↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
期日指定郵便  作者: 遊星族
第1章 神が振ったサイコロ
PR
18/35

大家と言えば

「申し訳ありません。なんかこの子の所為で」

 少女の母親が申し訳なさそうに言ってきた。しかしその割には、口元が絶えず緩みかけていたのを、僕は見逃さなかった。

 少女は名前を細川由美と言い、母親の名前は細川真弓、親子2人でこのアパートに住んでいる。

 現在このアパートには、他にも親子や夫婦等で住んでいる人達が何組かいた。皆それぞれ事情を抱えているようだし、一人暮らしの人達もそれは変わらなかった。多くの人達はそのような事情を深く詮索せずに暮らしていた。

 願わくば僕達の事情も、深く詮索せずに暮らして貰えると有り難かったが。

「あの……大家さんとお2人で、幸せになって下さい……ぷふっ」

 とうとう笑いが堪え切れなくなった彼女は、由美ちゃんの手を引きながら、そそくさと僕らの元を離れて行った。



「ミスターストリング!」

 そう呼ぶ声が何度も聞こえた。

 暫くは聞こえない振りをしていたが、よりによって上様が

「呼んでますよ、ミスターストリング」

 とか言うもんだから、仕方なく返事をした。

「いやあ、いい呼び名が出来て良かったですよ、ミスターストリング。管理人補助さんじゃ言いづらいし、佐藤さんじゃこのアパートに何人もいて、紛らわしかったですからねえ」

 確かに最初の頃こそ、僕は管理人補助さんと呼ばれていた。しかし言いづらい所為か、すぐに佐藤さんと呼ばれるようになった。ところがこのアパートには、佐藤さんは僕の他に6人もいたから、この呼び名も結構ややこしかった。

「ミスターストリング! いやあ、いい呼び名が出来て良かったですよ、ミスターストリング。管理人補助さんじゃ……」

 酒臭い人間が同じ台詞を繰り返す光景は、久しぶりだった。僕が暫く忘れていた日常が、目の前にあった。



「石のスープみたいだねっ」

 先程の由美ちゃんが、一人でひょっこり現れた。

「お母さんは?」

 僕が聞くと

「ママは向こうで男の人とおしゃべりしてる」

 そう、素っ気無く答えた。

「ねえ、大家さんとひものおじ、じゃなくてひものお兄ちゃんは、食べ物持って来なかったでしょ? 石のスープみたいに」

 なんて鋭い子だろう。

 この闇バーベキュー大会には、実はもう一つ隠れた目的があった。それは僕達の食費を浮かす事だ。

 上様は図書館で石のスープの本を読み、いたく感動したらしい。

「地球には素晴らしい知恵があるじゃないですか」

 先程部屋で待機している時、そう語った。かねがねパーティーグッズを使ってみたいと思っていた上様は、食費を浮かす実益も兼ねて、石のスープをヒントに、闇バーベキュー大会を思い付いたとの事。

 より詳しく言えば、太陽電池パネル設置後、僕の給料を支払う為の資金がいくらか足りない事に上様は気付いた。そこで世界最速のスパコンより遥かに高性能の、宇宙船のコンピューターを使ってシミュレーションをしたところ、食費さえ切り詰めれば後は何とかなるとの結果を得たらしい。その時、かつて図書館で読んだ石のスープの話を思い出し、パーティーグッズを使ってみたい願望と一石二鳥で、闇バーベキュー大会で食費を浮かす策を思い付いたとの事。彼女は残った最後の資金で、早速バーベキューに必要な品々を購入した。これらの品々は予想より安く手に入ったそうで、余った資金で流しそうめんセットも購入出来たとの事である。

 こうして、元々は僕に給料を払う為に存在したはずの資金は、一切無くなったそうだ。



「ねえねえ、大家さんもひものお兄ちゃんも貧乏なの?」

「そうですよ。ひものお兄ちゃんの稼ぎが悪くて、とっても苦労してるんですよ、私は」

 何て人聞きの悪い事を、あどけない子供に向けて言うんだ、この大魔王は。

「でも、ひもなのに稼ごうと努力はしてるんだね、このお兄ちゃんは」

 この歳で何て物分りがいいんだろう、この少女は。

「ママの前の彼氏もひもだったけど、全然稼ごうとしてなかったよ。でも前の前の彼氏は、一生懸命パチンコで稼ごうとしてたよ。お兄ちゃんパチンコは上手なの?」

 少女の問いに僕は返答に困った。しかし上様が

「このひもの由宇作お兄ちゃんは、パチンコよりももっと凄いギャンブルで、一発当てようとしてるんですよ」

 などと、のたまった。

「そっかあ。そう言えば今日、ひもの由宇作お兄ちゃんと大家さん、一発当ててたもんね」

 まあ確かに広い意味では、僕は一発当てているわけだが。パチンコどころか、宝くじの類もやらずに切り詰めた生活をしていた僕が、今ここでこうしているのは、何だか妙な因縁だと思う。

「ココナッツジュースどうぞ」

 上様が由美ちゃんにココナッツジュースを手渡した。

「美味しいの?」

「美味しいですよ。特に凄く辛いものを食べた後に飲むと」

「ふ~ん」

 そう言って彼女はココナッツジュースを口にした。

「どう? 味は」

 僕が尋ねると

「なんか微妙」

 という答えが返って来た。



「貧乏長屋って楽しいね」

 目の前の小学校3年生の少女が、満面の笑みでそう言った。聞くと彼女は同級生から、お前の家は貧乏長屋だとからかわれているらしい。

「楽しいですよ、貧乏長屋は。だって大家と言えば、美人で気立てのいい、猫耳メイドの幸運の女神も同然って、言うじゃないですか」

 また作りやがった、この大魔王。目の前の少女はキョトンとした顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。