ひそひそ話
「うーん、ちょっと頭が疲れたな。今日はもう」と僕が言いかけると、田崎が「赤間先輩、夢ちゃん先生に話を聞きに行きましょう」と言った。
外を見るとすでに夕闇が広がろうとしていた。冬至まで間もなく、日没はどんどん早くなっている。
「ネタ出しも結構進んでいるし、夢ちゃん案件は二人の主導って決めたのは赤間先輩じゃないですか。こっちは心配ないですよ」
僕のひるんだ気持ちに喝を入れるように牛田が言った。
田崎はすでに立ち上がっていて、「さ、行きましょう」と僕を促した。
吹奏楽部の練習で不在なのではないかと思ったが、夢ちゃん先生は職員室にいた。
「練習には、指揮者の先生がいらしているから」とのことだった。
僕は、深津が夢ちゃん先生の間で交わした会話について聞いたこと、そして、夢ちゃん先生の言う「解けない謎」、その謎解きに挑戦させてもらいたいことを伝えた。
「深津くんは新聞記事を元ネタにして考えたことがある、って言ってメトロノームとリードの空き箱を持って行ったけれど、どんな仕掛けをしたの?」と興味深そうに聞いた。
田崎が周りを見渡し、生徒がいないことを確認すると「新聞部の一年生向けの課題なんです。まだ解かれていないみたいなので、内緒にしていただけますか」と一層控えめな声で尋ねた。
「文芸部の人が先に解いちゃったの?」
「はい」
誇らしげに田崎が頷くと、夢ちゃん先生が「学校新聞の方も?」と聞いた。
「文芸部全員、見た瞬間に解いちゃいました」
田崎の言葉に驚いた表情をし、それから頷くと、夢ちゃん先生は「もちろん内緒にするわ。どんな仕掛けでどうやって解いたのか教えて」と小声で言った。その表情は急に子供になったみたいで、ヒソヒソと話す二人はまるで同級生がいたずらを企んでいるようだった。
一通り話を聞くと、「はあー」と夢ちゃん先生は感心したような声を出し、それから真顔になった。
夢ちゃん先生は思い出をたどっているのか少し遠い目をして考え込み、それはずいぶんと長い時間続いた。
田崎の表情が不安そうになってきた頃、夢ちゃん先生はうつむき、目尻に指の腹を当ててから顔を上げた。目の端が少し赤くなっていた。
「思い出は思い出のままにしておいた方が、美しくていいかな、とずっと思っていたんだけれど」
夢ちゃん先生は言葉を切り、軽くため息をつくと「でもずっとモヤモヤしているのも嫌だな、とも思っていたの」と続けた。
「見てもらいたいものがあるから、明日持ってくるわ。あなたたちなら、私の気持ちを軽くしてくれるかもしれない」




