宴は続く
もし明日が絶望しかないなら
もしオーバーテクノロジーでしかそんな未来を切り開けないなら
禁断のテクノロジーにすがるしかないだろう
僕らにはそれ以外の選択肢は無いんだから
宴の後片付けの最中、そんな事を考えていた。隣では上様が、準備は楽しかったのに後片付けは最悪だと、散々文句を言っていた。
賑やかな時間は、その後の静寂を強く引き寄せる。とは言え、僕の隣は相変わらず賑やかだった。
「ミャ~」
暗闇から突然、子猫のような鳴き声が聞こえた。と同時に、由美ちゃんが再び姿を現した。彼女の足元で目を光らせていた小動物は、僕らの存在を確認した途端、いずこかへ姿をくらました。
「猫飼ってるの?」
僕が尋ねると
「えへへへ」
とだけ答えた。
「お母さんは?」
そう尋ねると
「男の人とカラオケに行った」
そう答えた。そして
「あたしがいいよって言ったんだよ。ママいつもカラオケ行くの我慢してたから」
慌ててそう付け加えた。
「猫は何て名前なんですか?」
上様が尋ねた。
「みゆって言うの。あたしが付けたんだよ」
由美ちゃんは得意げに答えた。
「でも困りましたね。このアパートは原則ペット禁止なんですよ」
うわっ。今のこの子に向かってそんな事を言う。結構えげつないぞ、この猫耳メイド。
「でもさあ、大家さん権限で何とか出来ないの?」
「それは無理ですよ。だって契約書にペット原則不可って書いちゃいましたもん。今更契約内容変更しようものなら、相当すったもんだが予想されますから」
「ずるいよ!」
突然怒ったように言い放つ少女の方に、僕らは視線を向けた。
「だって幽霊は飼っていいのに!」
その言い草に僕は思わず吹き出した。
「だって幽霊は不可抗力ですから。ペット禁止はあくまで原則で、不可抗力なら話は別なんですよ」
「じゃあさ、猫の幽霊だったらいいの?」
「それは仕方ないですね。不可抗力ですから」
「じゃあさ、みゆの事、猫の幽霊って事にしてくれない?」
「仕方ないですねえ」
いいのかよ! それは!
こうして子猫のみゆは、幽霊だと誤魔化されて飼われる事となった。
二人のやり取りに僕は突然閃いた。
「ねえ由美ちゃん。大きくなったら、宇宙飛行士になるといいんじゃないかな?」
しかし
「ええ? やだよ。だってあたし郵便屋さんになるんだもん」
彼女は、自分の将来は既に決まっていると言わんばかりに答えた。
「郵便屋さん?」
「だって郵便屋さんがママの彼氏だった時が、一番楽しかったんだもん」
「じゃあさ、宇宙の郵便屋さんはどう? 由美ちゃんならきっとなれると思うよ」
僕はそう提案した。
宴から1週間、それは突然の出来事だった。例の初老のおっさんが急死した。警察によると病死との事だった。元々心臓に持病を抱えていたらしい。
このおっさん、小松さんは、先週の闇バーベキュー大会の時はすごく元気そうだったし、そもそも『憎まれっ子世にはばかる』と言うくらいだから、殺しても死なないような類の人物だとばかり思っていた。
突然の死にアパートの他の住人達も困惑していた。
隣近所の礼儀作法としては、その死を悼まなければいけないところだが、なにせ性格が性格だったわけだ。嫌な思いをした人達は大勢いる。だから本来なら、さっさとくたばってくれて有難うと言いたいところだろう。
しかしこの訳ありアパートにはひとつ問題があった。幽霊が出るという設定で、僕らが演出し続けて来た為、大方の住人は幽霊を信じてしまっている事だ。だから小松さんが幽霊として甦り、再び嫌がらせを繰り返すんじゃないかとの噂が、アパート中にあっという間に広がった。
困った事に、葬式を挙げてくれる家族も、親類も友人知人も見つからなかった。
仕方なく、このアパートの住人一同で葬式を執り行う事に話がまとまった。小松さんにはさっさと成仏して貰い、まかり間違っても幽霊として復活しないようにとの、思惑からだった。
「はあ~、困りましたね」
「困ったね」
「葬式って費用が掛かるじゃないですか」
「そうだね」
「いくらアパートの住民一同で出してくれるからって、大家さんが全然出さないわけにはいかないじゃないですか」
「ごもっとも」
「はあ~、困りました」
こんな問答を僕らは繰り返していた。
しかし結局葬式は執り行われた。しかも盛大に。費用の大半は上様が出した。最後の裏技を使い資金調達をして。
「炭酸ガスからダイヤモンドを作るとはね」
「だってこれなら、元素の存在比率を変えなくて済むじゃないですか」
「じゃあこれからも、この方法で資金調達出来るね」
「それは出来ません」
「えっ? なんで?」
「だってオーバーテクノロジーで、地球温暖化問題を解決する事になっちゃうじゃないですか。こんなやり方しょっちゅう続けてたら。今回は火葬で炭酸ガスが増える分を考慮して、裏技として使っただけですから」
「そう言う意味じゃ、今回の葬式費用は小松さん自身が出したって言えるのかな。はた迷惑な思い出以外に何も残さなかったはずなのに」
本来の葬式であれば故人を偲ぶところだろうが、今回は小松さんの葬式にかこつけた、どんちゃん騒ぎとなっていた。しんみりしているよりもどんちゃん騒ぎをしている方が、故人も成仏しやすいとか誰かが言っていた。そして坊さんも、目の前に並んだ酒やご馳走がどれだけ影響したかは定かでないが、その仮説を追認していた。
梅雨本番の6月中旬、こうして今は無き小松さんをダシにした宴は続いた。




