男だ」彼は囁いた。「最初は、ただ眠りが欲しかった。だが今は——君の眠りも、君の声も、君のすべてが欲しい。誰にも見せたくない。王都の連中にも、領民にも。私だけの、夜にしておきたい」


 重い独占欲。

 けれど不思議と、それは私を縛る鎖ではなく、温かな繭のように感じられた。生まれて初めて、誰かに「欲しい」と言われている。要らないと言われ続けた私が、今、まるごと求められている。


「……閣下は、ずるいです」


 私は、思わず呟いた。


「私、ずっと、誰の役にも立てない不浄姫だと思って生きてきました。なのに、あなたは私を全部欲しいと言う。そんなふうに言われたら、私……あなたを置いて、どこにも行けなくなってしまう」


「行かせない」


 即座に、彼は言った。低く、甘く、揺るぎなく。


「もう、どこにも行かせない」


 その夜、私は彼の腕の中で、彼に子守唄を歌った。

 歌いながら、ふと思った。この歌は、母様が私にくれた、たった一つの宝物だ。意味もわからず覚えていた、不思議な節回しの歌。


 ——夜は、こわいものではないよ。

   銀の糸を、こうして織れば、悪い夢も、よい夢に変わる。


 その一節を歌ったとき。

 ルキウス様の寝顔の上で、私の指から零れた銀の光が、ふわりと、まるで糸のように、何かの形を描いた気がした。


 「銀の糸を、織れば」。

 母様は、なぜこんな歌を、私に遺したのだろう。

 胸元のペンダントが、月明かりを受けて、かすかに光った。


死神閣下の独占欲は、子守唄よりも甘いものでした。

そして、母の子守唄に隠された「銀の糸を織る」という一節——これがのちに、世界の運命を変える鍵になります。

次回、再び王都へ。「枯れゆく王都と、眠れぬ王太子」。ざまぁが、加速します。

評価・ブックマーク、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