夢ちゃん先生の演奏会
「あ」という声が聞こえた。
皆が声の主を見た。そこでは夢ちゃん先生が何かを考えるように視線を泳がせていた。そして顔を伏せて肘をついた手を額にあてると、「そうかそうか」とつぶやきながら頷いた。
しばらくそのままの姿勢でいたあとで顔を上げると、「わかっちゃった」と夢ちゃん先生は笑いながら言った。その目が涙で潤んでいた。
「若かったなぁ、私たち」
夢ちゃん先生は ハンカチで目尻を軽く押さえて「この謎は私が解けるみたい」と言った。
みんなが驚いていると、もう一度優しく笑い「私が、説明するわね、場所を変えましょう」、そう言って席を立った。
夢ちゃん先生は、文芸部一行を体育館のステージ裏に連れてきた。そこには、演奏会などで使うグランドピアノが保管されていた。
「音楽室は今、吹奏楽部が使っているから」
夢ちゃん先生はそう言いながらピアノの鍵盤の蓋を開いた。館内で練習をしている運動部の掛け声やシューズが床を擦る音が絶え間無く聞こえてくる。
「便箋に書いてあったGDE、三つの音、それをひくとこうなるの」
ポンポーンポン、と夢ちゃん先生が軽く鍵盤を叩いた。どこかで聞いたことがある音階だった。
「聞いたことある」と野中さんが言った。「なんだっけ。すごい昔の歌」
夢ちゃん先生は微笑んで、もう一度弾いた。ポンポーンポンと寂しげででも優しげな音がした。
「あーなんか出かかっているんだけど」と野中さんが頭に手を当てて呻いた。
夢ちゃん先生はピアノの椅子を引いて座ると、両手を鍵盤の上に据えた。何度か深呼吸をして、そして演奏を始めた。高い音が緩やかに流れる前奏の後、夢ちゃん先生が歌い始めた。




