第56話 まさかの妨害
《お、もう終わったんだ。勇華もアルトさんも速いね~》
《正直、舐めすぎていました。あの2人ならヴェイルも余裕で倒せますね》
南西と北東の方角の戦いは、圧倒的の一言に尽きる。アルトさんの『虹炎』を交えた戦闘技術は驚く程洗練されているし、勇華もまさかあんな隠し玉を持っていたとは。
《でもまぁ。一番容赦ないのはカルメラ様ですけどね》
《え、何で僕?》
《見てくださいよ、このヴェイルの有様を。白目剥いてるわ、泡吹いてるわ。おまけに正気も失って言葉も話せなくなってますし。よくここまで追い詰める事が出来ましたね》
《い、いやいやいや! ミカエルがそうしてって頼んだんじゃん!?》
《流石にやりすぎです》
《うぅ…………!》
そもそも、何故ヴェイルが白目を剥いて倒れているのか? カルメラ様の希望を叶える為さらに詳細に『解析鑑定』を行使した結果、取り込まれた2人を助けるにはまずヴェイルを弱らせる必要があると分かった。そこで『ヴェイルをギリギリまで追い詰めてほしい』とカルメラ様に頼んだら…………瀕死になるまでボッコボコに痛めつけてしまったのだ。別に気絶させるだけでも良かったのだが、まぁ今更言ってもしょうがない。そんな事より、取り込まれた2人の救出だ。
《ともかくカルメラ様、次の段階に移りますよ》
《う、うん! どうするの?》
《現在2人の魂はヴェイルの魂に取り込まれていて、このままでは2人の自我が消失してしまいます。ですからまずは、一体化しかけている魂を分離する必要があります》
《僕の剣で切り分けられる?》
《そのままでは無理です。ですが、死霊魔法を付与すればいけます》
死霊魔法の本質は霊魂への干渉。つまり、霊魂の状態を操作する事だ。死霊魔法を使えば、一体化寸前の複数の魂を、元のバラバラの状態に戻す事も可能だ。
《今からエクスカリバーに死霊魔法を付与します。それを使ってヴェイルを切ってみてください》
《合点!》
《では、”魔法付与”》
エクスカリバーへの死霊魔法の付与は速攻で完了した。後はカルメラ様がヴェイルを切るのみ。
《今です!》
《せやっ!》
カルメラ様がエクスカリバーの斬撃をヴェイルに奔らせる。切られたヴェイルの体には、傷1つ付かない。代わりに魂が3つに切り分けられ、その内2つから声が聞こえて来た。
《お願い! 助けて!》
《早くしないと死んじゃう!》
少年と少女の声。先程ワタシに聞こえた声とそっくりだ。この2人が樹系魔族と草花魔族の王で間違いない。
《お、はっきり聞こえるようになった! けど、大分慌ててるね》
《恐らく、魂の一体化が止まった事に気付いていないのでしょう》
《なら教えてあげないとね。ミカエル、2人と ”念話” で繋がれる?》
《お任せを》
早速 ”念話” で繋がり、2人との会話を試みる。
《お2人さん、もう大丈夫だよ。すぐに助けてあ――――》
《違う! 僕達は良い!》
《あの子を、あの子を助けて!》
《え?》
あの子? …………え、まさか?
《あの子ってもしかして、君達の友達の蜂魔族の事?》
《そう! その子だよ! 僕達の親友なんだ!》
《でも、気配が消えかけてるの………! お願い、彼女を助けて!》
バカな…………。確かにヴェイルはその蜂魔族との間に、『自身の負った傷の全てを肩代わりさせる』という魔法契約を結んでいた。しかし戦いが始まる前に、その契約はワタシが解除したはず。なのにどうしてこんな事に?
《2人共落ち着いて! 助けるにしても、その子がどこにいるのかも分かんないし、見つけたとしてもどう助ければ良いか…………》
《居場所なら分かる! アイツの魔素の波長は知ってるんだ!》
《私達が居場所を教えるから、早く行って!》
《そ、そうは言うけど…………》
現状、少女と少年はヴェイルの中に囚われたまま。ヴェイルが目を覚ませば、再び取り込まれる危険がある。いや、それだけではない。万が一ここに新たな勢力が現れようものなら、その者達がヴェイルに何をするか分からない。最悪、ヴェイル共々2人が殺される可能性もある。カルメラ様もそれが分かっていて、ここを離れる事を躊躇っているのだ。
《カルメラ様、ワタシが ”闇魔人形” を使って、2人の友人を探しに行きます。カルメラ様はここで2人を守っててください》
《え、でも行った先に敵がいたら――――》
《今のワタシなら、”闇魔人形” を通してカルメラ様の剣技も使えます。そう簡単には殺られません。それに事は緊急を要するようですし、そういうのはワタシの得意とする所です》
《でも…………》
《お願いですカルメラ様。ワタシを信じて待っていてください》
《っ! ………合点!》
《ありがとうございます。ではまずお二方、例の蜂魔族さんの居場所を教えていただけますか?》
《任せて! アイツの居場所は…………いた! 皇宮の真下だ!》
《皇宮?》
《ヴィオンド帝国の皇宮だよ》
成程。改めて『解析鑑定』してみると、皇宮の真下に空洞がある。そしてその中に、生命力が弱々しくなっている何者かがいる。あれが蜂魔族さんで間違いない。
「では、ちょっと行ってきます」
「待って! その前に1つだけ」
