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プロローグ──コアメンバー終結

まだプロローグですが、プロローグについてはここでようやく終わりました。どうやら1万文字を超えたか超えないかぐらいみたいです。1万文字も書いて何一つ始まってない、人物が顔を合わせるだけ、物凄く展開が遅いですね。

2014年5月11日 22;21

本日のメインイベントはやはり第一回読書会会合にあっただろう。正式名称をフランクフルト学派研究会と名付けられたこの狂ったような名前のサークルが、本日私と、准教授である出山先生(依然下の名前を把握していない)、それから山口涼子の三名によって結成された。ちなみにフランクフルト学派というのが何なのか私にはさっぱりわからない。山口さんも、おそらくはわかっていないはずだ。それはつまり出山先生の発案だということになる。何しろ三名しかいないわけだから、必然的にそうなる。今日はそこまでの経緯について書いて、寝よう。


昨日──というよりもう今日送ったメッセージにより山口さんからの返信がすぐに帰ってきて。今日の3限時が、ちょうど出山先生も空いている、私達の予定も空いている(彼女とだけは、自分たちの組んだ予定でどこが空いているのか一度確認している)ことを確認していたから直後にもうアポをとってしまったらしい。なかなかの行動力だし、よくわからないが、それだけ彼女は積極的なのだろうか。なんだか、あんまり積極的にモチベーションを揺さぶられるような、魅力的な企画にはどうしても思えないところがあるのだけれども。それはいまだにわからない。


1限、2限が私達は英語の授業だったからそのまま3限の待ち合わせ場所へと移動する。待ち合わせ場所といっても、出山先生のオフィスになるわけだが。大学の准教授ともなれば個室がもらえるのだ。素晴らしい、私はどうしたって自分が卒業した後、個室がもらえるような職業につけるような未来が想像できない。個室がもらえたら、そこにいくらでも好きな本をおいて、好きなコーヒーをおいて、有能な秘書なんかがいたらいいな──と考えているうちにあっという間についてしまう。ドアの脇には小さいホワイトボードが貼り付けられており、不在 授業中 います の三つの選択肢のうち「います」に丸がつけられている。まあ、アポをとったのだから、そうだろう。

どんどんとノックを二回繰り返し、中からはーいという声が聞こえ特にこちらからはなにか言うわけでもなく中にすべりこんでいく。当然だが山口さん、私の順番で。

出山先生の印象は冴えないおっさんそのもの、服はよれよれ、髪はくしゃくしゃ、メガネをつけていて、何やら椅子に座って本を読んでいる。歳は40代ぐらいということしか見当がつかない。大学の先生っぽい大学の先生だ。確か経済学の先生だったっけか。

「おおー、君が読書会に参加してくれる子?」とさっそく声をかけてくる。なかなか軽薄そうなおっさんだ。

「そうなんですよー、私の知り合い関連では彼女だけですね。先生の方はどうですか?」と山口さん。恐らく山口さんも昨日あったのが初めてのはずだが、めっぽう会話のノリが軽い。

「いや、こっちもゼミのヤツラに声をかけてみたりしてるんだけどね。あいつら本なんか全然読まないからサー、座って座って」と書類やら本やらで足の踏み場もない部屋の中をガサゴソと動かして、なんとか人間二人分が座れるスペース──別に地べたにではない、椅子を後ろに引くスペースすらなかたったのだ──を確保し、私達二人は椅子に座る。

「あのー、私、山口さんに誘われてきました、多根崎といいます。なにがなんだかよくわからないんで、説明を聞きに来たといった感じなんですけどー──」それとなく、「まだ参加すると決めたわけじゃない」という感をアピールしてみたが、なんだかこの二人を相手にしていると無駄なような気もする。

「昨日聞いたよー。何しろわざわざそこら中に貼り紙して集めたのに彼女一人しか来なくてね。この大学には本を読む人間はいないのかと思ってたよ」

「まあ、この時代本を読まなくても娯楽はいっぱいあるし? 私の知り合いでも本をよく読みますなんていう人、彼女ぐらいしかいないですよ。多根崎さんは?」

「私も自分以外では知らないかな。高校の時はライトノベルを読んでいる人は何人かいたけど、それぐらい」決してライトノベルをバカにしているわけではないが、私の中ではライトノベルは小説カテゴリというよりかは漫画カテゴリに入るのだった。

