第55話 理不尽と慈悲の錬金王
「いたわ! 赤髪の男よ!」
「あれがアルトに間違いねぇ!」
「さっさと殺してズラかるぞ!」
『おぉぉぉぉぉ!!』
帝国北東部――――
バケモノから逃げる為、先史種達は死力を尽くしてアルトに迫る。
「来やがったな。纏めて灰にしてやるよ。”虹煉獄”!」
アルトは先程やったように、右手に灯した”虹炎” を大地に叩きつけ、虹色の炎の海を作る。今度は手加減無しの本気の一撃。炎に触れたそばから、先史種が焼かれていく。
『ギィャアァァァアァァァァァ!!!』
一瞬の内に3分の1近い先史種が消滅した。しかし、それでも数は数万越え。まして彼・彼女達は、下手な攻撃が通用しない精鋭揃いだ。
「チッ、一撃でどエラい数やられたな」
「気にする事無いわよダリア。アイツらが未熟だっただけよ。それより問題はアルトよ。どう攻めようかしら? ワイズ、何か案は無い?」
「取り敢えず様子見で行こう。若い衆! 遠距離から攻め立てろ!」
『応!!』
ワイズと呼ばれた先史草花の指示で、若い者達―――と言っても数万年生きてる―――がアルトを取り囲む。そして全方位からの遠距離攻撃の応酬が始まった。
「”虹光障壁”」
すかさずアルトは ”虹炎” の結界を張る。弾幕も木の根も、結界に触れた途端に分解され無力化してしまう。どれだけ撃っても、アルトに一切のダメージを与える事が出来ない。
「下手な攻撃は通用しないか」
「いいえ、そうでもないわ。良く見て。アイツ動けなくなってる」
「っ! 確かに。動きは止まっているな」
「でもよ、ルシャナ。それがどうしたんだ? 動かなくても、攻撃が当たらなきゃ意味無いぞ。普通に攻撃してちゃ、あの障壁は破れそうもないぜ?」
「何言ってんの。貴方なら出来るでしょ? 普通じゃない攻撃」
「あぁ、あれを使えってか?」
「あれならぶっ壊せるでしょ?」
「はぁ、仕方ねぇ。やってやるよ」
ダリアは一歩前に出ると、自身の権能『武神』を発動する。同時に膨大な生命力を生成すると、それを拳に集めて突きの構えを取った。
「”生誕覇拳”!」
ダリアは大地を割る程の勢いで踏み込み、アルトに急接近して拳を振るう。その威力は凄まじく、結界は耐えられずに粉微塵に砕け散ってしまった。
(っ! 結界の方が耐えられなかったか。まぁ、俺は結界の専門家じゃねーからな)
割られたものは仕方ないと、アルトは思考を切り替える。
「死にな、”生誕乱撃”!」
ダリアが間髪入れずに拳の乱打を繰り出す。一撃がカリナの ”生誕覇砕撃” 以上の威力を誇り、余波だけで地面にクレーターが出来ていく。
――――が、そんな破壊の嵐を相手に、アルトは涼しい顔で対応していた。
「雑な拳だな」
「てんめぇ…………!!」
ダリアが激昂し、拳の殺意がさらに高まる。しかしアルトは意に介さず、まるで蚊でも払うかのように拳をさばく。
「この、この、このおぉぉぉぉ!!!」
「はっ、そんなんじゃ何時まで経っても当たんねぇよ。せぁ!」
「ぐはぁっ!!?」
一瞬の隙を突かれ、ダリアの腹に拳がめり込む。そしてボールのようにルシャナ達の方へ飛ばされた。
「ヒィッ!?」
音速越えで飛ばされたダリアに頬を掠められ、ルシャナは悲鳴を上げる。あまりの事態にルシャナが呆然としていると、トドメを刺すべくアルトが構えを取った。
「っ! 若い衆、止めろ!」
『はっ!!』
間一髪でそれに気付いたワイズが指示を出し、再びアルトに弾幕の雨を浴びせる。戦況はまたしても膠着状態となったが、ルシャナ達は精神的に追い詰められていた。
「何なのアイツ!? 何でダリアとタイマン張れるわけ!?」
