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最強AIの異世界転移  作者: 蓬莱
第2章 ぶっ飛ばせ!魔樹の軍勢
47/50

第45話 憐れ、魔樹

今話は第三者目線です。

時間を少し遡り、カルメラが桃華達9名を転送した直後――――


「何という様か!」


転送されるなり、スカルは眷属達を怒鳴りつけていた。


「ス、スカル様!」

「貴様ら、偉大なるあのお方の(しもべ)として、恥ずかしくないのか!?」

『………っ!!』

「我らはあのお方に、名前を頂き(しもべ)に加えていただいた大恩があるのだぞ! 今こそ、その大恩に報いる絶好の機会! だというのに貴様らは、何時まで地べたを這いつくばっているつもりだ!?」


そうスカルが発破を掛けると、倒れていた不死系魔族(アンデッド)達が立ち上がり始めた。


「そうだ、たとえこの身が滅びようとも………!」

「偉大なる主の為に!」

『この魂を!』

「そうだ! その意気だ! それでこそ、あの方の(しもべ)だ!」

「しかしスカル様! 現実問題、我らの力では奴に及びません!」

「問題ない。余が前線に立つ。この戦、必ず勝つぞ!」

『オォォォォォォォォ!!!!』


スカルの目の前には、この場所を攻めに来た古代魔樹(エルダートレント)の姿があった。彼は立ち上がる不死系魔族(アンデッド)達に、理解できないと言いたげな視線を向ける。


「おいおい、いくら不死系魔族(アンデッド)とは言え、あれだけ痛めつけてまだ立つのかよ。諦めの悪い奴らめ」

「貴様は確か、ただ命令されて動いているのだったな。ただの従僕となっている貴様には、決して分かるまい。我らが本気でお慕いし、仕えているお方に、何としても報いたいと思う我らの覚悟が、貴様ごときに分かるはずもない。否、分かってなるものか」

「はっ! 安心しろ、分かりゃしねぇよ。お前らみてぇな雑魚を雇う間抜け(・・・)に、何で報いたいと思、っ!!!!!?」


そこから続く言葉を、古代魔樹(エルダートレント)は紡ぐ事が出来なかった。スカルと不死系魔族(アンデッド)の放つ殺気に、命の危機を覚えたからだ。


彼は、決して許されない罪を犯してしまったのだ。カルメラを慕う者達の前で、カルメラを侮辱するという、とんでもない大罪を。得体の知れない力に酔っていた彼はスカルの力に気付かず、軽い気持ちで自身を破滅に追い込んでしまったのだ。


《スカル………!! 今すぐ、その愚か者を始末しなさい!!!!》

《はっ!》


ミカエルから、処刑執行の命令が下った。そして始まったのは、一方的な殲滅撃だった。


「”紅光巨星ブラッディ・アンタレス”!」

「っ!!?」


スカルが杖を掲げると、突然空から赤黒い光を放つ巨大な隕石が落ちて来た。あまりの事に呆気にとられていた古代魔樹(エルダートレント)は、回避行動が大幅に遅れてしまった。


「ヤベぇ!」


気付いた時にはもう手遅れだった。赤黒い隕石は古代魔樹(エルダートレント)に衝突し、膨大な熱を伴う大爆発を起こした。


「グァァァァァァァァァァァ!!!!!」


凄まじい爆風が大地を吹き飛ばし、古代魔樹(エルダートレント)の体を粉々に破壊していく。勝負は着いたかに見えたが、相手はそう易々とやられなかった。


「ぐっ! ち、畜生ぉ………! 何なんだいったい!?」


クレーターの縁からニョキニョキと植物が生え、それが人の形を形成する。魂を見る事が出来るスカルには、それが古代魔樹(エルダートレント)だとすぐに分かった。


「新たな肉体を生成し、第二ラウンドと言った所か? その体では碌に戦えないのではないか?」

「うるせぇ! スピードならこっちの方が上なんだよ!」


古代魔樹(エルダートレント)が人化した場合、その利点は速度の上昇にある。膂力は変わらず頑強さもそのままだが、体重の減少によって防御力は減少してしまう。その変わりに速度は大幅に上昇し、さらに小回りが利くようになる。言わばこの人型の形態は、防御を犠牲に速度に特化した諸刃の剣なのだ。


