第44話 魔樹との激突
今話は第三者視点です。
”熊童子” 牙猛は、目の前の光景が信じられなかった。
「どうなってんだこりゃ?」
牙猛の目の前では、不死魔将軍率いる不死系魔族の軍勢と、古代魔樹との戦闘が繰り広げられていた。だが、それは戦闘と言うには、あまりにも圧倒的だった。
「ギヒャハハハ! 弱ぇなぁ! いや、俺が強すぎるのか!」
「ぐっ、おのれぇ!」
古代魔樹の体には、未だ掠り傷すらない。対して不死系魔族達は既にボロボロであり、不死故に犠牲者こそいないが、勝つ事は不可能であった。
「何だかよく分かんねぇが、この状況はヤベぇな。っつーか、だからこその俺様だよなぁ!」
牙猛は己の責務を思い出し、古代魔樹へと突撃を仕掛ける。目敏くそれに気付いた古代魔樹は木の根を伸ばして攻撃を仕掛けも、木の根は牙猛の展開した爪に切り捨てられ、一切ダメージを与える事が出来ない。途轍もない速度で、牙猛は距離を縮めていく。
「オラよ!」
「くぎゃぁ!」
牙猛の猛毒を纏った爪による貫手が炸裂する。間一髪、古代魔樹は体を捻って直撃を躱すが、爪が体の側面に触れて古代魔樹を溶解させる。
「た、助かりました!」
「礼は良い。それより、おめぇら下がってろ。ここは俺様が引き受ける!」
「はい、よろしくお願いします!」
不死系魔族達を下がらせ、牙猛は1対1で古代魔樹と対峙する。
「ぐぎぎ………!」
「どうした? まさかこれで終いってわけじゃねぇだろ?」
「………当然だ!」
古代魔樹の傷が、一瞬で修復される。毒のダメージまで消えており、振り出しに戻ってしまった。
「流石に早すぎだろ」
「ふん! この程度、今の俺には造作も無い事さ。それで、次はなんだ? それとも、もう終わりか?」
「んなわけあるかよ!」
牙猛は果敢に古代魔樹に挑む。
「”飛爪死斬”!」
「”樹林の守り”!」
空間を切り裂く斬撃を飛ばす牙猛。しかしその全ては、古代魔樹の展開した木の根の壁に防がれ、本体まで辿り着かない。
(まぁ良いさ。いずれ毒が回ってアイツは動けなくなる。そうなりゃこっちのもんだ!)
そして牙猛は、古代魔樹と互角の攻防を繰り広げ始めた。
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”虎熊童子” の雷電もまた、古代魔樹と互角の攻防を繰り広げていた。
――――霊獣 ”白虎” との、2対1の状態で。
「ちっ! この俺が、格下相手に白虎の手まで借りる羽目になるとはな!」
「”格下” ね………そうやって上の連中は、いつも私達を見下す」
「あぁ? 何の話だ?」
「もうウンザリだって言ってんのよ、そういうの!」
古代魔樹は凄まじい速度で根を操り、雷電に攻撃を仕掛ける。根の速度は雷に迫る程で、雷電でも避けきる事が出来ない。
「仕方ねぇ、”融合召喚”!」
「グルォォォォ!!」
雷電は速攻で切り札を――――白虎と融合する ”融合召喚” を発動し、さらに『三位一体』で3人に増える。
「っ!? ふ、増えた!?」
面食らいつつも、古代魔樹は慌てて木の根で応戦する。その全てを紙一重で躱し、雷電は古代魔樹の本体に迫る。
「幾ら木でも、動けるなら痺れる感覚くらいはあるだろ? ”白雷突貫”!」
「ぐっ!」
雷電が雷を纏わせた貫手を繰り出す。本体は根と同じ速度で動く事は出来ず、古代魔樹は貫手を諸に受けてしまう。
「はっはぁ! こりゃ早くも勝機が見えたな!」
「こんの、 調子に乗らないでくれるかしら!? ”呪詛刺突”!」
呪詛を纏った根の応酬が始まる。背筋に冷たいものを感じた雷電は、迎撃を諦めて全力で回避に専念する。お陰で一撃も食らわずにすんだが、本体からは引き離されてしまった。