「いや、あれは戦いですらなかった。素人が達人に挑んだようなものだった」
「い、いやいやいや! それは無いでしょ?」
「あのダリアが羽虫扱いだったんだぞ? お前だって分かってるだろ?」
「うっ! じ、じゃあ、何でそんな事が出来るわけ? バリバリ後衛の錬金術師に!」
「俺が知るかよ!」
「―――喧嘩してる場合か!」
「「っ!」」
先程吹っ飛ばされたダリアが、満身創痍ながらも帰還し2人を宥める。
「アイツが何でアタシと戦えるか? んなもんアイツが強ぇってだけで充分だ。それよりも問題は、どうやってアイツを倒すかだ。アイツを倒さねぇと、アタシらこっから逃げらんねーんだぞ」
「そんな事言われたって、どうすれば………」
「お前とワイズの合体技を使ったらどうだ?」
「っ! でも、あれは――――」
「分かってるよ。準備の時間はアタシが稼ぐ。その間に、お前らの準備をしてくれ」
「待てダリア。時間を稼ぐと言っても、あのバケモノ相手にどうするつもりだ?」
「若い連中に援護してもらうよ。さっきはアタシの面子を気にして静観してたみてぇだが、んなもん気にせず手伝うよう指示してくれ。難ならアタシの他に、近接の得意な奴を4人貸して欲しい。そうすりゃ何とかなるだろ?」
「確かにそうかもだけど、そしたら貴方は?」
「…………」
「…………分かった。やろう」
「ちょっ、ワイズ!?」
「他に手は無い。お前も覚悟を決めろルシャナ」
「…………あぁもう! 分かったわよ!」
「決まりだな」
ダリアは覚悟を決めて、再びアルトに挑み掛かる。同時にワイズの指示が戦場に響き渡った。
「若い衆! ダリアを全力で援護しろ! コイツは我々全員の手で殲滅する!」
『は、ははっ!』
「モンス、モンザ、モンユ、モンド。お前達は接近戦で援護だ!」
『押忍!!』
名前を呼ばれた4人は先史種の中でも格闘技に優れ、全員『武闘王』のスキル持ちである。ダリアの援護には充分な者達だ。
(あのダリアって奴が来たなら、結界は無意味か。仕方ねぇ、結界解除っと)
対するアルトは自ら結界を解除すると、拳を構えてダリア達と対峙する。そして降り注ぐ弾幕の雨を避けながら、あっという間にダリア達との間合いを詰めた。
『っ!?』
「まず1人」
先行していたモンスに向けて、アルトは拳を振るう。しかし――――
「やれぇ!」
「っ! おっと」
弾幕の雨がアルトを追随し奇襲を止める。アルトはすかさず回避行動を取るが、その隙に今度は逆にダリア達に間合いを詰められてしまう。
「”生誕乱撃”!」
『”正拳乱打”!』
「っ!」
ダリアの拳に加え、生命力或いは呪いを凝縮した拳の応酬が繰り出される。
「今だ! 畳み掛けろ!」
加えて弾幕の雨もここぞとばかりに激しさを増す。流石にこの攻勢では反撃出来ないのか、アルトは回避に徹する。
「オラオラどうしたぁ? さっきはアタシをいとも簡単に吹き飛ばしたくせによぉ。ちょっと増えたらこの体たらくかぁ?」
「…………それは暗に、数がいなきゃ勝てないって認めてねーか?」
「っ! やかましい!」
図星を突かれて攻撃がやや単調になるも、以前としてダリアの攻撃は鋭く、若い先史種達も的確なサポートでアルトを妨害し続ける。
「ダリア! 準備が出来たぞ!」
「っ! 退くぞオマエら!」
『押忍!!』
ダリアの号令で前衛組が下がる。その先へとアルトが視線を向けると、ルシャナとワイズの頭上に赤黒いエネルギーの塊が出来ていて、今にも爆発しそうだった。
(何だありゃ? 呪詛、にしては強すぎるな。…………そうか、先史草花の生命力に先史魔樹の呪詛を付与したのか!)
