第53話 vsヴェイル +α
カルメラ様の容赦ない&えげつない攻撃で、ヴェイルの命は風前の灯火となった。
――――のだが、しかし、予想もしなかった事が起きる。
「っ!!」
突然、カルメラ様が虹色の光を消してしまったのだ。
《カルメラ様? どうされたのですか?》
《今、コイツの中から子供の声が聞こえた》
《子供?》
ワタシには何も聞こえなかった。でも、カルメラ様の表情は真剣そのもの。決して冗談などではない。ヴェイルの中から子供の声が聞こえるだなんて、いったいどういう事なのだろう?
「…………っ!」
そんな事を考えていると、虹色の光が消えて自由になったヴェイルが、半分になった上半身を無理矢理動かして我々から距離を取る。体は瞬く間に全て再生し、さらに再び先史種を大量に生み出して壁を作ってきた。
「しまった、逃げられた!」
「はっはぁ! 急にあの光を消すなんて、とち狂ったのか? ま、どうでも良いけど、お陰で間に合ったぜ!」
ヴェイルが両手に1000を超える種を取り出し、それをばら撒く。種達は一瞬で人型の先史種に成長したが、どうも今までの者達とは様子が違う。
《コイツらもしかして、さっき言ってた ”歴戦の先史種の軍団” ってやつじゃないの?》
《ちっ、マズいですね》
しかもその1000個に留まらず、ヴェイルはさらに大量の種子を四方八方に飛ばしていく。数は優に数万を超えている。あの種全てが歴戦の先史種だとしたら、相当マズい。
「止めなくちゃ――――」
「させねぇよ」
「くっ!」
当然、ヴェイルが黙って見ている筈もなく、木の根や溶解毒などで邪魔をしてくる。しかも、ヴェイルだけではない。
「おらよぉ!」
「っ!」
大鎌を振りかざした先史魔樹が、我々に切り掛かってくる。避けられはしたが、途轍もなく洗練された動きだ。歴戦の達人である事は間違いない。そんな達人と思しき者達が1000人、我々の前に立ち塞がる。
「奴に邪魔をさせるな」
『はっ!』
その達人たちに、ヴェイルは平然と指示を出す。そして誰一人文句も言わず、我々に襲い掛かって来た。
「はっ、結局は操り人形ってわけ? だったら邪魔しないでよ!!!」
「ぐげっ!?」
「がはっ!」
妨害を押しのけて無理矢理にでも進もうとするカルメラ様だが、いくらカルメラ様といえど一撃で1人屠るのが精一杯――――一撃で倒せるのもおかしいが――――で、中々種の方へ進む事が出来ない。
《ならば、”虹光黎明幻想盾”!》
我々が追い付けなくても、進路上に障害物を置けば、種を止められるかもしれない。そう思って”虹光黎明幻想盾” を使ったのだが――――
「曲がれ」
《っ!?》
種の軌道が曲がって、盾を避けて飛んで行った。そんな事まで出来るのか!
「ってか、もうここで発芽しちまえ」
《え、ちょ、待っ――――》
『はっ!』
待てと言われて、待つ者などいない。それはこの世界でも同じだった。種は一瞬で発芽し、成長して巨大化していく。そしてその全てが、威厳溢れる人の姿になった。
「お前ら。今この国の周りにいる奴らを皆殺しにしろ。特に、アルトと金髪の鬼は、数に物言わせて最優先でぶっ潰せ」
『仰せのままに!』
マズい、マズい! 最悪だ…………。あんなものどうすれば!?
《あ~あ、生まれちゃったか》
《カルメラ様? 何を呑気に――――》
《ちょーっと危ないけど、ギアを上げよう》
《へ?》
《”幻想終焉斬”!》
《っ!!》
刹那――――
カルメラ様のエクスカリバーが恐らく振るわれ、世界が停止したのかと錯覚する静寂が結界内部を満たす。その直後、凄まじい衝撃が発生し、カルメラ様を中心に半径数十キロ圏内が更地と化した。数万の先史種の軍団も、その半数が塵も残さず消し飛んでいた。
《はぁ? へぇ…………???》
訳が分からない。あの悪夢のような軍団が、一瞬で消し飛んだ? しかも、ワタシの最高傑作の ”時空固定領域” までもが粉々になっている? いくらカルメラ様が無茶苦茶とは言っても、こんな事は出来なかったはず…………。
《うへぇ、やっぱりやりすぎちゃった…………》
《カルメラ様、いったいどういう事ですか?》
《どうって、何が?》
《ワタシは初めてあなたとお会いした時から、ずっとあなたを観察していました。ですが、あの先史種達を一撃で半数に減らす程の力は、あなたには無かった筈ですよ?》
《あぁ、それなんだけどね…………実は最近、今までよりも本気で力を抑えるようにしてたんだ》
《何故そんな事を?》
《こうなるから》
カルメラ様が指をさす先には、更地となった土地と、未だ呆然としているヴェイルと先史種の軍団の姿があった。成程、確かにこれは抑えておかないと危なすぎる。
《でもコイツらが生まれちゃった以上、もうそんな事は言ってられない。流石に本当の全力とまではいかないけど、ギアを一段階上げないと対処できないよ》
《逆に、一段上げただけで対処可能なんですか?》
《余裕だよ!》
《事情は分かりましたが、何故それをワタシに話してくれなかったのですか?》
《ミカエルならとっくに気付いてると思ったんだけど…………もしかして、気付いてなかった?》
《っ!! そ、そんな事はありません! もちろん知ってましたとも! ですから今のは、その…………冗談です!》
《…………流石に無理があると思うよ?》
《うっ! それは…………》
生まれて初めて、知ったかぶりをしてしまった。何故か素直に知らなかったと言えなかった。
どうして…………?