(くそっ、これじゃ近付けねぇ。しかもアイツ、全然消耗してねぇな。こっちは全力で動いてそれなりに消耗してるってのによ)
このままでは、削り倒される。そう悟った雷電は、早くも賭けに出る事にした。
「「「”風雷土遁”!!!」」」
リベル、アサミとの戦いでも使用した、雷電の奥義が発動する。3つの竜巻を一点に集め、強力な竜巻を発生させるこの技は、威力は高いが隙がある為、ここぞと言う時にしか使えない。だが、古代魔樹は巨大で、本体の動きは鈍い。そこに目を付けた雷電は、奥義を用いて即効で仕留める事にしたのだ。
「っ!? しまっ――――」
この攻撃に虚を突かれた古代魔樹は、成す術無く竜巻に飲み込まれる。雷電は賭けに勝利し、古代魔樹は倒された――――かに思えた。
「何だありゃ………?」
竜巻が古代魔樹を巻き込んだ直後、竜巻の天辺から人型の何かが飛び出して来たのを、雷電は見逃さなかった。その ”何か” は空中で1回転すると、雷電の前に着地する。
「危ない危ない。あんな手札を隠し持っていたなんて」
「まさか、古代魔樹なのか?」
「えぇ、そうよ。あなたが格下と見下していた、あの古代魔樹よ。”人化” した姿も、それなりにイケテるでしょ?」
そう答えたのは、緑の長髪をなびかせる長身の美女だった。普通の男ならその魅力の虜となってしまう所だが、雷電は逆に不気味さを感じ冷や汗を流していた。
「………何をした?」
「『身代わり』のスキルよ。今の体を捨てて新しい肉体を生成し、その場から離脱できるスキル。感覚で言えば、脱皮に近いかしらね」
「脱皮?」
「要するに、あなたが竜巻を当てたのは、ただの抜け殻だったって事、よ!」
「っ!?」
さっきまでの戦いからは想像もつかない速度で、古代魔樹が雷電に迫り蹴りを放つ。咄嗟の事で反応できなかった雷電は、腕を交差させて彼女の蹴りを真正面から受け止める。
「ぐっ!」
華奢な体からは想像も出来ない威力に、雷電は呻き声を上げながら地面を削り後退する。
「どうしたのかしら? たかが ”格下” に良いようにやられて、情けないんじゃない?」
「てんめぇ………!」
雷電は奥歯を噛みしめ、構え直す。その目は、ただの抹殺対象を見る物から、自身と同等の敵を見る目へと変わっていた。
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カイザーと、”金童子” こと蒼創は、2人の古代魔樹を相手に善戦していた。2人が飛ばされた場所は比較的近くにあり、2人は早々に合流していたのだ。
「”蒼剣時雨”!」
「グァァァ!!」
『絶対切断』を付与した ”蒼剣” の雨が、古代魔樹を切り裂いていく。
「やるなカイザー君。こっちも、”黄金波動砲”!」
「ぬぐっ………!」
蒼創の右手に装備された黄金のガントレットから、周囲の魔素を収束した波動弾が放たれる。波動弾は古代魔樹を貫き、後ろの森の木々をも吹き飛ばした。
「まさか、あなたと共闘する日が来るとはな、蒼創殿」
「まったくだ。だが、お互い手の内はある程度分かっているから、共闘はそれ程難しくないだろ?」
「あぁ。あの日以来毎日挑まれているから、あなたの技は僅かな所作で分かるよ」
「それはそれでショックだなぁ」
「おい貴様ら! 儂らを無視して何をしている!」
2人が戦う古代魔樹の1人が、抗議の声を上げる。それに反応して、もう1人も抗議の声を上げた。
「あたしらを前にして無駄話かい? ったく、これだから若いもんは!」
「そうは言うが、君達既に負けそうじゃないか」