先程の赤黒い隕石を脅威に感じた古代魔樹(エルダートレント)は、再びそれが放たれる事を警戒し、確実に避けられるよう人型になったのだ。


「今度はこっちから行くぞ! ”呪詛崩拳(カースド・スマッシュ)”!」


古代魔樹(エルダートレント)の種族スキル『怨嗟の咆哮(カースド・ロア)』が、拳の先から波動となって放たれる。


「よもや、余に呪いで挑もうとは……… ”反射の呪い(カースド・リフレクト)”」


スカルの目の前に結界が生成され、そこに呪いの波動が命中する。波動は結界によって反射され、真っ直ぐに古代魔樹(エルダートレント)に向かっていく。


「なっ、嘘だろ!?」


古代魔樹(エルダートレント)は大慌てで回避し、どうにか致命傷は避ける事が出来た。しかし、自身の技が跳ね返された衝撃は、耐え難い物だった。


「貴様、余が何者か分かっておらぬのか? 余は不死系魔族(アンデッド)の王、不死王(イモータルキング)。呪いに関しては専門家だ」

「それを言うなら、こっちだって専門家――――」

「愚か者めが。いくら同じ専門家とは言え、貴様が余と同格だとでも? 笑わせるでないわ」

「………っ!」

「”魂縛呪詛(ソウル・バインド)”」

「っ!? う、動けねぇ!?」


スカルの呪いによって霊魂を縛り付けられ、古代魔樹(エルダートレント)は身動きが取れなくなる。


「我が眷属達よ、力を授けよう。この愚か者に裁きを下すのだ!」

『はっ!』


スカルの杖が黒く光った直後、不死系魔族(アンデッド)達が黒いオーラに包まれる。


「お、お前! それは『闇魔法』じゃねぇか! って事はお前、『魔王ノ資格』持ってんのか!?」

「我らが王より、名をいただいた折にな」


そして『闇魔法』は、不死系魔族(アンデッド)との相性が非常に良い。『闇魔法』を付与された不死系魔族(アンデッド)は、通常の数十倍まで力が強化されるのだ。


「かかれ!」

『ウオォォォォォォォォォ!!!!!』


不死系魔族(アンデッド)達が一斉に襲い掛かる。動けない古代魔樹(エルダートレント)は、強化された不死系魔族(アンデッド)達によって成す術無く切り刻まれていく。


「てめっ、このっ、俺を嬲り殺しにするつもりか!?」

「嬲り殺しだと? 貴様の罪は、死んだ程度で償える物ではないわ。体中に痛みを刻み、嫌と言う程分からせてやる。貴様がどれ程の罪を犯したのかを」

「………っ!」

「”不死族召喚(イモータル・サモン)”!」


スカルの前に魔法陣が形成され、巨大な何かが召喚される。それは、数日前にカルメラが倒した、レッドドラゴンの死霊だった。


「最大出力だ!」

「グルォォォォォ!!」


赤き死霊竜――――赫幽竜レッド・ホロウドラゴンが巨大な顎を開く。そして魔素と、不死系魔物(アンデッド)特有の死の呪いを終息させ、特大のブレスを放った。呪いによって動けない古代魔樹(エルダートレント)は、その黒き閃光を諸に受ける。