「ライトノベルねー、私は読まないな」と山口さん。彼女はこの1ヶ月話した感触だと、海外文学系の知識が豊富だから、そうだろうとは思っていた。一度もライトノベルの話は話題にのぼったことはない。

「そうなんだよなー、今どきの子はあんまり本を読まないんだよ。でもだからこそ読書会をやりたいと思ってね。何しろ今はライブ、体験の時代だからさ。音楽はCDの売上がもうあがらないからライブ志向になってるし、本だってもう売れやしないんだから、読書会がやりたいんだよ。俺が学生の頃はそこら中で読書会やってたのに、ここじゃあ誰もやってないしさ」

「先生って、どこの大学だったんですか?」と話の流れ上私から聞いてみる。

「東大。東大の法律出てそのまま院いって、その辺を転々として2月からここに赴任してきたんだよ」と出山先生がいう。

へえ。東大で院まで出てるのか。こんな大学にいるにはもったいないぐらいのエリートのような気もするけど、今はそれぐらい大学に職が少ないのかもしれない。何にしろ凄いな、という以上の感想は出てこない。

「へえ〜やっぱりインテリは違うんですかね。みんな読書会をやろうなんて。この大学じゃあ考えられないですよ」と山口さんがいう。それ、私が思ってて言わなかったことだけど……。

「まあ、いいんだよ、そんなことはさ。とりあえずもううちのゼミからも貼り紙からも集まりそうにないし、簡単に自己紹介して、活動日程決めちゃおうよ。サークルっぽい名前つけてさ」

「いいですよ。私はじゃあいいとしても、多根崎さんから自己紹介する?」

「どんな本を読むのが多くて、得意分野は何とかが知りたいな」と出山先生。

「そうですね。だいたいなんでも読みますよ。でも海外文学系はあんまり読まないですかね。そっちはずっと山口さんの方が強いです。強いてあげるなら、ヘッセとかかな。車輪の下とか、シッダールタとか。」

「あ〜ヘッセね〜俺はヘッセダメなんだよね〜。ウジウジしてて、胃が痛くなってくるから」

「私はヘッセ好きですけどね。デミアンがいいんですよ、デミアンが。といっても私読んだの中学生の頃ですけど」こっちは山口さん。

「えーと、それ以外だとよく読むのはSFですかね。筒井康隆、小松左京、星新一。日本の御三家はなんでも読みますし、現代でも飛浩隆とか、冲方丁とか。あと歴史か。司馬遼太郎、ローマ人の物語? でしたっけ? から宮城谷昌光まで。ライトノベルも読みますけど、最近のマイブームは村上春樹ですね」

「ふーん。かなり読んでるんだねー。山口さんがまたたくさん、いろいろ読むから、さっきも言ったように最近の人はあんまり本を読んだりしないとかいった手前驚いてたんだけど。」

「冊数を読んでいるだけで、ろくに覚えているわけじゃないんですけどね。」と私。

「多根崎さんはけっこう凄いんだよねー。私も話してみて驚いた。たまたま大学のクラスが同じだったとは思えないよ。で、私はどちらかというとやっぱり海外文学が多いかな。ドストエフスキーは好きだし、サマセット・モーム、ヘッセ、あとは哲学方面かな。ニーチェとかの。もちろん現代物も読むけど、こっちは特段得意ジャンルとかはないかな。伊坂幸太郎が好きとかそれぐらいな感じ」

「じゃあ、次は俺でいいかな? だはは。俺はやっぱり日本文学を読んでいたことが多いかな。あと世代的にマルクス・エンゲルスとか、フロイト、フランクフルト学派とかにおおいにかぶれている。トルストイ、ハンナ・アーレントにプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神みたいなところは一通り抑えている。あとはまー、俺も歴史物は読むよ。司馬遼太郎に池波は王道としても浅田次郎から荒山徹まで幅広くね。細かく言ってけばキリがないけど。」

これについてはへー以外の感想が出てこない。三者三様、趣味がかぶっているところもあれば、まったくかぶっていないところもあるようだ。これまでわずか18年の人生、両親は本なんて全く読まないし、学校で読書家と出会うこともなかったからこうした出会いは新鮮なように感じた。得難いもの、という感じではなく、本読みといってもいろいろいるものだ、という感慨かな。100人いれば、100人だけの趣味のありかたがあって、趣味;読書もつきつめていけばみんな別々の道に分かれていってしまう、もちろん世の中にはノンフィクションしか読まない人、小説しか読まない人、いろいろいるだろうし。これはたぶん、読書以外の趣味にしたっておんなじようなことではないのかと思う。たとえば? うーん、野球観戦が趣味といっても、応援するチームが同じとは限らない……というような感じだろうか。


