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落ちこぼれ転生者の幻獣日誌 ~術位Fの異邦人、エリートどもの常識を塗り替える~  作者: じょな


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4


「おい、そこで止まれ」


 放課後、黒根団の寮へと続く薄暗い森の小道。

 前方を塞ぐように、三人の影が立っていた。


 昼間の訓練場にいた、レオードの取り巻きたちだ。

 その目は一様に血走り、手にはすでに剥き出しの杖が握られている。


「実技での不審な点について、少し詳しく聞かせてもらおうと思ってな」


 リーダー格の男が、じりじりと距離を詰めてくる。

 その背後で、別の男がすでに術式言語を呟き始めていた。


 大気中のマナが、急速に熱を帯びていく。

 警告も、前触れもない。本気の【炎閃】だ。


「消えろ、不正のゴミが!」


 放たれた火球が、容赦なく俺の顔面へと迫る。


 俺は動かなかった。

 肩の上のルミナも、羽一つ動かさない。


 ただ、脳内でクロックを限界まで跳ね上げる。

 迫り来る火球。その周囲に展開されている、稚拙で、無駄だらけの魔力数式を凝視した。


(【炎閃】・第一術式。構成変数、二十四。……熱量の維持にリソースを割きすぎて、構造がスカスカだ)


 現代日本の理系高校生として培った、論理的思考。

 俺の目には、その火球が「バグだらけの欠陥プログラム」にしか見えない。


 俺は右手を伸ばし、人差し指を火球の先端へと突き出した。

 体内の、6つに等分された極小のマナ。そのうちの【水流】のパルスを、ほんの一滴だけ、相手の数式の「脆弱性」へと流し込む。


 パチン、と。

 乾いた音が響いた。


「な……っ!?」


 男たちの目が驚愕に染まる。

 俺の指先に触れた瞬間、猛烈な勢いだった火球は、まるで最初から存在しなかったかのように霧散した。

 熱風すら残らない。ただの、不発だ。


「魔法が……消えた? 何をした!?」


「出力係数の設定ミスだ」


 俺は静かに歩を進める。


「魔力を込める位置が三歩早い。だから、外部からのわずかなノイズで全体の均衡が崩れて自壊する。……基礎からやり直せ」


「ふざけるなッ!」


 リーダーの男が逆上し、杖を振り上げる。

 だが、遅い。


「ルミナ」


 短く呼ぶ。

 肩から飛び立ったルミナが、男たちの頭上で翼を広げた。


 キィィィン、と。

 鼓膜を刺すような高周波の音が森に響く。


 次の瞬間、視界のすべてが純白の光で埋め尽くされた。

 ルミナの光輝マナを、光の「波長」と「振幅」を最適化して放った、超高出力の閃光弾。


「ぎゃああああああっ!?」

「目が、目があああっ!」


 男たちが悲鳴を上げ、杖を取り落として地面に転がった。

 涙を流し、視界を奪われてのたうち回っている。

 容赦をする気はなかった。実戦なら、すでに全員首が飛んでいる。


 俺は、転がる男たちを踏み越えるようにして、歩みを再開した。

 ルミナがパサリと肩に戻り、何事もなかったかのように首をすり寄せてくる。


「そこまでにしなさい、黒根団の」


 冷徹な声が、木々の間から降ってきた。


 立ち止まり、視線を向ける。

 大樹の影から姿を現したのは、蒼炎団の制服を着た少女。

 昼間の訓練場で、俺を凝視していたもう一人の天才――シェラ・アムフォードだった。


 彼女の足元には、一頭の巨大な狼型の幻獣が控えている。

 【グレイファング】。

 荒々しいマナを放ち、鋭い牙を覗かせて俺を威嚇していた。


「……見ていたのか」


「ええ。彼らがあなたを待ち伏せするのを見かけたから、止めに入ろうとしたのだけれど……。どうやら、余計な世話だったみたいね」


 シェラは、地面で悶絶する男たちを一瞥し、すぐに俺へと視線を戻した。

 その青い瞳の奥には、隠しきれないほどの警戒心と、底知れない好奇心が揺らめいている。


「あなた、何をしたの?」


「何もしない。自滅しただけだ」


「嘘を言わないで。私の目は誤魔化せないわ。あなたは、詠唱も術式言語の展開もなしに、彼の魔法を『消した』。……そんな芸当、ただの術位Fができるはずがない」


 シェラが一歩、前に踏み出す。

 それに連動して、グレイファングが低く唸り声を上げた。

 漂う緊張感が、さっきの取り巻きどもの比ではない。本物の強者の気配だ。


「これ以上、詮索するな」


俺は、感情を排した声で告げた。

 これ以上の目立ちは、今の俺にはリスクでしかない。


 シェラは、俺の態度にわずかに眉をひそめたが、すぐにふっと冷たい笑みを漏らした。


「いいわ。今は引いてあげる。でも、覚えておきなさい、レン・キリス」


 彼女は、俺の肩のルミナへと視線を走らせる。


「学園の頂点にいる蒼炎団の連中は、プライドの塊よ。今日のあなたの『バグ』を、レオードがいつまでも黙って見過ごすと思わないことね」


 シェラはそれだけ言うと、グレイファングを伴って森の奥へと消えていった。


 静寂が戻った小道で、俺は自分の手のひらを見つめた。


(レオード、か)


 受けて立つさ。

 この世界の歪んだ常識ごと、俺の数式で叩き潰してやる。


 翌朝、学園の掲示板の前で、これまで以上の大きな人だかりができていた。


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