分析調査
取り出した缶を手のひらに乗せたまま文芸部の部室に戻り、コピー用紙を敷いた上に缶を置いた。それだけでもサビがパラパラと白い紙に散った。幸い穴は空いておらず水が流れ出すこともなかったが、サビで覆われた缶の蓋を開くことは難しそうだった。
「僕がやってもいいですか」と牛田実が名乗り出た。彼は、用具箱から軍手とマイナスドライバーを取り出すと、缶の本体と蓋の境目であったであろうと思われる場所にドライバを慎重に当ててサビを落としながら時折ドライバーをひねっていった。そうやって何周かすると、わずかだが蓋が持ち上がった。やがてはっきりと蓋の片側が持ち上がったが、そのまま半分のところで蓋が折れてしまった。牛田実が、本体に残った部分の蓋を削るように剥がすと、形はどうあれ、『タイムカプセル』が開いた。缶の中には折りたたんだ紙が収まっていた。表面にはサビで茶色いシミがついてしまっているが、おそらく手紙か何かだろう。
缶の蓋が外れて、牛田は満足そうな顔をしていた。部室にいる全員の視線の中心に、二十六年前から届いたメッセージがあった。
田崎が、「先生、どうぞ」と言った。
その言葉に夢ちゃん先生が、目が覚めたように瞬きをして「あ、はい」と返事をして手を伸ばした。缶を取り上げ、ひっくり返すと中の紙がコピー用紙の上にパサリと落ちた。
「個人的なメッセージでしょうから、先生だけがみてください」
僕には予感があった、きっと三語だ。硬派な高校生は、口ではあまりに照れ臭い言葉を手紙で伝えたのだろう。それは皆の前で公表するにはあまりにも個人的に思えた。
「構わないのよ。もう昔のことだし、とっくに時効だから」
夢ちゃん先生も同じような予感があるのだろう、僕の気遣いにそう返した。しかし、そうは言ったものの夢ちゃん先生は僕たちからは内側が見えない角度で紙を開いた。小さな箱に入るように六折りにされた紙が開かれ、先生はそのメッセージを見た。
緊張していた表情は、メッセージを見た途端に困惑したものに変わり、夢ちゃん先生は「まただわ」とつぶやいて内容を皆に見えるようにこちらに向けた。
シミに覆われて全体に変色してしまった便箋だった。その中央部分に、大きな文字で三文字だけが記されていた。三語ではなくて、三文字だけ。
僕が想像したものとは全然違っていた。
そこには、「GD E」とあった。