「それじゃあ、早速だけど読書会、やってみようか?」とあーでもないこーでもないとお互いの趣味、読書遍歴について話し合っているうちに出山先生が切り出してきた。

「いきなりやるんですか?」と聞いたのは私。これは言外には「三人で読書会ってできるんですか?」という意図も含ませていたつもりだけど、当然ながらそんな意図は汲みとってもらえなかった。

「君たち今期はこの時間空いてるんでしょ? 我々フランクフルト学派研究会の活動時間を今期はこの時間に設定して、来週から集まればいいじゃん」

なんだか今聞き捨てならない呼び方をされた気がするけれど、往々にしてあまり人につっかかって行かない、よくいえば事なかれ主義、悪くいえば対人面倒くさがり屋の私は黙っていた。

「なんか今フランクフルト学派がどうとかいいませんでした?」と山口さんがつっかかってくれる。さすがだ! いっちゃいけないことをいっちゃいそうな人だけど、こういう時は非常に頼りになる!

「うん、名称がないと人も呼びづらいでしょ? 組織名というかさ。とりあえず便宜的に決めたけど、嫌だったらまた人が増えたら変えればいいよ。それでさ、さっそく来週集まる時の本だけど、何がいいかな?」

あっさり流されてしまった。山口さん、負けないで。

「それだったらせっかく参加したんだから、多根崎さんに決めてもらったらいいんじゃないですか?」

ああ、山口さんすっかり流されてしまっている。私、フランクフルト学派研究会なんて自分が知りもしない怪しげな団体の研究会に所属させられてしまうんだろうか。だいたい聞く人が聞いたら18禁的な意味だと誤解されやしないだろうか? とそんなことを心配する間もその時はなかった。何しろ課題本を決めなければいけないのだ。

「うーんそうですねえー、それじゃあ、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』とかどうですか? 二人とも、読んだことあります?」と自然と口をついて出てきていた。それは高校の時ハマった村上春樹作品の中でも特に印象に残っている作品だったからというのもあるし、自分ではよく消化しきれずになんだかくすぶったままになっていた作品でもあったからだと思う。とにかくこれについては、一日をおえた今考えてもそう悪い選択肢ではなかったと思っている。

「村上春樹? 俺はちょっと読んだことあるけど、あんまり合わなかった記憶があるなあ。でも俺はいいよ。問題なし。」

「私は読んだことないなー。いいよそれで。図書館にあるよね? 電子書籍で出てる?」

「電子書籍では出てないと思う。村上春樹ってたぶん古い人間だから、電子書籍とか嫌がってるんじゃないのかな。レコードの良さとかについて延々と語っているイメージがあるし。」よく知らずに言ってしまうが、たぶんそうだろう。

「それじゃあ決まりだな。一週間後の5月18日に、俺のオフィス──は来客があったりすると邪魔だから、教授棟4Fのフロイトの間に集合しよう。課題図書は『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』村上春樹で」

「はーい」と二人で返事をして、その日は解散。私はその後4限からIT関連の授業が入って、山口さんは授業が特になかったからそのまま帰っていった。しかしあの二人、一週間しか時間がないのに課題本がどれぐらいの分厚さ、ページ数なのかとか、全然聞かなかったな。それだけ読むのが早いのか、あるいはさすがに村上春樹の作品だからどこかで見かけたことはあるのか。上下巻でけっこう分厚かった印象があるんだけど、私も一度は読んだとはいえ読み返していかなければ。


こうして私の初めての読書会・コアメンバー初顔合わせが終わった。来週はついに読書会か……。人と本について語り合ったことは、山口さんを除けばまったくない。どんな風に話せばいいのか、今からいろいろ考えていかなければ。

今回は大量に本、作家の名前が出たので取り上げるのは不可能ですが、フランクフルト学派について少し。フランクフルト学派はホルクハイマー、アドルノ、ベンヤミン、フロム、マルクーゼといった一群の思想家たちのことをいうらしいとだけ覚えておけばいいでしょう。これらの人々はそれぞれに思想があって、マルクスとフロイトの思想を統合しそうした思想を発展・改築していったのですがどいつもこいつも個人的にはアホの集まりといった感じでろくに興味がありませんね。同時代を生きた人間にはそれなりに思うとこある人たちのようです。

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