「グギャァァァァァァ!!!!」


呪いの閃光に全身を焼かれ、古代魔樹(エルダートレント)は消滅した――――と、思われたが、少し経って体が再生した。


「な、はぁ? どうなってんだ? どうして、俺は生きて」

「当然だ。余が復活させたのだから」

「へ?」

「お前は確かに、先程のブレスに焼かれて死んだ。だがその直後に、余が貴様を不死系魔物(アンデッド)へと変貌させ、支配下に置く事で強制的に復活させたのだ」

「な、何で俺を助けた?」

「助ける? 違うな。貴様に償いをさせる為に、敢えて助けたのだ。言ったであろう? 貴様の罪は、死んだ程度で購える物ではないと」

「ま、まさか、お前………!」

「跪け。『不死者支配イモータル・ドミネイト』」

「グッ!」


人間態の古代魔樹(エルダートレント)は、土下座のような体勢のまま動けなくなる。そんな彼に向けて、スカルは容赦なく必殺技を放つ。


「”紅光巨星ブラッディ・アンタレス”!」

「グ、ガ………!」


紅い巨星が再び飛来し、古代魔樹(エルダートレント)に直撃する。古代魔樹(エルダートレント)は声にならない声を上げて、肉体が崩壊してしまった。しかし――――


「貴様は殺さぬ。貴様を余の眷属の末席に加えてやろう。カルメラ様とミカエル様のお役に立てる事を、光栄に思うがよい」


そう、彼は既に不死系魔族(アンデッド)と成っている為、霊魂が滅ばない限り不滅。故に、古代魔樹(エルダートレント)が消滅する事は無かった。


こうして新たな眷属を増やし、スカルはあっさりと勝利を収めた。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



スカルが戦っていたのと同じ頃、桃華も強化された古代魔樹(エルダートレント)を圧倒していた。


「死んじまいな! 小娘がぁ!!」


少女のような姿へと変身した古代魔樹(エルダートレント)が、得意の ”呪詛刺突(カースド・スピア)” を放つ。さらにこの古代魔樹(エルダートレント)は人間態を使いこなしており、暴れ狂う根を飛び移りながら桃華の元へ迫るという離れ業も披露していた。

――――もっとも、桃華から見れば児戯と大差ないが。


「茨鬼戦法・六ノ型 ”炎雷龍(ほのいかずち)”」

「ッ!!? ギィヤァァァァァァァァァァァァ!!!!」


桃華は一切慌てる事なく、拳の乱打で雷龍の群れを生み出し、木の根を破壊、無力化していく。さらに雷龍は根の無力化に留まらず、古代魔樹(エルダートレント)本体へと迫り、確実に本体にダメージを与えていく。


「ど、どうして!? 果実を頂いて、私は途轍もなく強化された筈なのに!」

「果実? 何の事か知らんが、それで何か変わったのか?」

「は?」

「少なくとも私の目には、そこらの古代魔樹(エルダートレント)とほとんど変わらないように見えるぞ?」


桃華は、ただ事実を述べるようにそう答えた。決して、桃華に悪気があったわけでも、強化がなされていないわけでもない。ただ単純に、力の差がありすぎただけである。同じ蟻でも、それぞれの違いに見分けがつかないのと同じで、桃華は果実を得る前後の古代魔樹(エルダートレント)の力の差が、本気で分からなかったのだ。だがその言葉は、力に酔っていた古代魔樹(エルダートレント)のプライドを傷つけるのに十分だった。


「ぶち殺してやる、ガキがぁぁぁぁぁ!!!!」


顔を真っ赤にして桃華に迫る古代魔樹(エルダートレント)。だが、そこで予想外の出来事が起こる。


「っ! 何だ?」


上の方から異変を感じた桃華が空を見上げると、巨大な何かが物凄い勢いで迫って来るのが見えた。それは、身長17メートルを越える古代魔樹(エルダートレント)だった。


「ちょっ、何やってんのアイツ!?」


少女の古代魔樹(エルダートレント)は飛んで来た同族に驚きつつ、大慌てで土に潜りその場から離脱する。桃華も離脱した所で、古代魔樹(エルダートレント)は地面に激突し、周りの大地を吹き飛ばした。


(この無茶苦茶っぷりは、まさか………)

「待てオラァァァァァ!!」


そこへ何者かが飛び降りて来て、同時に拳から技を放つ。


「”山岳爆怪”!!」


拳が古代魔樹(エルダートレント)に叩きつけられた瞬間、拳から火山の噴火が発生し、マグマが古代魔樹(エルダートレント)の体を貫く。


「ッ………!!」


何も言い残せないまま、古代魔樹(エルダートレント)は体を貫かれて絶命してしまった。それを確認した桃華は、古代魔樹(エルダートレント)を仕留めた人物の元へ歩み寄る。


