第24話:均衡の書、千年前に捨てられた半身
後半の譜を手にした後、私たちは、祠の奥の書庫を見つけた。
石棚に並ぶのは、覚醒派が「焚書」しようとして焼き損ねた、古い文献の数々。眠りの巫女たちが、命がけで守り抜いた、世界の記録だった。
その中に、一冊、ひときわ古い書があった。
表紙には、月と太陽が手を取り合う紋章。題して『均衡の書』。
「これは……」
ガイが、震える手でそれを開いた。古語で記された文字を、彼は、ゆっくりと読み解いていく。
「『太古、世界は、覚醒と眠り、二つの加護によって支えられていた。覚醒は昼を、眠りは夜を司り、互いに半身として、均衡を成していた。人は昼に働き、夜に癒える。土は昼に育ち、夜に肥える。この二つが揃って初めて、世界は巡る』……」
ガイの声が、続く。
「『されど、千年前。覚醒の大司教の一族が、唱えた。〈眠りは弱さなり。これを排せば、人は無限に働き、国は無限に富む〉と。彼らは眠りの加護を不浄と断じ、巫女を狩り、夜を世界から消そうとした。……だが、これは誤りである。半身を失った身体は、いずれ、もう半身もまた、朽ちる』」
私は、息を呑んだ。
これこそ、ゼフィールが千年かけて隠し続けてきた、真実だった。眠りは不浄ではない。世界の、もう半分。それを捨てた覚醒派こそが、世界を傾けた張本人。
「証拠が、ここにあります」私は、その書を、胸に抱いた。「言葉だけではない。千年前の、覚醒派自身が恐れて焼こうとした、世界の記録。これを公の場で示せば——ゼフィールの『眠りは異端』という嘘は、崩れます」
「だが、どうやって公にする」ルキウス様が、思案した。「ゼフィールは王家を握っている。我々が王都へ行けば、その場で異端として捕らえられるだけだ」
「いいえ。むしろ、好都合です」
私は、顔を上げた。
「ガイの話では、ゼフィールは近く、私を裁くための『公開異端審問』を開くつもりだとか。王侯貴族、聖職者、民——皆が見ている、その場こそ、真実を突きつける舞台です。彼は、私を裁こうとして、自分の嘘を、自分で公開してくれるのですから」
ルキウス様が、ふっと笑った。
「……敵の舞台に、自ら乗り込むか。君は、本当に、淑やかな顔をして、大胆だな」
「あなたが、隣にいてくださるなら」私は、彼を見上げた。「私は、どんな舞台でも、怖くありません」
その時、書庫の奥で、ノクスが、ふいに毛を逆立てた。
低い唸り声。警戒。
祠の外で、複数の足音と、馬のいななき。そして——聞き覚えのある、冷たい声。
「……ご苦労なことだ。巫女自ら、証拠を掘り出してくれるとは」
ゼフィールが、聖騎士を従えて、谷に立っていた。
先回りされていた。彼は、最初から、私たちが谷へ来ることを、読んでいたのだ。
「その『均衡の書』、こちらで預からせてもらおうか。……いや」
彼は、薄く笑った。
「あなたごと、ここで焼いてしまえば、千年前と同じ。実に、簡単な話だ」
ゼフィールが千年隠した真実「均衡の書」、ついに発見。
けれど、敵は先回りしていました。証拠ごと、谷で焼き払うつもりです。
次回「大司教の仮面が剝がれる日」。最大のざまぁ——公の場での、真実の証明へ。
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