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落ちこぼれ転生者の幻獣日誌 ~術位Fの異邦人、エリートどもの常識を塗り替える~  作者: じょな


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3/7

3

次は明日の20時に


 エルディア魔法学院の第一訓練場は、熱気に包まれていた。


 すり鉢状の広大な敷地の中央に、いくつかの石造りの標的が並べられている。

 今日の授業は、各団合同の初等実技。

 新入生たちが自らのマナを試し、競い合う最初の舞台だ。


「次、レオード・ブレイム」


 担当教官の声に、金髪を揺らしたレオードが前に出る。

 彼が軽く手をかざすと、大気中のマナが急速に凝縮された。


 ――炎閃(えんせん)・第一術式。


 呪文の詠唱すらない。

 放たれた紅蓮の火球が、一直線に標的の石柱へと着弾する。

 激しい爆音と共に、頑丈な石柱が粉々に砕け散った。


「素晴らしい。やはり術位A、申し分のない威力だ」


 教官の賞賛に、周囲の蒼炎団(そうえんだん)の生徒たちが歓声を上げる。

 レオードは当然と言わんばかりに、傲然と胸を張って列に戻っていった。


 すれ違いざま、彼は俺の肩に乗るルミナを一瞥した。


「おい、次はあの術位Fの番だぞ」

「最弱の幻獣を連れて、何をする気だ?」


 ひそひそ話というには、あまりにも大きな声が鼓膜を叩く。

 向けられるのは、侮蔑と、一握りの好奇の視線。


「次――レン・キリス。前へ」


 教官の声に澱みはない。ただ、その目には早く終わらせたいという退屈の色が混じっていた。


 俺は、静かに歩みを進めた。

 左肩のルミナが、俺の首筋に小さなくちばしを寄せる。

 かすかな体温が、緊張を心地よい集中へと変えていく。


「レン・キリス。お前のマナ量では、通常の攻撃術式は発動すらしないはずだ。……その幻獣に指示を出すか?」


 教官の問いに、俺は短く頷いた。


「ルミナ、行け」


 肩から飛び立ったルミナが、訓練場の中央、新たな石柱の前でホバリングする。

 パサパサと白い羽をはためかせる姿は、猛者たちの集まる訓練場において、どう見ようと場違いだった。


「ハハッ、本当にあの小鳥で戦うつもりかよ!」

「せいぜい、石柱を明るく照らして終わりだな」


 背後で、蒼炎団の笑い声が弾ける。


 俺は、彼らの声を意識の端に追いやった。

 ルミナをじっと見つめ、体内のマナを駆動させる。


 6つの系統に等分された、極小の輝き。

 それを、頭の中の数式に落とし込んでいく。


(ルミナの回路への接続。マナのパルスを同調――最適化シーケンス、開始)


 昨日、寮の部屋で書き換えたルミナの魔法回路。

 その未完成だった数式に、俺の散在型マナがぴったりと噛み合う。

 パズルの最後のピースが埋まるように、ルミナの体内でマナの激流が生まれた。


「きゅい――」


 ルミナの琥珀色の瞳が、鋭く輝く。

 その小さな体から溢れ出たのは、昨日を遥かに凌駕する、圧倒的な光輝(こうき)のマナだった。


 訓練場全体の空気が、一瞬で凍りつく。

 笑い声が、文字通り消え失せた。


「なんだ、あのマナの密度は……!?」


 誰かの驚愕の声。


 俺は、ルミナに向けて静かに命じた。


「貫け」


 術式言語の詠唱はない。

 ただ、最適化された数式が現実を侵食する。


 ルミナの翼から放たれたのは、ただの光の球ではなかった。

 極限まで圧縮され、レーザーのように収束した純白の熱線。


 閃光が、訓練場を真っ二つに切り裂いた。


 直撃。

 音すらなかった。


 次の瞬間、轟音と共に石柱が爆発する。

 いや、爆発ではない。

 熱線の通った中心部が、綺麗に円形に蒸発し、周囲の破片が衝撃波で吹き飛んだのだ。


 もうもうと立ち込める白い煙。

 その向こう側には、根元だけを残して完全に消滅した標記の残骸があった。


 訓練場を、完全な静寂が支配する。


 教官は手元の手帳を落としたことすら気づかず、口を開けたまま固まっていた。

 レオードの顔からは、先ほどまでの余裕が完全に消え失せ、信じられないものを見る目で標記の跡を凝視している。


 パサリ、と羽音が響いた。


 役目を終えたルミナが、何事もなかったかのように俺の肩に戻ってくる。

 「きゅい」と満足げに鳴き、俺の髪に頭をすり寄せた。


「……お疲れ、ルミナ」


 指先で小さな頭を撫でる。

 周囲の驚愕など、俺たちには関係ない。


「な、何かの間違いだ! あんな最弱の幻獣に、そんな出力があるわけがない!」


 蒼炎団の列から、取り巻きの一人が悲鳴のような声を上げた。


「そうだ、幻獣の暴走か、あるいは何かの魔導具を隠し持っていたんだろ!」


 現実を受け入れられないエリートたちが、口々に騒ぎ立てる。

 レオードは何も言わず、ただ拳を血がにじむほど強く握りしめていた。


 教官が我に返り、咳払いをする。


「……あ、足元の標的を破壊した。しかし、幻獣の制御に不審な点があるため、今回の評価は保留とする。レン・キリス、列に戻れ」


 やはり、素直に認める気はないらしい。

 この学園の評価システムは、底が浅い。


 だが、それでいい。

 俺は何も言わず、踵を返して黒根団の列へと歩いた。


 そのとき。

 周囲の喧騒から少し離れた場所で、一人の少女が俺をじっと見つめていることに気づいた。


 蒼炎団(そうえんだん)の制服。

 凛とした佇まいに、冷徹なまでの青い瞳。

 レオードと並ぶもう一人の天才――シェラ・アムフォードだった。


 彼女は、俺の肩のルミナ、そして俺の顔を、値踏みするような鋭い視線で射抜いていた。


 ――面白くなってきた。


 俺は、視線を逸らさずに自分の位置へと戻った。

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