「羅剛、やっぱりお前か」

「おう! 桃華じゃねーか! 無事だったか?」

「無事は無事だが、いったい何をしたらあの巨木がこんな所まで飛んで来るんだ?」

「悪ぃ悪ぃ。思い切りアッパーを決めたら、予想以上にぶっ飛んじまってよ。そんで、慌てて飛んで来たのさ」

「………そうか」


あまり納得のいく説明では無いが、鬼族でトップの怪力を誇る羅剛ならば、それもありえない話では無い。桃華は珍しく思考を放棄し、そう割り切る事にした。


「ところで桃華、お前の相手はどこ行ったんだ?」

「お前が飛ばした古代魔樹(エルダートレント)が衝突する寸前に、地面に潜るのを確認した。恐らくまだ近くに潜んで、私達に奇襲を仕掛けるつもりだろう。何故か知らんが、かなり怒ってたみたいだからな」

「あぁ………さては、またやったな?」

「何の話だ?」

「お前、昔っから自分の能力に無自覚だったもんな」

「お前にだけは言われたくないわ!」

「――――ッ」

「「っ!!」」


地面から殺気を感じた2人は、即座にその場から離脱する。その直後、先程まで2人がいた所から、呪詛を纏った木の根が飛び出して来た。


「危ねぇな。何だこりゃ?」

古代魔樹(エルダートレント)の根だ。見てないのか?」

「初手でいきなりぶっ飛ばしちまったからよ。技とか何も知らねぇんだ」

「って事はアイツ、2撃でやられたのか。………流石だな」


そんな会話をしている間も、古代魔樹(エルダートレント)の攻撃は続く。避ける事はそう難しくない。しかし、本体がどこにいるか分からない為、攻略は困難を極めていた。


(地中全体に、奴の魔素が充満している。これでは『魔素感知』も効かないな。さて、どうしたものか………待てよ? そうだ。羅剛(コイツ)がいるんだから、難しく考える事ないじゃないか)


「羅剛、ここの地面を全部吹っ飛ばしてくれ」

「任せとけ。”大地崩怪”!」


羅剛が『怪力』――――から進化した権能『怪神』を付与した拳を、地面に思い切り叩きつける。すると、半径数十キロ圏内の大地が粉々に砕かれて吹き飛び、地面に潜んでいた少女の姿が露わになった。


「見つけた!」

「っ!!!!? 嘘でしょ!?」


突然大地が崩壊した事実を受け入れられず、少女はパニックに陥る。その隙を桃華は見逃さなかった。


「”磔の茨”」

「グァッ!!」


何の前触れも無く宙に茨が出現し、それが少女の四肢に突き刺さる。少女は痛みに悶えつつも拘束を解こうとするが、何故か茨の刺さった四肢だけは指一本動かす事が出来ない。


「くっ! どうなってんのこれ!? 何で動かないのよ!?」

「それは、刺した物を時空ごと固定する茨だ。時空に干渉する能力でもない限り、その拘束は解けないぞ」

「舐めないで! こんな拘束、引き千切っちゃえば! ………っ!? 手足が動かない!?」

「言っただろ? 時空ごと ”固定” すると。お前の四肢は拘束された状態で固定されたんだ。もう逃げも隠れも出来ないぞ」

「っ!」


古代魔樹(エルダートレント)の顔に、初めて恐怖の色が浮かぶ。


「せっかくだ。少しだけ私の本気を見せてやろう」


そう言うと桃華は、正拳突きの構えを取り、さらに拳にエネルギーを集め始める。さらにそこへ、称号『茨木童子』の力と、桃華が獲得した権能の力が付与されていく。


その権能の名は『叡智ノ武神』。

『拳聖』と『賢王』が融合して誕生した権能で、これまで桃華が行って来た魔法と武術の融合をより効率的に、より効果的に行える。桃華にとってはこれ以上ない権能と言える。


「行くぞ。茨鬼戦法・終ノ型ガ壱番 ”髭切破壊拳・改”!」


拳に集めたエネルギーを収束させ、桃華は正拳突きを放つ。その瞬間、拳の先から波動が放たれ、少女に襲い掛かる。波動を諸に食らった少女の上半身は吹き飛び、残ったのは焼け焦げた脚のみだった。