蒼創の言葉は、決して驕りから来ているわけではない。既に古代魔樹達はボロボロで、対するカイザーと蒼創は未だ大した傷も無い。どちらが優位かは比べるまでも無かった。
――――無論、それを受け入れられるかは別だが。
「何を偉そうに! あたしはまだ本気じゃないんだよ!」
「ほう? 必至になって抵抗していたようだが、あれの上があると? 信じがたいな」
「この、ガキィ………!」
「よせ、敵が優位なのは事実。このままでは負ける可能性もある。あまり乗り気はせんが、人型になるぞ」
「ちっ。下等生物に変身なんて業腹だけど、仕方ないね!」
古代魔樹達の姿が変わり始める。2人の巨体は縮んでいき、人間の大人と同程度のサイズになった。1人は老齢の紳士の姿に、もう1人は老齢の淑女へと姿を変えた。
「ほう、そんな能力もあるのか」
「面白い! これは研究が捗るぞぉ!」
メカニックとして、日々新たなメカの研究開発を行う蒼創が、研究心をくすぐられて興奮する。
「そんな事が言っていられるのも今の内だ」
「2人纏めて、あたしらの養分にしてやるよ!」
古代魔樹達は一瞬で間合いを詰める。カイザーと蒼創は即座に反応し、古代魔樹の攻撃を躱す。
「避けたか! だったらこれでどうだい!」
「っ!」
淑女の古代魔樹が、地面の草を操って蒼創を縛り上げる。
「さぁて、どうやって甚振ってやろうか?」
「蒼創殿!」
「心配無用だ。はぁっ!」
「っ!?」
術も武具も使わず、蒼創はその筋力だけで草を引きちぎり、拘束を逃れる。
「こ、小娘ぇ! その胸、ただの脂肪の塊じゃ無かったのか!」
「失礼な奴だな! メカニックにはパワーも必要だから毎日鍛えてるんだよ。呼ぶなら ”筋肉の塊” と呼びたまえ!」
「鍛えた程度で、あたしの草が引き千切られてたまるか!」
淑女は顔を真っ赤にして蒼創に襲い掛かる。カイザーも蒼創の援護に周ろうとするが、紳士の古代魔樹がそれを許さない。
「行かせはせん」
「ならば倒すのみ!」
蒼創と淑女、カイザーと紳士の戦いは激しさを増す。勝負の行方は、まだ誰にも分からない。
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ヴェイルはこの戦いを、地下にある自分の部屋から見物していた。
(北西の方角は、優位になってんのが1組だけか。他は互角か、押されてる所もあるじゃねぇか。折角果実を与えてやったってのに、情けない奴らめ。まぁ、派手に暴れてくれりゃ充分か。それよりも――――)
ヴェイルは北西の方角の敵――――牙猛、雷電、蒼創、カイザーを見やる。
(部下共が現れてから1分足らずで姿を現した。それも同時に。誰かが意図的にアイツらを送り込んだって事か。明らかに組織の行動。つまり、これほどの実力者を束ねる奴がいる。それも、相当な手練れに違いねぇ)
魔族は弱肉強食。力を示せない者は、誰も従える事が出来ない。故に彼らを従えているという時点で、その何者かは相応の実力を持つ事が分かるのだ。
(………待てよ? まさかあの王霊鬼や、ローブの赤髪もソイツの部下か? いや、流石にそれはねぇか。いくら何でも、あのレベルを2人も従えるなんて出来るわけねぇ。出来るとすりゃあ、そりゃ相当なバケモンだ。いる筈のねぇバケモンの話は置いといて、北東の方も確認しねぇと)
今回、古代魔樹が送り込まれたのは、ヴィオンド帝国の北西から北東の8カ所の地域。ヴェイルはその内の残り4カ所、北東方面へと意識を向け、そして――――
「…………は?」
思わず間抜けな声を上げてしまった。何故ならば、ヴェイルが北西方面へと意識を割いていた僅かな間に、北東方面へ送り込んだ古代魔樹が、全滅していたからだ。




