タイムカプセル
「それもなんだか得意そうな表情で、だったわ。よっぽど考え抜いた謎解きだったのだろうけど」
「謎は解けなかった、ですか」
僕の言葉に夢ちゃん先生が頷いた。
「そ、それで、どうなったんですか? 彼に答えは教えてもらったんですか」
田崎が胸の前で両手を合わせて祈るように聞いた。
しかし、ここにこうして手紙を前にして僕たちがいるのだからそうでない事は明らかだ。
「手紙をもらって二日後に、彼は消えちゃった」
僕たちに向かって投げ出された先生の言葉で、僕の背中に冷たいものが流れた。
「違う違う、亡くなったとかそこまでひどい話ではないの」
僕たちの表情がよほど厳しかったのだろう、夢ちゃん先生はとりなすように手を振りながら言った。
「手紙をもらった翌日に廊下ですれ違った時は、私の表情から謎が解けていないのがわかったのか、得意そうに笑っていたの。でも翌日、彼は学校に来なかった。急に引っ越したって、後で同じクラスの子に聞いたわ」
「なんで」
田崎ゆみこは泣きそうになっている。
夢ちゃん先生が、女子高生から学校の先生の表情になった。
「昔、バブルって呼ばれたほど景気がいい時期があったの。1980年代がその時代で、それが終わってからは景気がとても悪い時代がずっと続いて、1990年代後半にはその状況が一層悪くなった。失われた数十年、って聞いたことあるかもしれないけど」
僕たちは頷いた。
「デフレ、っていうんですよね」
「そう、景気が悪くなって物価が下がっていった時代」
先生は僕の言葉に頷いて補足説明を加えると、続けた。
「沢山の会社が潰れたわ。自殺、夜逃げ、そういうことがとても多くなった。彼の家も、」
先生の表情が一層厳しいものになった。何かの痛みに耐えているような、そんな表情だった。
「彼の家もそういう家の一つだったかもしれない。今となってはもう分からないけれど。とにかく、彼とはそれきり。私は後生大事に手紙を抱えていたの。結婚した時に捨てても良かったけれど、捨てることができなかった」
窓の外には夕闇が降りて、会議室の中の様子がスクリーンに投影されるように映っていた。こちらの夢ちゃん先生は女子高生の表情に戻っているように見える。向こう側の僕も同じ気持ちで夢ちゃん先生の話を聞いているのだろうか、そんなことを考えた。
「タイムカプセルみたいに思えたの。むかしむかーしの私の気持ちを封じ込めたタイムカプセル」
隣で田崎がハンカチで鼻をおさえる音が、悲しげに響いた。




