GDE
夢ちゃん先生が、「何かしら、これ」と助けを求めるような表情で僕たちを見た。
一ノ瀬さんが「Q.E.D、証明終了、ならこれで終わり、ということでしょうけど。そうでなくてGDE?」と首をかしげた。「文字ずらしとか、読み替えとかできないのかしら」
「前倒しならFCD、後ろならHEF、ですけれど、意味が通じないです。単語の頭文字を並べたものでしょうか。DとEの間が少し広いのは何か意味があるのかしら」と、田崎ゆみこも考え込んでいる。
この手紙は、「冬也」さんから夢ちゃん先生への個人的なメッセージなのだから、夢ちゃん先生が見たらわかる、そういう文章のはずなのだ。コラムが解読キーになっていたり、読み替えが必要だったり、そういう複雑なものではないはずだ、と思った。
僕は、手紙が入っていた缶を見た。あるとすれば缶の模様だろうかと思ったが、サビに覆われた表面はどのような模様だったのか、何か描かれていたのかどうかもわからなかった。
夢ちゃん先生は、便箋を広げてテーブルに置いた。シミだらけになってしまっていたが、上質の便箋のようで紙はまだしっかりしていた。きっと「冬也」さんが気合を入れて探してきたのだろう。横書き用に罫線が入った便箋には左側に渦巻き模様のような透かしが入っていた。
当時の二人が記憶を共有している出来事や言葉で、「GDE」につながるものがあるだろうか。僕は昨晩ネットで調べた一九九八年の出来事を思い出してみたが、思い当たるものはなかった。
「これ、ト音記号じゃなくて?」
野中さんが便箋を覗き込んで言った。言われてみると、和風の渦巻きだと思っていた透かし模様は、ト音記号の右半分のようにも見えた。
「私が、吹奏楽部だったから」
夢ちゃん先生がつぶやいた。夢ちゃん先生が吹奏楽部だったから、音楽に関係のある便箋を使った、ということのようだった。
「音の名前かな」と一ノ瀬さんが言った。「Gはソで、Dはレ、Eはミ、になるわね」
「でも『それみ』では言葉にならないです。前倒しで『せらま』も、後ろ倒しでも『たろむ』」と田崎が小声で言った。
「コードじゃないかしら。Gコード、Dコード、Eコード。それぞれのコードの音の名前をつなげるとか」
野中さんが考えながら、「ソシレ、レファ#」と唱え始めたところで止め、「シャープとか入る時点で違うわ」とため息をついた。皆がしばし考え込んで、沈黙が部室を満たした。