アルトがそれに気付くと同時に、ルシャナとワイズの合体攻撃が放たれる。
「「”怨命呪獄”!!」」
赤黒い破壊の奔流――――それも、Sランクの冒険者でさえ遠目に見ただけで廃人と化す呪いの波動が、一直線にアルトへと迫る。
「終わりよ、アルト!」
「消え去れぇ!」
――――しかし、アルトが消える未来は訪れなかった。
「”虹炎錬金” だ!」
まるで、何者かに命令するように叫ぶアルト。その直後、アルトが背に羽織る上着が独りでに動き出す。上着は袖口に『虹炎』を灯すと、袖を伸ばして ”怨命呪獄” を受け止める。否、受け止めるに留まらず、そのまま分解して無力化してしまった。
『っ!!?』
先史種達は、目の前の光景が信じられなかった。アルト本人ならまだしも、まさか背中の上着に ”怨命呪獄” が止められるとは、夢にも思っていなかったのだ。
「な、何なのよその上着!?」
「これか? コイツは可変型自動戦闘ユニット ”大和”。俺の能力を使って自動で戦える代物さ」
「そんな上着があるなんて、聞いたこともないわよ!?」
「そりゃだって、作ったのは俺だからな」
『っ!!?』
「中々便利なんだぜ? 強ぇ奴とガチでやりあう時とかは、周りの奴らが邪魔するのを止めてくれたりするし。なんなら共闘だって可能だぞ。術に必要なエネルギーは、俺負担だけどな。――――っと、そんな話をしてる間に終わったみてぇだ」
「終わった? 何が?」
「見てりゃ分かる」
今度は自らの手に『虹炎』を灯すアルト。すると『虹炎』の中から、虹色の光を放つ金棒が出てきた。
「か、金棒?」
「え~と名前は………よし、”武蔵” にしよう」
『っ!!!』
ただでさえ強い気配を放っていた金棒が、名付けと同時に大幅に力を増す。その金棒が放つ凄まじい気配に、先史種達は委縮する。
「流石、先史種2人の合体技。結構強ぇ武器になったぜ。そんじゃ試しに、取り敢えず若ぇのから殺るか」
『っ!!!!』
アルトの殺気が急速に上昇し、全力の覇気が先史種達に叩きつけられる。一部はその威圧だけでショック死し、生き残った者もほとんどが動けなくなっていた。アルトはそれを気にせず ”武蔵” を構えると、”武蔵” に宿した技を発動し、そのエネルギーを纏わせる。そして空中へと飛びあがり、落下の勢いを乗せて”武蔵” を思い切り大地に叩きつけた。
「”怨命破獄”!」
”武蔵” に宿した技―――― ”怨命呪獄” が衝撃となって地面を走り、力の及ばない先史種達を粉々に粉砕する。粉砕されなかった者達も、国家戦力を廃人にする呪いを受けてただで済むはずが無く、精神崩壊を起こす者が続出した。やがて衝撃が治まり、無事でいられたのはルシャナ、ワイズ、ダリア、そしてモンス達4人と、一部の先史種のみ。全部合わせても、生き残った先史種は数十体のみだった。
だがルシャナとワイズにとってはそれよりも、”武蔵” が ”怨命呪獄” を発動した事の方が大問題だった。
「そ、そんな…………! 何で ”怨命呪獄” を、アンタが!?」
「どうしてって、お前らがそれを使ってくれたからさ」
「理屈に合わねーよ! 俺らが使ったからって、それは俺らの技をお前が使える事には繋がらねーだろうが!」
「俺の場合は繋がる。1度技を使う所を見せてもらえば、俺ならその技を無限に生成できるのさ」
これこそがアルトの言っていた、『虹炎』の本領である。
『虹炎』には触れた物を素粒子レベルで分解、焼却する力があるが、それだけではない。この特殊な炎は、それ自体を材料として錬金術を行使することで、新たなものを生成する事が出来る。しかも『虹炎』は変幻自在で、一切の消耗無く無限に生み出せる為、好きなものを好きなだけ生み出す事が出来るのだ。
ルシャナとワイズの ”怨命呪獄” が発動した際、アルトは ”怨命呪獄” を分解すると同時に『解析鑑定』を使う事で、”怨命呪獄” の情報を入手していた。この情報を元に『虹炎』から ”怨命呪獄” を錬成し、さらにそれを同じく錬成した金棒へと融合させる事で、アルトは ”武蔵” を生み出したのだ。
敵の攻撃を分解し、その情報を力として顕現出来る炎。戦う錬金術師の『錬金戦神』の権能を持つアルトとしては、これ以上ない相性の能力と言えるだろう。
(わ、訳が分からない…………! 何で私達の合体技を見ただけで使えるのよ!? 埒外すぎよ!
こんな、ヴェイルが足蹴にも及ばないバケモノ、勝てるはず無いじゃない!!)