「ふふっ、たまには全力でやってみるのも悪くない」

「けど、やっぱS+ランクの割には、ほんの少し強かったよな」

「あぁ。確かに妙だな。名前がある訳でもなければ、力を上昇させるスキルを持っていたわけでもないのに、何故? ………そういえば、果実がどうのとか言ってたな」

「果実?」

「コイツが言ってたんだ。”果実を頂いて強化された” って」

「じゃあ、頭の言ってた先史魔樹(エンシェントトレント)が、その果実を手下共に渡して強化してるって事か?」

「だろうな。ところで、先程地面が吹き飛んだお陰で分かったんだが――――」

「あぁ、何かが地下を通り過ぎたな」

古代魔樹(エルダートレント)と同レベル、いや、それ以上の殺気だった。追うか?」

「おうよ!」


そして桃華と羅剛は、地下に潜伏する何かを追って、北東の方角へと駆け出した。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



イリゼとスララが転送されたのは、古代魔樹(エルダートレント)の目の前だった。


《ん? 人型?》

《『人化』のスキルみたいっすね》

《あ~、成る程な》


既に足止めをしていた不死系魔族(アンデッド)達は全滅しており、今にも侵攻を再開しようとしていた。


「何だ? 今度はローブの野郎と、スライム? どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって」

「てめーらが攻めて来るからだろうが」

「うるせぇ! こっちは指令が下ってんだ。邪魔すんな!」


会話も早々に、古代魔樹(エルダートレント)は木の根を突き出して攻撃を仕掛ける。イリゼはスララを肩に乗せて、即座にその場を離脱した。


「………少し早いな」

「確かに普通じゃないみたいっすね」

「少しだぁ!? 俺はな、他の同族共とは違うんだよ! 他の奴らは果実だけだが、俺は ”ウズール” って名前に、魔導武具も頂いたんだ! てめぇらに勝ち目なんかねぇんだよ!」

「はっ、そりゃ大層恵まれているようだが、お前ごときに使いこなせるかね?」

「あぁ!?」

「絶対無理っすよ。こんな小物に釣り合う力じゃ無いっすから」

「て、てめぇらぁ………!」


ウズールは顔を真っ赤にして、血走った目で2人を睨み付ける。


「ぶっ潰してやるよぉぉぉ!!」


イゼル達が警戒していると、地面から呪いを纏った木の根が飛び出して来た。


「お決まりの ”呪詛刺突(カースド・スピア)” か。芸が無いなお前らは」

「力貰ってもやる事が同じじゃ、大したこと無いっすね」

「そう言ってられるのも今の内だ!」


呪詛刺突(カースド・スピア)” は留まる所を知らず、イリゼ達に襲い掛かる。2人は魔導武具を警戒して様子見に徹する事にしたが、一向に魔導武具を使用する素振りを見せない。


《仕掛けるか》

《了解っす!》


イリゼはウズールに向けて突撃を仕掛ける。その時だった。


《っ! 背後(・・)?》

《オイラにお任せっす!》


後ろから突然殺気を感じた2人が構えると、突然空間が歪み、そこから木の根が飛び出して来た。これにスララが反応し、体積を広げて盾となる。スライム特有の柔軟性を活かしたお陰で、スララは一切ダメージを負う事なくウズールの攻撃を防いだ。


