表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠りを呼ぶ追放令嬢は、不眠の死神辺境伯に溺愛されて夢見の都を築きます ~「眠りの不浄姫」と捨てられた私の力で、眠れぬ荒野が安眠郷になりました~  作者: 花菱エマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/47

第18話:悪夢に沈む王都と、贖罪の妹

 王都は、もはや夜を持たなかった。


 眠れぬ人々は、闇を恐れて、街じゅうに魔導灯を灯し続けた。けれど、その明かりは安らぎを与えなかった。煌々と照らされた夜の街は、昼よりも白々しく、どこか狂気じみていた。

 眠れぬまま見る幻覚——白昼夢のような悪夢が、人々を蝕んでいた。路地の隅で虚ろに笑う者、ありもしない影に怯えて叫ぶ者。覚醒の加護が暴走し、現実と幻の境が溶けはじめていたのだ。

 かつて太陽の都と謳われた王都は、今や、眠れぬ亡霊たちのさまよう街と化していた。


 その中心で、最も深く沈んでいたのが、アウレリアだった。


 覚醒の加護を完全に失った彼女は、眠ろうとすれば悪夢に襲われ、起きていれば幻覚に苛まれた。かつての美貌は痩せ衰え、瞳には怯えだけが残っていた。


 ある夜、彼女は、震える手で一通の手紙を書いた。


 ——夢見の都の、お姉様へ。


 宛名を書くのに、何度もペンが止まった。どの面下げて、と自分を責める声が、頭の中で鳴り止まなかった。それでも、彼女は書いた。


 その手紙が、密使の手を経て、私のもとへ届いたのは、数日後のことだった。


『お姉様。

 こんな手紙を書く資格が、私にないことは、わかっています。

 私は、お姉様の力を奪いました。お父様が儀式でお姉様から「眠り」を抜き取り、それを私の「覚醒」として植えつけた——そのことを、私は薄々知っていながら、見て見ぬふりをして、勝ち誇っていました。

 今、その報いを受けています。私には、もう加護のかけらもありません。毎夜、悪夢に飲まれて、自分が誰かもわからなくなりそうです。

 でも、これは当然の罰だと思っています。

 ただ、一つだけ。

 大司教ゼフィールが、お姉様を「異端」として裁こうとしています。彼は、覚醒の加護を独占し、王家すら操っています。ユーリス殿下も、もはや彼の傀儡です。

 どうか、お気をつけて。

 そして——本当に、ごめんなさい。

             アウレリア』


 手紙を読み終えて、私はしばらく、動けなかった。


「妹君からか」ルキウス様が、静かに問うた。「敵の罠かもしれん。覚醒派が、君を王都へ誘い出すための」


「いいえ」私は首を振った。「この字は、震えています。罠を書く人の字ではありません。……本当に、後悔している人の字です」


 私は、妹を許したわけではなかった。けれど、憎むこともできなかった。

 彼女もまた、覚醒の加護に縛られ、父に利用され、王家の都合で「奪う側」に仕立て上げられた、一人の駒だったのだ。


「ガイ」私は、老執事を呼んだ。「妹に、返事を書きます。それから——夢織りの術について、もっと詳しく教えてください。あの楽譜の、残り半分の在処を。私は、王都の夜を、取り戻したい。妹のためにも」


 ガイは、深く頷いた。その目に、かすかな涙が光っていた。


「奥方様。あなた様は……本当に、イレーネ様のお嬢様でございますね」


 窓辺で、城の眠り猫ノクスが、ふと顔を上げた。

 まるで、何かを感じ取ったかのように、北の——いや、母の故地のある、西の空を、じっと見つめていた。


奪った妹と、奪われた姉。けれど主人公は、復讐ではなく「王都の夜を取り戻す」道を選びます。

そして、眠り猫ノクスの不思議な仕草——これが、次の手がかりに。

次回「眠り猫ノクスが告げる、均衡の傾き」。

評価・お気に入り登録、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