あまりにも理不尽すぎる力に、ルシャナは完全に戦意を喪失する。
「皆、逃げるわよ!」
「当然だ! あんなバケモノ、勝てる訳がねぇ!」
他の先史種達も同様で、地面に潜って一心不乱に逃げようとする。しかし――――
「悪いが、逃がすわけにはいかない」
『っ!!』
アルトが ”武蔵” で地面を軽く叩くと、大地を吹き飛ばして金属製の茨が無数に出現する。そして逃げる先史種達を1人残らず縛り上げた。
「ぐぁ、あぁぁぁ………!! わ、技どころか、種族スキルまで!?」
「さっき、スララがお前らの情報を網羅してくれたんでな。『記憶共有』でそれをインストールしたのさ。そんな事よりよ。お前ら、放っておいたらまた他の所を襲うだろ? いやそれどころか、仲間達を殺しに行くかもしれねぇ。それを黙って見過ごす訳にはいかねぇな」
「他の所を襲うか? あ、当たり前じゃないの! この世界の全てを我々一族で覆い尽くす事が、王の望みなんだから!」
「王、つっても簒奪したんだろ? お前らはそんな奴の望みを叶える為に死ぬのかよ? なんなら、ソイツの元を離れて大人しく暮らすってんなら、俺は別に見逃しても良いんだぜ?」
「黙れ! アタシらの王は何時だって、一族の称号を持つ奴1人! お前にはとても勝てないが、王の望みくらいは叶えてやる義理がある!」
「そうとも。俺達が樹系魔族・草花魔族として生まれた以上、王の望みは俺達の望み! 世界中の街を滅ぼしてでも、この世界を森に変えてやるのさ!」
ダリア、ワイズの反論に、他の先史種達も次々に賛同の声を上げる。良く見ると、彼・彼女達の目から光が消えている。アルトはその光景に、虚しさと悲しみが込み上げてくるのを感じた。
(コイツら、自分らの矛盾に気付いてねぇ。戦って勝てない奴がいる以上、その王の望みってのを叶えるのは不可能。それが分からねぇ連中じゃねーはずなのに…………きっと、称号とやらで思考を制限か誘導されてんだな)
元々この先史種達は、王の最強の手駒とするべく、過去の歴戦の猛者達を再現した存在。全力を出せるように当時の意識は復元されているが、本質的には王の傀儡でしかない。その事実は、アルトを大いに不快にさせた。
(そういやカルメラさん、ずっとコイツらの事を人形とか言ってたな。成る程、確かに人形だなこれは。過去の英傑達を自分の都合の良いように呼び出して、兵器のように使うとか…………ちっ! 気色悪い称号だぜ!)
アルトは心底不快そうに舌打ちをする。
――――そして、その虹色の瞳に慈悲の光を宿し、アルトは改めて ”武蔵” を構えた。
「お前らを助ける事も、見逃す事も俺には出来ない。せめて、作り物の忠誠心でこき使われる屈辱から解放してやる」
「作り物だと!? 貴様、俺らの忠義を侮じょ――――」
「”武蔵・虹覇衝”!!」
『虹炎』を凝縮した破壊エネルギーを付与し、アルトは”武蔵” をフルスイングで振るう。虹色の破壊が辺り一帯を埋め突くし、帝国北東方面に虹色の光の柱が昇った。
やがて光がおさまった時、茨も、大地も、先史種も、何もかもが姿を消していた。残っていたのは、”武蔵” を担いだアルトだけだった。アルトは天を見上げると、ルシャナ達に語りかけるように呟く。
「悪ぃな。アンタらを解放する方法、俺にはこれしか無かったわ。恨まれても文句は言わねーぜ。それと、アンタらから貰った技だが、俺がさらに発展させるよ。簡単にコピーしといてあれだが、あの合体技は凄かったと俺は思う。だからこそ、俺がもっと上へと進めてやる。まぁこれは、その…………俺なりのハナムケだ」
最後は自嘲気味に苦笑するアルト。すると――――
(………ありがとな、アルト)
(ま、精々頑張って)
(まずは精度を上げることだな)
風に乗って、そんな声が聞こえた気がした。空耳なのか、それとも…………。
「まぁ良いや。俺はやれる事をやるだけさ」
そう言って、アルトは少年らしい晴れやかな笑顔を浮かべるのだった。