カルメラ様がワタシに何かを押し付けてくる。それは、カルメラ様の愛剣エクスカリバーだった。
「い、いけません! これはカルメラ様の大切な剣でしょう!?」
「だからこそだよ。相棒が1人で危険な場所に乗り込むってんだから、いざとなったらこの子に守ってもらわなくちゃ」
「しかし、それではカルメラ様は――――」
「僕の事なら心配いらないよ。ミカエルが作ってくれた『黎明幻想剣』もあるし。だからお願い、この子も一緒に連れてって!」
「カルメラ様…………ありがとうございます」
「決まりだね! 相棒の事、頼んだよ」
剣身を握る手に力を込めて、カルメラ様はエクスカリバーに念を押す。よく見るとその手は、不安で小刻みに震えていた。まったく、カルメラ様は心配性な人だ。カルメラ様ならワタシの力を誰よりも把握してるはずなのに、わざわざエクスカリバーまで持たせるなんて。
――――でも、そんなカルメラ様だからこそ心の底から信頼できるし、役に立ちたいと思うのだ。
「カルメラ様。このミカエル、蜂魔族さんを助けて必ずやカルメラ様の元へ帰還致します」
「約束だよ、ミカエル!」
「えぇ! では改めて、”闇魔人形・特別製”」
ワタシ専用に作った ”闇魔人形”。それに意識を移し、ワタシは蜂魔族さんの元へ転移する。転移した先は薄暗い部屋の中。ドーム状になっているその部屋の隅で、人間サイズの大きな蜂が蹲っていた。どうやら彼女が蜂魔族さんのようだ。
「あの、ちょっと良いですか?」
「…………っ! 誰、か………そこに、いる………?」
弱り切った掠れた声で、蜂魔族さんが訪ねてくる。
「ワタシは、あなたの親友の樹系魔族・草花魔族の2人から、あなたを助けるよう頼まれてきました」
「っ! あ、の2人………無事、なの?」
「えぇ。2人はもう大丈夫です。それで、諸々説明は省きますが、早速治療を始めさせていただきます」
「あり、がと…………」
そこで蜂魔族さんの意識が途切れる。まだ辛うじて生きてはいるが、早くしないと手遅れになる。急がなければ!
「『解析鑑定』!」
早速『解析鑑定』で調べてみると、生命力低下の原因はすぐに判明した。どうやら何者かの術によって、生命力を吸い取られているらしい。となれば、さっさとこの術を解除してしまえば良い。
「”幻術抹消領域”」
”幻術抹消領域” は、ワタシを中心に一定範囲内のあらゆる魔法やスキル、術を強制的に解除し、無効化する事が出来る。しかも無効化する対象は選択可能で、ワタシだけが術を使える空間にする事も可能だ。帝国特殊部隊『影狼』の無効化スキルを元に作った技だが、意外な所で役に立った。
「続いて、”生命力譲渡”!」
先史草花の種族スキル『生命ノ種』で生成した生命力を、他者へと譲渡する技。これを使えば、生命力が弱った者を回復する事が出来る。蜂魔族さんの生命力はみるみる内に回復し、呼吸も安定した。峠は越えたようだし、後は安静にしていれば目を覚ますだろう。
「さて、早くカルメラ様の元へ――――」
「”在蝕噛喰”」
「っ!!」
悪寒を覚えて反射的に回避すると、木の龍が巨大な顎を広げて突っ込んで来た。木龍はそのまま壁に激突するが、間髪入れずに次の木龍が地面から生えてきて、蜂魔族さんに狙いを定める。
「っ! マズイ!」
咄嗟に回避してしまったせいで、蜂魔族さんと距離が空いてしまった。この距離では剣は間に合わない!
「いただき――――」
「させません!」
間一髪、”虹光黎明幻想盾” が間に合った。そのまま蜂魔族さんと合流して結界を張ると、部屋中の壁や地面から木龍が生えて来て、我々は完全に取り囲まれてしまった。どうやら木龍は、いや、木龍どもを操る術者は、我々を殺すまで退くつもりはないらしい。
「邪魔よ。どけ」
「どきません。彼女を助ける事がワタシの任務ですので」
「なら死ね」
淡泊な返事の後、木龍の口が開いて波動の雨が結界に降り注ぐ。一撃が非常に重たい。”幻術抹消領域” で術が使えるだけでも驚きなのに、威力にまで驚かされるとは思わなかった。
さらに――――
「いい加減、壊れなさい、よっ!!!!」
「な、バカな!? 結界が!?」
なんと何発目かの波動で、”虹光黎明幻想盾” 製の結界にヒビを入れられてしまった。どうやら敵は時空間に干渉できる能力を持っているらしい。時空に干渉できるなら、間違いなく空間転移も使えるだろう。仮に転移魔法で逃げたとしても、確実に追ってくる。そうなれば、ヴェイルや蜂魔族さんに何をするか分からない。
「ならば、ここで討ち滅ぼすのみ!」
気配を探ってみると、地中に木龍と繋がった巨大な気配がある。この気配が術者で間違いないが、地中にいては手出ししにくい。まずはそこから引きずり出してやろう。
「出てきなさい! ”強制召喚”!」
「っ!!?」
気配の主に ”強制召喚” を発動すると、ワタシの前に魔法陣が描かれて、そこからソイツが出現した。まさか召喚術で引きずり出されるとは想定していなかったのだろう。その顔には驚愕の表情が見て取れた。
「くっ! 何なのよいったい!?」
「あなたは…………」
その術者の顔には見覚えがあった。それは雷電を瀕死まで追い詰め、挙げ句逃走した古代魔樹の女だった。