《助かった》

《もう、白々しいっすよ。自分でどうにか出来たくせに》

《まぁそう言うな。それより今の――――》

《はいっす。『時空跳躍』に間違い無いっす》

《つまり、これが奴の言う魔導武具の力か?》

《それは間違いないっすけど、それだけっすかね?》

《んなわきゃねーだろ。ま、もう少し観察しようや》


「ちっ! 気付かれたか! ならばこれで!」


今度はイゼル達を取り囲むように空間の歪みが発生する。その全てから木の根が出現し、2人を串刺しにしようと迫る。


「死ね!」

「”虹光障壁(イリゼ・バリア)”」


イリゼは一切慌てる事なく、”虹光障壁(イリゼ・バリア)” で全ての根を防いだ。これにはウズールも驚きを隠せなかった。


「い、今の一撃を防がれただと!?」

「何驚いてんだか。やっぱお前、与えられた力の事を何も分かってねぇな」

「何ぃ………!?」

「そんな事より1つ聞かせろ。お前、今の攻撃に『時空貫突』を付与してたよな?」

「っ!? 何故それを!?」

「やっぱそうか。だとしたら、お前が持ってる魔導武具って、カラドボルグじゃねぇか?」

「お、お前! 何故カラドボルグの事を知っている!?」

「どうしてって、そりゃ………ソイツは俺が作った魔導武具だからな」

「っ!!!!!!!!!?」


ウズールの顔に、今までにない程の驚愕の表情が浮かぶ。


イリゼがヴィオンド帝国に所属していた頃、彼は帝国の依頼で幾つもの魔道具を作り出した。その中には魔導武具も含まれており、カラドボルグもその1つであった。


(カラドボルグを持ってんなら、奴が空間を無視した攻撃を出来たのも納得だな)


カラドボルグは槍型の魔導武具で、『時空跳躍』と『時空貫突』が付与されている。例えどこにいても、標的の居場所さえ分かれば攻撃が出来るよう開発された槍で、イリゼ達が作った1000を超える魔導武具の中でも、トップ10に入る性能を誇る。


「お前らのボスが、ヴィオンド帝国と組んでるって知った時から疑ってはいたが、俺が残した魔導武具を貸し与えられてる奴がいるとは。やっぱ、脱走の時に全部回収しとくべきだったな」

「フ、フンッ! 制作者だと聞いて驚いたが、所詮ただ作っただけだろう? ましてそれを他人に利用されちゃ世話ないな!」

「だから奪い返すんだよ。こんな風に」


そう言って、イリゼが『パチンッ!』と指を鳴らすと、彼の手元に時計のような模様が刻まれた槍が出現した。それは、ウズールが隠し持っていたはずの、カラドボルグだった。


「………へ?」

「カラドボルグ、返してもらったぜ」

「オイラ仕舞っとくっすよ!」


気付けばカラドボルグがイリゼの手元にあり、スララが肥大化してカラドボルグを包み込むと、一瞬にしてカラドボルグはその場から消失してしまう。呆気に取られていたウズールは、その様子をただ眺めている事しか出来なかった。


「………な、どういう事だ!? 何故カラドボルグが!?」

「こういう時の対策をしてないとでも思ったのか? 万が一の時は俺の操作1つで、即座に俺の元へ転移するよう仕込んでおいたんだよ。一定範囲内にいないと使えないのが難点だけどな」


スララを愛でながら、当然の事のようにイリゼはそう告げた。


「さて、これでご自慢の魔導武具は無くなったわけだが、どうする? 知ってる事全部吐いて退散するってんなら、見逃してやるが?」

「ふ、ふざけるな! ここから逃げた所で、結局あの方に殺されるのが落ちだ! もう後には退けねぇんだよ! そこをどけ!」

「断る。このまま進軍を許せば、帝国は世界に覇権を広げちまう。元ヴィオンド帝国所属の錬金術師として、それを黙って見過ごす訳にはいかない」

「だったら、てめぇらぶっ殺して通るだけだ!」


ウズールが全力を解放すると、地面から100を超える根が飛び出し、再び2人に襲い掛かる。さらに森の植物達も暴れ始めるが、2人にはその攻撃の一切が当たらない。


「さて、今回はどうするかな………よし。あれで行こう。”虹炎(イリゼ・フレイム)”」


イリゼは全身に虹色の炎を纏わせると、ウズールに向かって突撃を始めた。


「へっ! 血迷ったか? 串刺しにしてやるよぉ!」


好機とばかりにウズールの攻撃が激しさを増す。幾百もの攻撃の嵐が2人に襲い掛かるが、しかし、その全てがイリゼを包む虹色の炎に防がれる。否、防いでいるというより、炎に触れた所から焼かれて分解されているようだった。


