夕暮れの教室で
翌日の放課後に、僕と田崎は教員室に夢ちゃん先生を訪ねた。夢ちゃん先生は、部活に行かずに待っていて、僕たちの顔を見ると、「会議室に行きましょう」と言って席を立った。
会議室のテーブルを挟んでこちらに僕と田崎ゆみこ、反対側に夢ちゃん先生が座った。すでにだいぶ傾いた冬の夕日が窓の外から、日陰になっている会議室の中を橙色に染めていた。
夢ちゃん先生は、膝の上に置いていた封筒をテーブルの上に置き、そのまま僕たちの方に押し出した。白かったであろう封筒は日に焼けて変色しているのか、薄暗がりとなっている会議室の中で夕焼けの光に溶け込んでいた。僕たちを見つめる夢ちゃん先生の顔は真剣で、それでいてなんだか高校生のようにも見えた。
封筒には、「夢へ」と表書きがあった。万年筆で書いたようなその文字もまた、長い時間が経つ間にかなり薄れてしまったようだった。
「あ、電気つけるね。だいぶ暗い」
夢ちゃん先生が明かりをつけると、魔法が解けたように白々とした光が部屋を満たし、夢ちゃん先生も現代に戻ってきた。
僕が封筒を開いて中の手紙を開き、それを横から田崎が覗き込んだ。
「見てもらいたかったのは、その手紙」
「この手紙は、深津先輩の仕掛けと関係があるのですか」と田崎が聞いた。
「深津君が今回新聞部の一年生向けの課題で引用した、学校新聞の編集後記のコラムの記事はね、」
僕と田崎が頷くのを確認してから、夢ちゃん先生は先を続けた。
「この手紙を書いた人なの。私は、あの編集後記を書いた本人に、この手紙をもらったのよ。『コラムと合わせて考えてみてくれ、分からなかったら答えを教えるから』、そう言っていた」
僕は、手紙に目を落とした。
「じゅうや、というのがペンネームなんですね」
「とおや、よ」
夢ちゃん先生が呟いた。「季節の『冬』に何々『なり』の『也』、で冬也、という名前だったの。自分の名前の読み方そのままにペンネームでは漢字をあてたのね。編集後記を書いたのは、この時だけだったけど」
横から田崎の声が聞こえた。
「仲が良かったんですか」
いつものように控えめな声だけれど、ずいぶんと優しい響きだった。
「とても、ね」
夢ちゃん先生は、膝の上に手を置いてうつむき、時間をかけて言葉を探しているようだった。
「もう時効だから、いいかな。思い出話を打ち明けるのも」




