新聞部部長の悩み
深津は、放課後文芸部の部室に来て説明をするとのことだった。
「聞いて欲しい話もあってよ」
深津はそう言っていた。
部室に集まった皆に深津の言葉を伝えると、田崎が「それでは、お客様にもお茶を淹れないといけないですね」と楽しそうに棚から電気ケトルやTWGと書かれた紅茶の缶を出して準備を始めた。
お湯が沸いて電気ケトルのスイッチが切れると同時に部室のスライドドアが乱暴に開き、大きな紙の束を両手で体の前に掲げた格好で深津が現れた。足でドアを開いたらしい。
深津は、田崎がポットにお湯を注ぐのを見て「お、いい香り」とつぶやいてから部室の中を見渡し、紙の束を部室脇の棚の上にそっと置くと、部室中央に向かい合わせに並べた机の一つに席を取った。
棚に置かれた紙の束を見て、一ノ瀬さんが「今日は、新聞部部長の深津和彦として来た、ってことかしら」と切り出した。
「ま、そういうことだ」と言ってから、自分の前に紅茶のカップを置いた田崎に「ありがとう」と頭を下げた。
「で、メッセージは解読しちゃったってことか」
深津が全体を見渡して聞いた。
「はい、メリークリスマス、ですね」と田崎がにこりと笑って言った。
「マジか。早すぎるぞ」
そう言うと深津は紅茶のカップを両手で持ち上げて、「あったけー」と口を近づけ、そこで目を閉じて「本当にいい香りだ」とつぶやいた。
「わかるの?」
一ノ瀬さんが疑わしそうな声で聞いた。
「俺は違いのわかる男だからな」
「TWGのアールグレイです」
田崎が嬉しそうに言った。
「え」と驚いて、深津和彦がまじまじと紅茶とカップを見つめた。白いカップには藍色で模様が描かれている。
「このジノリのカップも、君の私物?」
「はい」
「文芸部、おっそろしいな」
何が、と僕は思った。
「そんなことよりさ、新聞部の深津和彦部長があのメッセージとどんな関係があるんだよ」
「そんなこと、って」と深津は少し呆れた顔をしてから、紅茶を一息に飲んでカップを慎重に皿に戻すと、話し始めた。
「新聞部の一年生二人に取材と調査の実地課題として謎を出したんだよ。二年生の各教室に何か変わったものが置いてあるから、自分たちで探すか、またはクラスの人間に何か変わったことはないか聞いて、それを見つける。そしてそこに隠された意味を考える、そういう課題」
「で、どこまで進んでいるの?」と一ノ瀬さん。
深津は、田崎がカップに紅茶のお代わりを注ぎ終わるのを待って、一口飲んでから答えた。
「まだメトロノームとイーゼルしか見つけていない。クラスの中に入るのはハードル高いし、聞き込みするのはさらに難しそうなんだよな」
「それはそうですよ」と牛田が答えた。
「そうは言ってもさ、新聞部だからな。やってもらわないと」
「僕は無理だなー。だから文芸部なんだから」と牛田が腕組みをして考え込んだ。
「でもさ、反時計回りに置いてあるんだからだいたいの場所は見当つくだろう」
深津は、僕を見て「そこまで気がついたのか、お前、凄いな。残念ながら、まだそこまですらたどり着いていないよ」と答えた。
「各部からの借り物だからあまり長い事置いておきたくないんだよ、先生方にも了承取ってるけど一週間が限度だから早く見つけて欲しい」
そう続けて頭を抱えた。