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!?」
「何なんだよアイツ!?」
「バケモノだ! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
っ! ちょっと目を離した隙に、先史種の軍団が一目散に逃げ始めた。
「お、おい待てお前ら!」
「うるせぇ!! たとえアンタの命令でも、俺達はそのガキとは戦わねぇぞ!」
「あのバケモノに挑むくらいなら、死んだ方がマシよ!」
ヴェイルの指示すら無視している。余程カルメラ様の事が怖かったのだろう。だが、向こうが戦意喪失なら、こっちは大助かりだ。
「ならせめて、アルトと金髪の鬼は殺していけ! そしたら逃げるなりなんなり好きにして良いからよ!」
「絶対だぞ!?」
「約束破ったら化けて出てやるんだから!!」
…………ちっ、ヴェイル、余計な事を。
《カルメラ様。残りの半数も我々で倒してやりましょう。出力はワタシが調整します》
《いや、あっちは2人に任せよう》
《っ!? 何を仰っているんですか!? カルメラ様はギアとやらでどうにかなるとしても、他の2人にはギアなんてありませんよ?》
《甘い甘い。あの2人だって、本気出せばこの程度余裕でしょ》
《は?》
いくら何でもそれは無茶が過ぎる。あの2人と言えど、そんなことが出来るわけない。
《っていう事だからさ、コイツら任せちゃって良い?》
《ったく、しゃーない。やってやるよ》
《あの皇帝に一泡吹かせてやろうじゃねーか》
え? 何か2人共やる気になってる?
《ち、ちょっと2人共? まさか、あなた達まで力を抑えてたとでも?》
《んぁ? まぁそうだな。魔王に進化して名前まで貰ったお陰か、あたしだけじゃなく ”地獄門” も進化したみたいでな。『終炎』にも上のステージが出来たのさ。村じゃ危なすぎて全然試せてないけどな》
《俺はミカエルさんに文句がある。アンタ、どういう訳か俺の『虹炎』を使えるみてぇだが、まだ『虹炎』の本質までは分かってねーみてぇだな。俺の力があの程度だと思われちゃかなわない。っつーわけで、『虹炎』の本当の力ってやつを見せてやるよ》
瞬間、2人の覇気が急激に強さを増していく。今までのワタシの予測より、最低でも100倍は強い。我々に届く程ではないが、歴戦の先史種軍団を壊滅させるには充分すぎる程の力を感じる。
《驚きましたね。これほどの力を隠し持っていたなんて》
《正確に言うと、抑えてたって感じだ。強すぎる覇気は弱い奴には毒だからな》
《とはいえ、この状態だと加減が難しい。もちろん善処はするが、下手をするとアンタらを巻き込み兼ねない》
《そこでミカエルの出番だよ!》
《え、ワタシですか?》
《ミカエルなら、攻撃の余波を相殺して、周辺への被害を減らせるでしょ?》
《もちろんです》
《僕、ちょっと気になる事があるから、そっちに注力したいんだ。でも、勇華とアルトさんが本気を出して、それでこの国が消滅するのも止めたい。だからミカエルには、僕のサポートをしつつ周辺への被害を最低限に抑えてほしいんだ。必要なら、僕の権能を好きに改造してくれて良い。これは君にしか頼めない事なんだ。よろしく頼むよ、相棒!》
《っ!!!!!!》
あぁ、カルメラ様から任務を賜るのは、何て幸せな事なんだろう。帝国のAIだった頃のワタシには、陛下から任務を賜って、嬉しいと思う事などなかった。何故ならワタシにとって、任務はただの指示書でしかなかったから。でも、今は違う。これはただの指示書などではない。カルメラ様がワタシを心の底から信頼してくれている。その証なのだ。カルメラ様がワタシを頼ってくれている事が、堪らなく嬉しくてしょうがない。そしてその感情が、ワタシの力になる!
《承りましょう、カルメラ様。周辺への影響に関してはお任せを。特にカルメラ様の動向には、逐一目を光らせます》
《ちょっ、何で特に僕なのさ?》
《カルメラ様が一番、力の制御が下手だからです》
《僕が一番なの!?》
《はっはっはっはっ! 確かにさっきのは酷かったなぁ(笑)》
《危うくこっちも巻き込まれるかと思ったぜ》
《勇華にアルトさんまで…………!》
《カルメラ様、ワタシはあなたの期待に全力で応えたいのです。その為には、カルメラ様の行動を常に監視する必要があるのです。もちろん勇華とアルトさんの事も気に掛けますが、最優先はカルメラ様です》
《嬉しいような、悲しいような…………と、ともかく! 3人共、対処は任せるよ!》
《おうよ、任せとけ!》
《目にもの見せてやらぁ》
《御心のままに》
そう、カルメラ様の御心のままに。全力で挑むとしよう!
《――――良いコンビだね、あの2人》
《僕達も、あんなコンビになりたいね》
あれ? 何か聞こえたような…………?