「は? ど、どうなってんだ!?」


理解できない事態に悪寒を覚えたウズールは、さらに攻撃を激しくする。だが、何度やっても結果は同じ。どんな攻撃も虹色の炎を超える事は出来なかった。


この ”虹炎” こそが、イリゼの最大の武器。彼の持つ称号『メルクリウス』の力である。この特殊な炎は、生物、無生物を問わず炎を灯した物を自由自在に再錬成し、素粒子レベルで分解したり、別の何かに作り替えたりする事が出来る。その火力は凄まじく、鋼鉄を0.01秒で塵も残さず焼却する事が出来る。


ウズールの攻撃はその全てが音速を超えているが、”虹炎” は触れた物を瞬時に燃やす事が出来る。故にどれだけ高威力でも、どれだけ速くても、”虹炎” に触れた時点で攻撃は分解され、無効化されるのだ。


「く、来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


彼我の力の差を理解したウズールは、攻撃を囮にして地面に潜り、その場から離脱しようとする。しかし――――


「無駄だ。”虹炎錬金(アルケミスト)”!」


イリゼが ”虹炎” を足元に放ち、広範囲を虹色の炎の海に変える。瞬き1つにも満たない速度で大地が分解され、巨大な大穴が開いた。突然の地面の消失に対応できず、ウズールは地の底へ真っ逆さまに落ちていく。


「バ、バケモノ………!」

「なんて言おうと構わねぇよ。ともかく、お前はもう終わりだ。観念しろ」

「あ、トドメ刺すならローブは脱がないとっすよ!」

「おっと、そうだったな」


スララの助言を受けて、イリゼがローブを脱ぎ捨てる。初めて露わになったイリゼの容姿は、髪は燃えるような赤色で、服はワイシャツに黒ネクタイのスーツ姿、軍服の上着のような物を背に羽織った、童顔の少年だった。


「っ!? バカな! その顔は!! ………そうか、だから虹色の炎を!」

「俺の事知ってんのか。ま、どうでも良いけど」


ウズールの反応を冷たくあしらうと、イリゼは ”虹炎” を右手に集中させ、ウズールに向けて思い切り振り下ろす。


「”魂魄破壊錬金拳アルケミスト・レクイエム”!」


イリゼの拳から虹色の波動が繰り出され、ウズールの胸を貫く。波動はウズールの心臓のみならず、ウズールの全身、霊魂、果てには軌道上にある全てを素粒子レベルまで分解し、霧散させていく。波動が収まった後には、底がまったく見えない程の大穴のみが残された。


「よし。取り敢えず、これで俺の任務は完了だな。危うくローブを着たまま倒す所だったが」

「顔出しはリスクがあるっすけど、あのままじゃアイツを倒したのが、”正体不明のローブ男” って事になっちゃうっすからね」

「あぁ。お陰で ”俺” が討伐に参加したと、ハッキリ言い張る事が出来る。ミカエルさんの望む功績作りはバッチリだな。流石、良く覚えててくれたな、スララ」

「何言ってるっすか! ただのスライムで、自然に淘汰されそうだったオイラを助けて、ここまで育ててくれたのはイリゼさん――――いや、アルトさんっすから。このぐらいのサポートは当然っすよ!」

「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。あ、そうだ。切れ端しか残ってないけど、これやるよ」


アルトがスララに渡したのは、ウズールの破片だった。戦闘中に欠片をこっそり入手していたらしい。


「良いんすか? んじゃ、ありがたくいただくっす!」

「解析も忘れないでくれよ?」

「もちろんっすよ!」


スララは破片を取り込み、早速解析を開始する。


こうして、北東方面から進軍していた4人の古代魔樹(エルダートレント)達は、カルメラの仲間達に蹂躙され全滅したのであった。

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